軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

リスリス、ザラの実家へ行く! その九

アルブムの紅茶騒動のあとは、ひたすら襟巻きを編む。黙々と作業していたからか、大分進んだ。

「メルちゃん、そろそろ眠りましょうか」

「そうですね」

二段重なっている寝台の一段目には、カーテンがあった。これで、四方を囲めるようになっているらしい。

「着替えるときも、安心ね」

ザラさんはにっこり微笑みながら言う。

遠征のときも、ザラさんは私達女性陣の着替えに気を使ってくれた。

砂漠や熱帯雨林での任務のとき、隊長に休憩時間を申告して、下着やシャツを替える時間を取るよう言ってくれたのもザラさんだ。

「メルちゃん、どうかしたの?」

「あ、いえ。遠征のときに、ザラさんにいろいろ助けていただいたなって、つい思い出しまして。着替えもですけれど、寝やすい場所を野営地に決めてくれたり、いい香りの石鹸を分けてくれたり」

「遠征任務では、いろいろあったわねえ」

「本当に」

なんだか、しみじみしてしまう。

もう、ザラさんは第二遠征部隊の所属ではない。けれど、雨が降れば隊長が「着替えなくていいか?」と聞いてくれたり、ウルガスが「ここ寝やすいですよ」と教えてくれたり。

ザラさんの気遣いを、隊員のみんながしてくれるようになったのだ。感謝しても、し尽くせないだろう。

「遠征任務の話をしていたら、キリがないわね」

「そうですね。寝ましょう」

寝台に上がると、アルブムがぴょこんと跳び乗ってくる。

『アルブムチャン、パンケーキノ娘ノ、隣ー!』

布団の上に着地する前に、ザラさんがアルブムを捕獲した。

「メルちゃんと一緒に眠るのは、ダメ!」

『エー、ナンデー!?』

「アルブムは、男の子でしょう?」

『ソウダケドー……』

遠征のときや屋敷ではパンケーキの娘と一緒に眠っているのにと、アルブムはブツブツ言っている。

『オ 姉(ネエ) オ 兄(ニイ) サンダッテ、パンケーキノ娘ノ、隣デ、眠ッテイルトキアルジャン!』

「遠征と、今は事情が違うわ!」

大雨が降ったとき、大きな天幕の下で一夜を明かしたことがあった。

私の後ろで眠っていたのが、ザラさんだったわけである。

「メルちゃん、遠征任務や普段と今日は、違うわよね?」

「え、ええ。そうですね」

アルブムはさておいて、ザラさんが今、隣で眠ったとなれば、落ち着かない気分になるだろう。

「ザラさんが傍にいたら、ドキドキして、眠れないかもしれません」

「あ――そう?」

ザラさんは驚いた表情をしたあと、頬が赤く染まる。

「ザラさん、どうかしたのですか?」

「私ばっかり、メルちゃんを意識しているものだと思っていたから」

「そんなことないですよ。今日だけで何度もドキドキしていましたから」

「そ、そう。よかったわ」

二段ある寝台の上にいるというだけでも、なんだかソワソワしそうだ。

果たして、今日は眠れるのか。

「じゃあ、メルちゃん、おやすみ」

「はい、おやすみなさい」

ザラさんはアルブムを握り、はしごを使って寝台の二段目に上がっていった。

『パンケーキノ娘ノホウガ、ホカホカデ、眠リヤスインダヨオ』

「悪かったわね、体温が低くて」

アルブムとザラさんの会話が聞こえる。なんだか、仲がよさそうだ。お酒を一緒に飲んでいたといっていたので、前からこんな感じなのかもしれない。

ごそごそと、布がすれる音も聞こえた。それだけなのに、なんだか照れてしまう。

遠征のときにも、背後でザラさんが着替えていることがあったのに。

静かな部屋だからだろうか。耳に入ってしまうのだ。

私も、寝間着にならなければ。雑念を追い出し、素早く着替えた。

眠れるか心配だったが――横になった瞬間に眠ってしまった。

◇◇◇

朝だ。アルブムの『朝食マダー?』という声で目を覚ます。

ザラさんがヒソヒソ声で、「アルブム、メルちゃんはまだ眠っているから、静かにしてちょうだい!」と注意していた。

ザラさんとアルブムは早起きだなと思い、時計をみてみる。すでに、普段だったら出勤しているような時間だった。寝坊である。

急いで着替え、髪を結び、カーテンを開いた。

「あら、メルちゃん、おはよう」

「おはようございます」

ザラさんは朝からお美しい。キラキラ輝いていた。

私はというと、起き抜けの顔をさらしてしまったわけである。

部屋に備え付けてあった洗面所で顔を洗い、歯を磨く。リーゼロッテが作った時短化粧品で化粧し、ザラさんとアルブムのもとへと戻った。

そのタイミングで、朝食が運ばれる。一人一つ、バスケットの中に納められていた。

白い毛並みのネズミ妖精が、持ってきてくれた。

壁に収納されていたテーブルを広げ、朝食を置く。アルブムの分も、人と同じ大きさだった。食べきれないだろうという心配は、不要だろう。

「温かいうちに、食べましょう」

「そうですね」

『ヤッター!』

バスケットを広げると、パンの香ばしい香りがふんわり漂う。

中にはパンと、ソーセージ、ゆで卵に、密閉された筒に入ったスープ、バターにジャムの小瓶、森林檎が入っていた。朝から豪勢なものである。

「わっ、このパン、焼きたてアツアツですね」

「そうね」

パンをちぎり、頬張る。まずは何も付けずに、そのままで。

「これ、おいしいわ!」

「驚きました!」

にっこりと微笑みあう。なんだか、幸せだと思ってしまった。きっと、ザラさんも同じ気持ちだろう。表情を見ていたら、わかる。

しばし、ほんわかした時間を過ごす。

「あのね、メルちゃん。昨日、言いたかったことなんだけれど」

「なんでしょう?」

「私、メルちゃんといると、幸せだわ」

それは私もだ。こっくりと頷く。

「それでね、驚かないでほしいんだけれど――私と、結婚してほしいの」

手にしていたパンを、落としそうになった。

「私で、いいのですか?」

「メルちゃんが、いいのよ」

こんなに嬉しいことはないだろう。心が、震えた。

迷う時間なんてない。すぐさま頭を深々と下げ、「ふつつか者ですが、どうぞよろしくお願いいたします」と返した。

「私も、ザラさんといると、幸せです。ずっとずっと、一緒にいられたら、嬉しく思います」

「メルちゃん、ありがとう」

アルブムがパンを口に咥えた状態で、パチパチと手を叩いてくれる。