軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ウルガスの深刻な悩み 後編

お見合いパーティー当日となった。

私はメイドさんから衣装を借りて、エプロンドレス姿になる。

いつも、メイドさんの衣装が可愛いと思っていたので、役得だろう。

「あら、メルちゃん。メイドの格好、とっても似合うわ」

「ザラさん! ありがとうございま、どわーー!!」

絶世の美女が、私の前に現れる。もちろん、ザラさんであるが、雰囲気がいつもと違った。

まず、銀色の長いカツラを被っていて、真珠が連なった髪飾りを付けている。

深い青のドレスは、腕の筋肉がわからないよう、袖がふんわり膨らんでいて、腰回りはきゅっと絞られている一着だ。足先までも覆うほど長いドレスで、じっくり見ても男性とはわからない。これが、ザラさんの本気なのか。

もはや、職人芸の域まで達しているだろう。

「メルちゃん、どうかしら?」

「すてきです! すてきです! とってもすてきです!!」

あまりの美しさに頭が真っ白になる。もれなく語彙力を失い、単純な言葉しか浮かばなかった。

続いてやってきたウルガスも、ザラさんの美しさに驚いていた。

ちなみにウルガスは、騎士隊の白い正装姿でやってくる。一応、騎士隊エノクの協賛イベントのようで、騎士服の着用が認められているのだ。

「アートさんが、会場の視線を独り占めしてしまいますよ」

「本当に」

「そんなことないわよ。世界には、綺麗な人がたくさんいるんだから」

またまた、ご謙遜を。という言葉を、ウルガスと同時に発してしまった。

ルーチェはエスメラルダが面倒を見てくれるという。食事も、アルブムが用意してくれるようだ。寝かしつけはアメリアとステラがやってくれるらしい。

ちなみに、ニクスは気が向いたらお喋りの相手をしてくれるようだ。

面倒くさがりのニクスでさえ、ルーチェのお世話をしてくれる。

うちの陣営は、子育てにも協力的だ。

馬車を出してもらい、出発となる。

「あー、ドキドキします」

「そうね」

「しかし、女性同伴のお見合いパーティーなんて、珍しいですね」

それには、理由があった。

お見合いパーティーは主に、騎士隊内で募集を募る。第一回は、男性八割、女性二割しか集まらなかったらしい。

そんな中でお見合いなんてできるわけがないと、主催は危惧したようだ。

案の定、第一回は大失敗だった。二割の女性陣は、八割の男性を怖がって一カ所に集まるばかりであったと。

男女の比率を同じにするには、どうしたらいいのか。考えた結果、男性の参加者に知り合いの独身女性を同伴させるのはどうか、という着想に至ったらしい。

第二回は女性同伴で行い、大成功。

三回目である今回も、第二回と同じように女性同伴でというルールで開催が決まった。

「そんなわけで、アートさんをお誘いしたわけです」

「面白いことを思いつきますよね」

「ですねー」

話をしているうちに、会場に到着した。

赤煉瓦に黒い屋根の、三階建ての建物である。普段は、貴族のお茶会やサロンが開かれているらしい。

年若い男女が、きゃっきゃと楽しそうに会場入りしている。

メイドを連れている人ともすれ違った。

ウルガスは参加証を握りしめ、会場入りする。

同伴者の確認も、難なく潜り抜けた。

そして――扉の向こう側には、豪華絢爛な世界が広がっていた。

「う……うわ!」

会場には、大きなシャンデリアがあり、楽団が優雅な曲を演奏している。

飲食スペースもあって、ごちそうが並んでいるようだ。

ドレスを着た女性陣に、燕尾服や騎士隊の正装をまとった騎士達の姿があった。

当然、ザラさんは目立ちまくる。あっという間に、人に囲まれてしまった。

通訳をしようとしたのに、人に押しのけられる。完全に蚊帳の外となった。

背伸びをしてザラさんの様子を見てみたら、身振り手振りと表情でなんとか乗り切っているようだ。

さすが、ザラさんである。

「ウルガス、頑張るのですよ」

「うう……」

「気になる女性は、いますか?」

「ど、どうですかねえ」

「積極的にいかないと、恋人は見つからないですよ」

「そう、ですよね」

ウルガスは意を決し、先ほどからウルガスのほうをちらちら見ているお嬢さんに声を掛けるようだ。

メイドを連れていたので、先回りをして話をする。

騎士隊エノクのジュン・ウルガスだと伝えたら、少しの間お話をしてくれることを了承してくれた。

年頃は十五歳くらいか。ウルガスは十八歳なので、いい感じの年の差だろう。

栗色の髪に、澄んだ琥珀色の瞳を持つ、愛らしい雰囲気のお嬢さんだ。

「あ、あの、初めまして。俺は、騎士隊エノクで騎士をしている――」

「あれ~、ウルガスじゃないか!」

声をかけてきたのは、制服を着崩した騎士。正直、チンピラっぽい雰囲気である。

なんでも、ウルガスと同期入隊した騎士らしい。

「可愛い子ちゃんを捕まえているじゃないか。羨ましい奴だな」

お嬢さんはちんぴら騎士に怯えている。可哀想に……。

ウルガスはお嬢さんを守るように、前に立った。しかし――。

「こいつ、騎士と言っても、弓使いなんだよ。地味で、活躍の場もないから、遠征部隊に左遷されてしまったんだ」

その話を聞いたお嬢さんは、困ったように会釈をして、回れ右をする。そのまま、走り去ってしまった。

「あーあ。ウルガス、お前があんまりにもしょぼいから、逃げちまったよ」

お嬢さんが逃げたのは、ウルガスのせいではない。ガラの悪い騎士のせいだろう。

文句を言おうとした瞬間、元気よくウルガスを呼ぶ者が現れた。

「ジュンくーーん!!」

走ってやってきて、ウルガスに衝突するようにぶつかってきたのは、我が妹ミルだった。

「わっ、リスリス魔法兵、どうしたんですか?」

「知り合いに、一緒について来てって言われたの。でも、お見合いパーティーって、知らなくて」

おいしいものが食べられるからと言われて、ホイホイついてきたようだ。

「なんか、男の人にたくさん話しかけられて、怖かったんだけれど、ジュン君がいてよかった!」

「そ、そうでしたか」

ミルの登場が面白くなかったのだろう。ガラの悪い騎士は、先ほどお嬢さんに言ったことを、ミルにも言い始めたのだ。

「おい、こいつ、騎士なのに地味な弓使いなんだぜ?」

その言葉に、ミルは瞳をぱちくりと瞬く。

「しょぼい戦力しかないから、遠征部隊に左遷されたんだよ」

「えー! 知らないの? ジュン君、とってもすごいんだよ」

「は?」

「こうね、弓をシュバシュバーっと射って、魔物にとどめを刺すんだから! 可哀想に。ジュン君が強くて最高にカッコイイの、知らないんだねー」

ミルの言葉に、ガラの悪い騎士は言葉を失っていた。

無理もないだろう。狩猟で肉を得る我々フォレ・エルフから見たら、弓使いの上手い男性はかなりイケている部類に入る。ミルから見たら、ウルガスはイケメンにしか見えないのかもしれない。

私は最初から、弟的な感じとしてしか見ていなかったが。

「ねえ、ジュン君。あっちにごちそうがあるよ! 一緒に食べよう!」

ウルガスの腕を引くミルを、「待て待て待て~い」と制止した。

「ちょっと待って、ミル!」

「あれ、お姉ちゃん! お姉ちゃんも来ていたの?」

「来ていたの!」

まさか、ウルガスしか見えていなかったなんて。お姉ちゃんはショックです。

「あのね、ミル。ウルガスはお見合いを目的に来ているの。ミルが連れ回したら、出会いがないでしょう?」

「リスリス衛生兵、大丈夫です」

「え?」

「俺、リスリス魔法兵と、ごちそうを食べます」

「いいの?」

「はい。もともと、こういうの、向いていなかったんですよ。それに、リスリス魔法兵とごちそう食べたほうが、楽しいので」

ウルガスが微笑みかけると、ミルは頬を染めながら、「やったー」と喜ぶ。

二人は仲よさそうに、ごちそうのあるテーブルへと走って行っていた。

「ウルガス、よかったじゃない」

振り返ると、ザラさんがいた。どうやら、男性陣の輪から脱出したようだ。

「二人共、なかなかお似合いじゃない?」

「言われてみれば、たしかに」

ウルガスが笑顔なのを見て、ザラさんと二人ホッと安堵したのだった。