作品タイトル不明
侯爵様とバカンスを 中編
バカンスへ行くメンバーが決まった。
リヒテンベルガー親子と、第二部隊の面々、ザラさん、ミル、幻獣達にスラちゃん、アルブム、ニクス、そしてアイスコレッタ卿とアリタ――という大所帯となった。
なんでも、リヒテンベルガー家の南の島に、アイスコレッタ卿は上陸したことがあるらしい。そのため、転移魔法で移動できると。
馬車で行く予定だったので、みんな喜んでいた。
アイスコレッタ卿の過去における上陸は不法侵入であるものの、寛大な侯爵様はお許しになっていた。
そんなわけで、思っていた以上に大所帯となる。
食材もたっぷり用意しなければ。
侯爵様は幻獣用の果物を、嬉々として用意していた。
そして、バカンス当日となる。皆、旧エヴァハルト邸に集合した。
ザラさんは麦わら帽子に、白いワンピースと完璧なバカンスの服装であった。
私も同じものを作ってもらった。お揃いって、なんだか照れる。
その一方で、侯爵様は全身黒という、いつもの恰好である。ただ、よくよく見たら、被っているシルクハットは黒く塗った麦わら帽子だった。
なんだ、その微妙なバカンス仕様は。
そんな侯爵様は、嬉しそうに集まった幻獣を眺めていた。
今回、幻獣だけでも大変な頭数である。
いつもは留守番をしているエスメラルダも、アメリアやステラに誘われてしぶしぶ参加しているようだ。
しかし、昨晩はバカンスだから丁寧に櫛を入れるようにと命じていたので、心の奥底では楽しみにしていたのかもしれない。
アイスコレッタ卿はいつもの全身鎧姿であったが、首には赤や黄色の花で作った花輪をかけている。侯爵様と同じく、南国仕様であった。
ミルは初めての南の島でのバカンス。ウルガスと嬉しそうに、果物割りをしようと盛り上がっていた。
隊長やガルさんは、奥さんと一緒だ。初めて会うアリタが、どうもどうもと挨拶している様子はなんだか不思議な光景であった。
「では、転移するぞ」
アイスコレッタ卿の一声で一カ所に集まる。転移の呪文が紡がれると、巨大な魔法陣に囲まれた。
パチパチと瞬きする間に、南の島に到着する。
澄みきった空に白い雲、白い砂浜に、どこまでも続く青く美しい海。
「うわーーーーーー、きれい!!」
叫んだのは、ミルだった。一応、王都まで船でやってきたのだが、普通の海と南の島の海は別物だろう。
きゃっきゃ言いながら跳ね回っている。
「侯爵様、南の島で過ごすにあたり、禁止事項などはありますか?」
「特にないが、虫や蛇がいるから注意しておけ」
「了解です」
「島の中の果物は、好きに食べるとよい。もちろん、もいだものも用意しているが」
「ありがとうございます」
すぐに、解散となる。各々好きに過ごしていいようだ。
隊長は奥様の命令で、日よけの傘を立てていた。白い肌を美とする女性にとって、大事なものだろう。
ミルとウルガスは、海水をかけあって遊んでいた。
ステラは初めて踏みしめる砂浜の感触を、面白がっているようだった。普段は大人しい彼女であったが、今日ははしゃいでいた。その様子はあまりにも可愛い。
そんなステラを、リヒテンベルガー家の親子は嬉しそうに眺めていた。
エスメラルダは、隊長が立てた日よけの傘の下で優雅にくつろいでいる。なんというか、自由だ。
ブランシュとノワールは、砂浜で追いかけっこを始めている。元気なものである。
『肉ハ、一口大ニ、切ルヨオ!』
『きゅん!!』
『にゃう!!』
アルブムの周囲を、ルーチェとパンケーキが囲んでいる。何をしているのかと覗き込んだら、肉を切って串打ちしていた。もう、バーベキューをするつもりらしい。気が早すぎる。
「メルちゃん、私達はどうする?」
「明るいうちに、果物を取りに行きません?」
「いいわね!」
子ども達を見守る保護者のような視線で周囲を眺めていたベルリー副隊長に声をかけてから、木々が生い茂るほうへと進んでいった。
「こっちは、涼しいわね」
「本当に。海のほうは、熱した鍋の上にいるようでした」
少し足を踏み入れただけで、果樹を発見した。
「あ、あれは、 芒果(マンゴー) !」
王都で買ったら、銀貨一枚という高級果物だ。そんな芒果が大量になっているなんて。
そこまで高くないので、手を伸ばしただけで採れる。
「けれど、高いところにあるほうが、熟れているわね」
「じゃあ、木に登ってみます」
「メルちゃん、危険よ! 私が登るわ」
「ザラさん、木登りできるのですか?」
雪国出身のザラさんに、木登りをするイメージはない。
「あまり、得意ではないけれど」
「だったら、ザラさんが私を肩車するのはどうでしょう?」
「それだったらいいわよ」
「では、お願いします」
しゃがみ込んだザラさんの肩に座る。
ザラさんが私の太ももを掴んだ瞬間、ふたり同時にハッとなる。
大変な問題が生じていた。
「待って、メルちゃん! メルちゃんスカートだから、大変な状況になっているわ!」
「本当ですね!!」
とりあえず、肩車作戦は中断となった。