軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

荷物に保存食を詰め込んで

今回の任務はカルクク湿原というところに行き、人食い蜥蜴を退治してくるようにとのこと。

現場へは馬車で行く。濃い霧が立ち込める湿原で、沼地になっているところもあり、馬では入れないらしい。

さっそく準備に取り掛かる。

今回、新作の野菜の酢漬けに、乾燥麺、炒った木の実や野菜の種、塩漬け猪豚肉などを鞄に詰め込む。

「なんか温かくて美味しい物を食べましょう」

「楽しみにしています」

雪は積もっていないけれど、かなり寒いらしい。今回は野営用の天幕を持って行くとか。

夜はベルリー副隊長にくっついて寝ようと思う。

「そういえば、リスリス衛生兵。本当にアメリアさんを連れて行くのですか?」

「はい。残念ながら、私が傍にいないと寂しがるので」

ザラさんの 山猫(イルベス) みたいに、どこかで大人しくお留守番をしてくれたらいいんだけど、 鷹獅子(グリフォン) の性質上、難しいのはわかっていた。

「大変ですね」

「まあ、成獣になったら少しはマシになるらしいので」

しかし、謹慎明け一日目から遠征任務だなんて。きっと、遠征部隊に泥を塗ったと、上層部はお怒りなのだろう。仕方のない話であるが。

幸い、 鷹獅子(グリフォン) 用の保存食も保管庫に入れておこうと持って来ていたのだ。

「へえ、 鷹獅子(グリフォン) の保存食は、干し果物なんですね」

「ええ。これ、商店の奥に並んでいる、高級品ですよ」

「ひえええ、俺、食べたりしたら唇腫れそう」

「ですよね」

生の果物も、休憩室に置いておこうと思い、一箱持って来ていたのだ。しっかりと、鞄に詰める。

果物の香りがしたからか、アメリアが近付いてきて、鞄の中を覗き込んだ。

『クエ?』

「お出かけの準備ですよ」

果たして、馬車で大人しくしているのか。現地でも。心配だ。

一応、アメリアの翼や背などに鼻を近づけ、すんすんと嗅いでみる。毎日体は拭いてあげているけれど、念のため。

不思議なことに、まったく獣臭くない。果物しか食べていないので、体臭は甘いのだ。幻獣の不思議である。

「しかし、アメリアの荷物だけで大変な量になりました」

「持つの手伝いますよ」

「ありがとうございます」

ウルガス、良い奴。

荷造りが終われば、外に向かう。トコトコと私のあとをついて来るアメリアを振り返りつつ進んでいたら、執務室から何やら騒がしい声が。

「いきなり来ても困るんだよ!」

「わたくしは許可を得て、ここにいるの!」

なんだか、聞き覚えのある声がする。

私とウルガスは顔を見合わせ、そのまま通過しようとしたが、扉が内側より勢いよく開いた。

「止めても無駄だから! ……あら、あなた」

「ど、どうも」

執務室で隊長と言い合いをしていたのは、幻獣保護局の女性。私の裸を確認しにきた、眼鏡を掛けた知的美人のお姉さんだ。

今日は白衣ではなく、騎士隊の制服に身を包み――って、なぜ?

「あ、あの、何かご用で?」

嫌な予感しかしないけれど、一応聞いてみる。

「わたくし、 鷹獅子(グリフォン) の護衛をするために、騎士団に入ったの」

「ええ~~!?」

なんてこった!

まさか、ここまで愛が突き抜けているとは。幻獣保護局の恐ろしさを知る。

女性は手に杖を持っていた。もしかしなくても、魔法使いだろう。

「も、もしや、回復術師ですか?」

「なぜ、そう思うの?」

「うっ、それは――」

回復魔法に対して劣等感を抱いているなど、恥ずかしくて言えるわけがない。

「回復術師じゃないわ。言ったでしょう。護衛をしにきたと」

ということは、攻撃魔法の遣い手ということなのか。

びっくりしたけれど、よくよく考えれば、今までみたいに遠征先で一人取り残された場合、魔物が近寄って来たら、アメリアと一緒に逃げなければならない。

私に戦う術はなく、もしも逃げ切れなくて襲われた場合、守れる手段など何もないのだ。

だから、護衛がいれば心強いかもしれない。

「おい!」

隊長が執務室からぬっと顔を出す。こちらに来いと、手招きされた。

部屋にはベルリー副隊長、ガルさん、ザラさんがいた。

「……新しい、仲間だ」

隊長は不愉快極まりないといった表情で紹介する。

「わたくしは炎術師のリーゼロッテ・リヒテンベルガー。 鷹獅子(グリフォン) を守るため、騎士隊に来たの」

改めて、紹介された。

それにしてもリヒテンベルガーって、どこかで聞いたことがあるような。

首を傾げる私を、リーゼロッテさんは目を細めて眺めている。

あの、神経質そうな眼差しも、覚えがあるような……。

「――あ!!」

思い出した。リヒテンベルガーは侯爵家!

侯爵と言えば、幻獣保護局の局長。

リーゼロッテ・リヒテンベルガーって、局長の娘さんなのか。念のため、質問してみる。

「ええ、そうよ。幻獣保護局の局長はわたくしのお父様」

思わず「この、似た者親子が!」と叫びそうになった。ぐっと我慢したけれど。

もしも、リヒテンベルガー家に養子に行ったら、リーゼロッテさんがお姉様になるというのか。そして、局長がお父様。

いやいや、ありえない。家の中が息苦しくて、たまらないだろう。

しかしながら、このお嬢様然とした女性は遠征についてこられるのか。

「あの、遠征って、お風呂何日も入れないですし、厠なんてないですし、食事も良い物は食べられないですよ。野営だって、虫に刺されたり、夜の見張り番があったりで大変ですし」

「わかっているわ。すべては 鷹獅子(グリフォン) のため。覚悟の上だから」

ふうむ。なるほど。耐えて見せると。

隊長は弱音を吐けば、その場で除隊してもらうと、厳しいことを言っていた。

「意地でもついて行ってみせるわ」

ちなみに、遠征任務が入っていると知っていたらしく、保存食など持参してきたらしい。なかなか抜け目がない。

「目的はなんだ?」

隊長が呆れたように、リーゼロッテさんに問いかける。

「幻獣の周知徹底と、人と共存の証明」

「それは、お前達の都合が良いように、幻獣を利用したいということか?」

「違うわ。幻獣が優しい生き物で、人と幻獣がわかり合えるということを、わたくしは示したいの」

局長は頭が固く、保護第一にしか考えていないらしい。

保護区に閉じ込めるだけではなく、幻獣と生きる道があるのならば、それを模索したいとリーゼロッテさんは主張しているのだ。

この件について、局長がどう思っているのかと隊長が聞けば、知らないと答える。

どうやら、言い合いをした結果、幻獣保護局を飛びだし、騎士隊へ入隊したようだ。困ったお嬢さんである。

「盛大な親子喧嘩に、第二遠征部隊を巻き込んだというわけね」

「なんですって!?」

ザラさんに詰め寄るリーゼロッテさん。

美人同士のにらみ合いはなかなか迫力がある。

「音をあげるのが楽しみ」

「そんなこと、するわけないじゃない」

「どうかしら?」

「見ていなさい」

ベルリー副隊長が立ち上がり、ザラさんとリーゼロッテさんの間に入って仲裁する。

隊長は凄まじく顔を顰める山賊顔でいた。

ガルさんは切ない表情で、明後日の方向を見ている。

ウルガスと私はどうしてこうなったのだと、頭を抱えるばかり。

これからいったいどうなるのか。

けれど、戦力的には魔法使いの存在は非常に助かるだろう。

魔法使いは世界的に数が少なく、多くの術師は研究職を希望するのだ。

ほんの一握りの騎士隊に入隊する魔法使いは、自分で配属先を選べる。多くの場合、手取りが多い近衛部隊に行ってしまうのだ。

遠征部隊では回復魔法を得意とする衛生兵の術師はいるみたいだけれど、攻撃魔法の遣い手はいなかったような。

新しい仲間が増えたことは、喜ぶべきことだろう。

私は改めて、リーゼロッテさんに挨拶をした。

「あの、メル・リスリスです。衛生兵です。どうぞ、これからよろしくお願いします」

「え、ええ」

「あと、この子はアメリアと名付けました」

一応、名付けの儀式を以て、契約を結んだことを報告する。手の甲の刻印も見せれば、驚いた顔を見せていた。

「こ……」

「こ?」

リーゼロッテさんの顔を覗き込む。目が合えば、さっと逸らされた。

顔が真っ赤だった。

「あの、何か?」

「この前は、疑ってごめんなさいって、言いたかっただけ!」

記憶に新しい、お風呂での契約刻印検査。

皆裸になって、風邪を引くまで確認をして。

今思い出せば、 滑稽(こっけい) で笑ってしまう。

「わかりました。あの件は水に流します」

私はリーゼロッテさんの謝罪を受け入れる。

幻獣を守る者同士、いがみあっている場合ではないのだ。

「一緒に 鷹獅子(グリフォン) を守りましょう」

手を差し出せば、リーゼロッテさんは握り返してくれた。