作品タイトル不明
リスリス、ザラの実家へ行く! その十二
それにしても、すごい。この毛皮の外套、温かすぎる。
顔は寒いが、体はぜんぜん寒くない。さすが、雪国で生きる獣の外套である。
「さあ、行きましょうか!」
「あ、メルちゃん、ちょっと待って」
「なんでしょう?」
「雪の上を歩くときは、これを装備しなければいけないの」
ザラさんが差し出してきたのは、板状の何か。
「これは?」
「 雪板靴(スノウ・シュウ) よ。これがないと、雪の中に足が埋もれてしまうのよ」
「そ、そうなのですね」
「ごめんなさい。先に説明しておくべきだったわ」
積雪は、なんと膝丈以上。場所によっては、全身が埋まってしまうほど積もっているらしい。
この雪板靴を履いたら、足が沈まずに済むようだ。
雪板靴は、靴の一回りほど大きな板状の装備。靴を乗せて、ベルトでぎゅっと縛る。
「メルちゃん、大丈夫? きつくない?」
「はい、大丈夫です」
「最初は、慣れないかもしれないから、ゆっくり行きましょう」
「了解です」
まず、ザラさんの歩き方を参考にする。ごくごく普通に、一歩を踏み出した。
雪国生まれのザラさんにとって、雪の上は普通の道を歩いているようなものなのだろう。
「メルちゃん、おいで」
「は、はい」
手を差し出してくれたので、ありがたく握らせてもらった。
こわごわと、雪原に一歩踏み出す。
「わっ、ふわっふわですね」
「でしょう?」
ザラさんにしがみつきながら、一歩、一歩と進んでいく。
もふもふ、ふわふわ。今まで歩いたことがない、感覚だ。これが、本気の雪国。
しばらく歩くと、周囲の様子を見る余裕ができた。
「お店が、何軒かありますね」
「王都の港に比べたら、少ないけれど。これでも、この辺りで一番栄えている街なのよ」
「そうなのですね」
人通りはないが、店の中には人の姿がちらほらあった。室内は暖炉の火があって、暖かそうに見える。
観光できている人が珍しいのか、チラチラと視線を感じていた。
「メルちゃん、大丈夫? 寒くない?」
「平気です。この毛皮の外套のおかげですね」
「よかったわ」
雪は降っていないが、空は灰色を通り越して白い。不思議な空の色である。
「私の村を見たら、何もなくて驚くわよ」
「大丈夫ですよ、ザラさん。フォレ・エルフの村を、思い出してください。同じような雰囲気ではないですか?」
「そうね。そうかもしれないわ」
そんな話をしているうちに、食堂にたどり着いた。
白いペンキが塗られた木造のお店で、吹雪のときは見つけられないのではと思ってしまう。
店内は温かい。が、外との温度差で、今まで冷たかった顔が痛くなった。
「ひいい……顔が痛い!」
「この、顔のヒリヒリも、久々だわ」
外套を脱ぎ、出入り口の近くにある獣の角にかけた。
「メルちゃん、このお店は、レインディアの料理を出すお店なの」
「レインディアって、私達をザラさんの家まで送ってくれるという、獣ですか?」
「そう」
まさか、生きているレインディアに会う前に、料理として出会うなんて。
なんでも、雪国で飼育できる、数少ない使役獣であり、家畜であるそうだ。
「この外套も、レインディアの毛皮で作ったものなのよ」
「そうだったのですね」
料理として出会う前に、外套として出会っていたようだ。
席につくと、アルブムがニクスの中から顔を出し、部屋が暖かいことを確認すると這い出てきた。
『フィー、寒カッター!』
「アルブム自慢の毛皮でも、寒いですか?」
『ウン、チョットネエ』
スープを飲んで、ほっこりしたい。
注文は、ザラさんに任せた。
「だったら、レインディアのスープに赤ワイン煮込みにしましょう」
「はい!」
アルブムはお腹がペコペコなようで、マフラーを外してナプキンを首に巻いている。たくさん食べるぞという気合いが、見て取れた。
「お客さん、私達以外にいないですね」
「この通り、雪が深い時季だから、観光客も寄りつかないのよねえ」
春から夏にかけては、貴族が保養にやってくるらしい。秋から冬は、閑散としているという。
アルブムがハッとなり、立ち上がる。それと同時に、店員さんが料理を運んできた。
「お待たせいたしました、レインディアのスープと、ワイン煮込み、付け合わせと、パンケーキです」
『パンケーキ!?』
アルブムの瞳がキラキラ輝く。が、店員さんがテーブルに置いたパンケーキを見て、首を傾げていた。
生地を薄く焼いた、クレープみたいなペラペラしたものが積み上がっている。
「ごゆっくりどうぞ」
店員さんが去ったあと、ザラさんがパンケーキについて解説してくれた。
「この地方のパンケーキは、薄いのよ。味は、パンケーキと同じよ。こうやって、食べるの」
ザラさんはお皿にパンケーキを取り、上にレインディアのワイン煮込みと、潰した丸芋を添えて包む。それを、ナイフで切って食べるのだ。
「わっ、おいしそうです!」
『アルブムチャンモ、好キカモ!』
まずは、スープを飲む。これはレインディアの骨と香味野菜を煮込んだすましスープである。シンプルなのに、味が濃い。とってもおいしいスープだ。体が、芯からぽかぽかになった。
そして、メインはレインディアをパンケーキで包む料理。
ザラさんがしていたように、パンケーキで具を包む。
お上品にナイフで切り分けて食べた。
「んん! 生地がモッチモチで、中のお肉はプルプルとろとろ! 付け合わせの丸芋に、ソースが染みこんでいて、とってもおいしいです」
「お口に合ったようで、よかったわ」
アルブムも、夢中になって食べているようだ。
そんなわけで、レインディア料理に舌鼓を打った。
デザートは、レインディアの生クリームと木イチゴの砂糖煮込みが運ばれ、これをパンケーキに包んで食べるようだ。
普通の生クリームよりも、味が濃厚だ。これと、酸味が強い雪国の木イチゴが合うのだ。
お腹がいっぱいになり、満たされた気持ちになった。