作品タイトル不明
猪豚の葉包み焼き
翌日、ガルさん、ウルガス、リーゼロッテを食事に誘った。もちろんザラさんやアメリアも一緒である。
場所はいつもの食堂の個室。
「すみません、いきなり誘ったりして」
「いいですよ。ここの食事、美味しいので」
明るく言ってくれるウルガス。良い奴だ。
ガルさんとリーゼロッテも、快く承諾してくれた。ついて来てくれたザラさんにも感謝だ。
「あ、そうそう。さっきここに来る前に、雑貨屋でこれを見つけて」
ウルガスが差し出したのは、チョコレート色のリボン。落ち着いていて、上品な色合いの物だ。
突然ガタリと、立ち上がるザラさん。ジロリとウルガスを睨んでいる。
「ジュン、それ!」
「アメリアさんに似合うと思って」
「え? アメリアに?」
「はい!」
ウルガス……アメリアのためにリボンを買ってくれるなんて。ちなみに、ジュンというのはウルガスのお名前。ザラさん以外呼ばないので、忘れがちだ。
「このリボン、尻尾とかに結んだら、可愛くないですか?」
「いいですね」
しゃがみこんでアメリアにリボンを見せる。
「アメリア、ウルガスがリボン買って来てくれましたよ」
『ク、クエクエ!』
アメリアは「こ、こんな品物で、気を許すと思っているの?」と言っていた。
「いや、ウルガスはアメリアを触りたいからあげたんじゃないですよ。純粋に、似合うと思って買ってきたんです」
『ク、クエエ~』
勘違いだとわかり、恥ずかしそうにしていた。そして、ぽつりと呟く。「だ、だったら、つけてあげなくもないけれど」と。よかった。
早速、尻尾に結んであげる。
「うわあ~、可愛いですね!」
ウルガスに褒められ、「ふふん」と満更でもないご様子のアメリア。私も今度、リボンを買ってあげようかな。妹達にも送ってあげたい。あと自分の分も欲しい。
「この前の羽根のお礼でもあるんです。綺麗で、部屋に飾っているんですよ」
ですって、と伝えたらアメリアはもじもじと照れているようだ。
「アメリア、そろそろウルガスを許しては?」
『クエ~』
別に許すとか、嫌いだとか、そういう感情はないらしい。ただ、「でも、恥ずかしいから……モフモフはだめ」とのこと。なんだろうか、この初々しい恋模様を見ている感じは。気のせいだろうけれど。
「あ、すみません。食事にしましょう」
メニューを広げ、何を食べようかと考える。
まず、アメリアには果物の盛り合わせに、最近始めたらしい幻獣メニューの 蜂蜜(ミエレ) 水を頼む。
私は猪豚の葉包み焼を注文。リーゼロッテも同じ物でいいと言っていた。ガルさんは三角牛の炙り焼き、ウルガスは肉野菜定食、ザラさんは猪豚のシチューを頼んだ模様。
本日のパンは 蜂蜜(ミエレ) を生地に練り込んだうずまきパンらしい。楽しみだ。
ほどなくして、料理が運ばれてくる。
猪豚の葉包み焼は大きな葉っぱに肉と香辛料を包み、蒸し焼きにした物。紐で可愛らしくリボン結びされていた。
紐を解くと、ふわりと葉のさわやかな芳香が漂う。お肉と一緒に根菜類やキノコ類も包まれていた。
ナイフを入れると、すっと簡単に入っていく。驚くほど柔らかい。一口大に切り分けて食べる。
口にすれば葉の香りが鼻孔を抜け、噛めば肉汁がじわりと溢れる。香辛料を振っただけのシンプルな味付けだったけれど、野菜の甘味も染み込んでいてなんとも美味。
「驚いたわ。葉っぱに包んだお肉って、とっても美味しいのね」
「ええ、本当に」
庶民の料理も侮れないと、リーゼロッテは感嘆していた。
蜂蜜(ミエレ) パンは優しい味わいだ。蜜の部分を噛むと、コクのある甘味が口の中にじゅわっと広がる。今度、 砂糖楓(アルセ) を練り込んだパンとか作ってみようかな。ひと瓶金貨一枚なので、調理のさいに手が震えそうだけれど。
食後のゼリーを食べながら、本題に移ろうとしたが――
「スライム……」
隣でリーゼロッテが、ぼそりと呟く。
そうだ。ゼリーの原料はスライムだったんだ。すっかり忘れていた。
他の人は平然と食べている。強い。
「そういえば、スライム工場ってどうなったのでしょうか?」
「再開されているらしいですよ。 膠(にかわ) は異国でも人気のようで、生産中止になったら経済に打撃を与えるそうな」
「な、なるほど」
職員を倍に増やし、結界も十分に張った状態で稼働再開しているらしい。騒ぎに巻き込まれた私達は微妙な気分だけれど。
「スライムと言えば、あの人、魔物管理局の局長が昼間、来ていたわね」
「そうなんですね」
どんな人かと聞いたら、怪しいおじさんだったと感想を漏らすリーゼロッテ。やはり、あの界隈のおじさんはそういう生き物なんだろう。
「なんの用事だったのかしら?」
ここで、ガルさんが腰ベルトに装着してある小物入れから、瓶を取り出して卓子の上に置く。
「え?」
「うわ!」
「信じられない!」
『クエ?』
瓶の中に入っているのは、プルプルと震える無色透明の――スライム!
「あれ、これってスライム工場の元工場長、アレキサンダー・レートさんの『スラちゃん』じゃないですか?」
ウルガスの指摘に、コクリと頷くガルさん。
なんでも、アレキサンダー・レートが騎士隊に逮捕され、世話をする者がいなかったので、 鷹獅子(グリフォン) がいる第二部隊に託されたのだとか。
ガルさんにお世話を押し付けるなんて、酷い話だ。
魔物研究局の職員は、各々専門の魔物がいて、それ以外には興味を示さないらしい。なので、スラちゃんの世話をする人がいなかったようだ。
スラちゃんは瓶の三分の一くらいの量で、プルプルと震えている。
ちなみに、食事は一日三回。コップ一杯の水でいいらしい。
ガルさんはお冷を手に取って瓶の蓋を開けると、中の水をすべて瓶に注いだ。
すると、ぶるぶると激しく震え、水分を取り込んでいくスラちゃん。水をすべてのみ、ケプーと息を吐く。
食事の世話と、一日一回の散歩をするだけだとか。散歩中は、魔法研究局が開発した、魔物用散歩紐を使うらしい。
魔物研究局より特別手当が出るようなので、ガルさんは引き受けたと話す。
「でも、失礼な人達ね。こんなことを頼むなんて」
「まあ、魔法研究局や魔物研究局の人達に常識を求めたら負けなんだろうなと」
それに引き換え、幻獣保護局はなんと平和なことか。彼らはただ、幻獣を愛で、保護のために尽くしているのだ。誰にも迷惑を掛けていない。
侯爵様も、そこまで悪い人ではないのではと、思ったりもしている。
ここの食堂に幻獣用メニューができたのも、私達が通っているのを知っていたからだろう。
アメリアはリボンを結んだ尻尾を振りながら、「蜂蜜水美味しいね」と言っていた。
「それでメル、話って?」
「あ、そうでした」
スライム話ですっかり盛り上がってしまった。
前置きが長くなってしまったが、私の魔力についての話をする。
「実は、この前魔力測定晶で正しい魔力値を量ったのですが、赤色に染まってしまいまして」
「なんですって!?」
ガタリと、リーゼロッテは立ち上がり、驚きの表情で見下ろす。
「魔力を抑制する魔道具……いや、魔技巧品じゃないと、赤色なんて……」
「そんな高価な品、持っていないです」
「嘘……!」
ここで、驚愕の事実が発覚する。
通常、多大な魔力を有する子どもは、体内の魔力を上手く管理できずに、病弱だったり、癇癪もちだったり、魔力暴走を起こしたりと、自らや周囲に多大な影響を及ぼすらしい。
そこで、魔力の力を抑える効果がある、魔道具や魔技巧品を装備する。
魔道具は道具に呪文を刻み、祝福を与えた物で、魔技巧品は未知なる技術を用いて作られた、貴重な魔道具。双方高価で、庶民が手に入れることなど困難な品々なのだ。
「だったら、メルは自分で魔力を制御していたってこと?」
「わかりません。というか、いまだに魔力測定晶の量り間違いではと思う時もあります」
ザラさんの魔力測定晶は壊れてしまったので、再測定はできなかったのだ。
「――わかったわ。だったら、わたくしの家について来てくれるかしら?」
「まさか、侯爵様にご相談ですか?」
「ええ。魔法研究局の局員よりは、信頼できると思うの」
「あ、でも、隊長がまず話をしてくれると言っていて」
「命にかかわることだから、早いほうが良いわ」
私はリーゼロッテの提案を受け入れる。
というか、ありがたい話だった。