軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

リーゼロッテの新しいお仕事 後編

「ザラさんがお化粧の錬金術師って、どういうことなのですか?」

「わたくし、見てしまったのよ。遠征のとき、明け方にごそごそ妙な動きをするザラ・アートの姿を」

「ザラさんは、明け方に何をしていたのですか?」

「お化粧よ!!」

そういえば、遠征のときにザラさんが化粧をしている姿を見たことがない。

見張りを朝方に希望することが多かったので、その時間帯にやっていたのだろう。

「二人共、なんの話をしているの?」

「汗をかいても落ちない、化粧品の話をしていたんです。そういえば、ザラさんは遠征任務をこなしていても、きれいでしたね」

「あら? そうだったかしら?」

「この人、しらばっくれているけれど、ものすごく努力をしていたのよ」

たしかに、あれだけ激しい戦闘をこなしていたのに、いっさい化粧は崩れていなかった。

いったい、どんな化粧品を使っているのか。気になるところである。

「ザラさん、どんなふうにお化粧をしているのか、聞いてもいいですか?」

「ええ、もちろんよ」

ザラさんの化粧講座の始まりである。

「最初に、肌の状態を整えることから始めるの。ホイップクリームみたいにしっかり泡立てた、きめ細やかな石鹸の泡で顔の皮脂や汚れ、汗を落として、ぬるま湯で洗い流す。タオルは清潔なもので、ごしごし拭かずに優しくぽんぽんと押さえるようにして水分を取るのよ。そのあとしっかり顔をマッサージして、顔を整えるの。火照った顔を、冷たい水で冷やすと、化粧のノリもよくなるわ」

もう、この辺から私がいつもしている洗顔と心構えが異なる。

洗顔は朝、目を覚ますためのものだと思っていたが、化粧の下準備みたいなものなのだろう。勉強になる。

「そのあと、化粧水を顔面にひたひたになるまで塗って、少し乾いてきたら美容液を重ねて、低刺激の化粧下地を肌に広げるの。おしろいは、液体と粉末を使って、上から化粧水を拭きかける。すると、化粧が崩れにくくなるのよ」

この時点で、化粧品がズラリと並んでいた。いったい、何種類くらい使っているのか。

「ザラさん、ちなみにこのお化粧は、どれくらいかかるのですか?」

「二時間くらいかしら?」

「に、二時間も!?」

私の化粧なんて、朝十五分くらいでちゃっちゃとやってしまう。

毎朝二時間もかけて、化粧をしていたなんて。ザラさんは本当に、美の化身だ。

「メルちゃんだったら、一時間半くらいでできると思うの」

「いえ、無理ですよ。私、不器用ですし」

「大丈夫よ。私はひげを剃る時間もあるから、二時間もかかっちゃうのよ」

「あ、そう、なんですね」

ザラさんは男性なので、ひげのお手入れもある。至近距離でお顔を見つめても、産毛の一本も見当たらないのでひげなんて生えないと思っていたが。そんなわけなかったのだ。ザラさんの、努力の賜物なのである。

「ザラさん、毎日きれいにされていて、本当に尊敬します!」

いつでもどこでも美しいザラさんに、思わず手と手を合わせてしまった。

「しかし、朝、一秒でも長く眠っていたいという方は、これらのお化粧を面倒に思ってしまうかもしれないですね」

「ええ。でも、汗をかいても落ちない化粧の構造は理解できたから、なんとかしてみせるわ」

リーゼロッテの瞳はメラメラと燃えていた。

熱中できるものが増えるのは、いいことだろう。

「絶対、完成させてみせるわ!」

「楽しみにしています」

リーゼロッテは笑顔で帰っていった。

「なんか、楽しそうでいいわね」

「本当に」

三ヶ月後――リーゼロッテは化粧品の試作品を持ってやってきた。

ザラさんにも同席してもらい、品物を見せてもらった。

「これが、汗をかいても落ちない化粧品よ!」

香水瓶みたいな美しい容れ物に入った化粧品を、リーゼロッテはテーブルに並べていく。

「お父様が錬金術を囓っているとおっしゃっていたから、手伝ってもらったの」

化粧品の工房と、リヒテンベルガー侯爵とリーゼロッテの共同開発らしい。

「まずは、この化粧水。洗顔をしなくても、肌の汚れを溶かして無くし、美肌にする効果があるのよ」

洗顔を飛ばして、いきなり化粧に取りかかれるらしい。ザラさんは手袋を外し、手の甲に化粧水を塗っていた。

「まあ! すごいわ、これ。手を洗っていない状態で、こんなに肌に化粧水が浸透する上に、すべすべになるなんて!」

腕を組んでいたリーゼロッテは、ほくそ笑む。

「次に、美容液と下地、おしろいを合わせたものを作ってみたの。これを塗ったら、お化粧はほぼ完成するわけ」

これも、ザラさんに試してもらう。

「すばらしい伸びね。一塗りで、肌がきれいになっているわ。これで、汗をかいても落ちないのならば、五分でお化粧が終わりそう」

「一応、知り合いの女性騎士に、使ったあと使用感のレポートを提出してもらったわ」

そこには、絶賛しか書かれていかなかった。

・本当に、朝から晩まで化粧が落ちない!

・きれいになったと同僚に言われました!

・安心して、汗をかけます!

・汗に強い上に、手間もかからないから、朝ゆっくりできるようになりました!

「おお……!」

「私も、試してみたいわ」

「そう言うだろうと思って、ザラ・アートの分も持ってきたわ。レポートを提出してくれるのならば、無償で提供するけれど」

「その話、乗るわ!」

そんなわけで、ザラさんもリーゼロッテの化粧品の試供を受けることとなった。

翌日――ザラさんはリーゼロッテの化粧品を使った状態で現れる。いつもと同じように、お美しかった。使用感は、いつもの化粧と変わらないらしい。

「このお化粧、十分もかかっていないの。これで汗をかいても化粧が落ちなかったら、一時間はゆっくり眠れるわ」

「おひげのお手入れに、一時間もかかっているのですね」

「そうなのよ! ひげ剃りも作ってくれないかしら?」

「今度リーゼロッテに会ったら、言っておきます」

その後、ザラさんは一ヶ月間リーゼロッテの化粧品を使っていた。

魔法の力で作られた化粧品は、女性騎士達の評判通り汗をかいても落ちない。

ついに、製品化されることとなり、注文が殺到。瞬く間に大人気商品となった。

「ザラさん、リーゼロッテが、時の人となってしまいました」

「すごい経歴よね。幻獣保護局の局員を経て、騎士隊で騎士となり、起業して働く女性をターゲットにした化粧品を作るなんて」

人生、何が起こるかわからない。しみじみ思ってしまった。