作品タイトル不明
リスリス、ザラの実家に行く! その二十一(終)
お姉さん達やご両親と一緒に、朝食を囲む。
昨晩、アルブムがパンケーキの歌を歌っていたようで、ザラさんのお母さんが王都風のふわふわパンケーキを焼いてくれたらしい。
アルブムは尻尾をぶんぶん振って、喜んでいた。
『アリガトー!! パンケーキノ、オ母サン!!』
なんだ、パンケーキのお母さんとは。
アルブム、面白い奴、と思ってしまった。
ザラさんのお母さんは、たくさん食べてね、と言ってくれる。なんて優しい人なのか。
アルブムには、「ほどほどにしておきなさい」と、釘をしっかり刺しておいた。
パンケーキには、ベリーの砂糖煮込みと、長毛牛のチーズクリームをかけて食べる。
ベリーの砂糖煮込みは甘酸っぱく、長毛牛のチーズクリームは驚くほど濃厚。
パンケーキはふわふわで、朝から幸せな気分になった。
お姉さん達がいると、ザラさんとお父さんは大人しくなっていた。端のほうで、気配を消しているようにも思える。
ザラさんは久しぶりに帰ってきたのに、女性陣だけで話が盛り上がっていた。
「それにしても、朝から押しかけなくてもいいのに」
ザラさんのお母さんが、呆れたように言う。
「だって、宿屋のおじさんが、ザラが可愛い子を連れ帰ってきたって言っていたものだから」
「私も、その話を聞いて、すぐに会いに行かなければって思ったの」
「私は、姉さん達に聞いて、会いに行こうと」
三人のお姉さん達は村の男性と結婚し、それぞれ徒歩二十分圏内の場所に住んでいるらしい。
それにしても、噂の広まり方が早すぎる。
その辺はまあ、フォレ・エルフの村も似たようなものだが。皆、他人の噂話が最大の娯楽なのである。
「ねえ、メルさん。ザラの、どこを好きになったの?」
「それ、私も聞きたい!」
「顔じゃないわよねえ。すっぴんは、こんなに怖いんですもの」
ザラさんの美しすぎる素顔……想定外だった。
なんでも、見た人達がギョッとするので、化粧で整えないと、と思っていたらしい。
その“ギョッ”は、あまりにも美しいからだろう。その辺を、ザラさんはあまり理解していないようだった。
「姉さん達、メルちゃんに絡むのは止めて!」
「いいじゃないの」
「減るもんじゃあるまいし」
「あなたも、気になるでしょう?」
ザラさんは申し訳なさそうに、私を見る。言葉がなくとも、「止められなくてごめんなさい」と謝罪しているのがわかった。
こうなったら、昨日のお返しとして、ザラさんの好きなところを大発表しよう。
「私は、ザラさんといると、とっても楽しくて、癒やされるんです。それに、尊敬もしていて、私もザラさんみたいになりたいなって、常に思っておりまして」
だんだん恥ずかしくなってくる。お酒が入っていないのに、こういうのを言おうと思ったのが間違いだったのか。
チラリと、お姉さんやご両親を見たら、目を潤ませていた。
「ザラ、あなた、本当に良い 娘(こ) と出会ったのね」
「なんだか、安心したわ」
「ザラ、メルさんを、裏切るようなことはしないのよ」
「するわけないじゃない」
ザラさんはにっこり微笑みながら、「これからもよろしくね」と言ってくれた。
◇◇◇
太陽が顔を覗かせたら、外に出て雪遊びをする。
『ヤッホーイ!!』
『さらさらなのねん!!』
アルブムとニクスが、雪に飛び込んでいた。
私も、同じように飛び込む。
「ふわーーー!!」
雪がサラサラ過ぎて、どんどん体が沈んでいく。
起き上がれなくなり、ザラさんが助けてくれた。
「メルちゃん、大丈夫?」
「はい。びっくりしました。思っていた以上に、サラサラですね」
「そうなのよ。私にとっての雪はこれだから、王都の硬い雪を見たときには、驚いたわ」
普通、雪を掬ってぎゅっぎゅと握ったら雪の玉ができる。けれど、ここの雪はいくら握ってもサラサラのままなのだ。
アルブムは海を泳ぐように、雪の中をジタバタと進んでいた。
ニクスは、パクパクと口を動かし、粉雪を鞄の中へ入れている。あれは、何に使うのか。
雪で遊んでいたら、ザラさんのお母さんが、小さな樽を持ってきてくれた。
「それはなんですか?」
「これで、アイスクリームを作るのよ」
樽の中に粉雪と塩を詰め、牛乳と砂糖、生クリームを混ぜたものを瓶に入れてしっかり栓をしたものを入れるらしい。
「あとは、この樽を蹴って回るのよ。三十分くらいで、アイスクリームができるわ」
「わー! おいしそうです!」
そんなわけで、さっそくアイスクリーム作りを開始する。
ザラさんと一緒に、樽を蹴って回った。
だが、十分ほどで疲れてしまう。
「これ、けっこう、きついですね」
「子どもの遊びなのよ」
これで、子どもを疲れさせるらしい。雪が深いと、できる遊びも少ない。遊び足りないと、夜寝付きが悪くなるので、こうやって遊ばせるようだ。
途中から、アルブムにも協力してもらった。
アイスクリーム作りだと言えば、積極的に参加してくれた。
三十分後――アイスクリームが完成する。
「わー、本当に、アイスクリームができています」
『ヤッタネ!』
「家の中で食べましょう!」
「はい!」
暖炉の前で、アイスクリームを食べる。
長毛牛のアイスクリームは、驚くほどなめらかで、味わいは濃厚だった。
「これが、冬の楽しみだったのよね」
「ああー、いいですねえ」
このようにして、ザラさんの実家での滞在は楽しいことばかりだった。
あっという間に過ぎ、別れの時間となる。
「ザラ、メルちゃんを、大事にするんだぞ」
「王都で、無理をしないでね」
「父さん、母さん、ありがとう」
ご両親は、私にも優しい言葉をかけてくれた。
「メルさん、また遊びにきてくれ。いつでも大歓迎だから」
「メルさん、お体に、気を付けて過ごしてね」
「はい、ありがとうございます」
かならず、再訪することを誓った。
再び、レインディアの引くソリに乗って駅を目指す。
帰りの道のりは、あっという間だった。
本当に、楽しい旅だった。
また行きましょうねと話をしながら、私達は無事、帰宅をしたのだった。