軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

番外編 メルとミルの、思い出の森林檎パイ

パイには二種類あるのをご存じだろうか?

一つ目は、バターをたっぷりつかった、折りたたみながら作る『折りパイ』。

二つ目は、材料を混ぜたあと練って作る、クッキーみたいな食感の『練りパイ』。

フォレ・エルフの村でパイと言えば、『練りパイ』だった。

しかも、リスリス家で作っていたのは、スプーンひと匙のバターとほんのちょっと牛乳を加えただけの、貧乏仕様の練りパイだったのである。

王都にやってきて、初めて『折りパイ』を食べたときは、感激したのを昨日のことのように思い出せる。

アツアツサクサクの森林檎パイに、ひんやりとしたアイスクリームが載っているのだ。

一気に食べると、口の中は楽園となる。

私の大好物のひとつだ。

ミルにも、絶対食べに行ったほうがいいと勧めていたが――実際に食べたあと、思いがけない反応をしていた。

ミルは物憂げな様子で、折りパイについての感想を述べる。

「この前、騎士隊の友達と王都名物の森林檎パイを食べに行ったんだ」

「おいしかったでしょう?」

「いや、うーん」

「何、その反応。もしかして、私がおいしい、おいしいってあまりにも言っていたから、ハードルが上がったの?」

「いや、そういうわけではなくて、なんていうか……正直に言ったら、お姉ちゃんが作った森林檎パイのほうが、おいしくない? って思って」

「イヤイヤイヤイヤ、ナイナイナイナイ!!」

びっくりした。王都の折りパイより、私の作った貧乏くさい練りパイをおいしいって言う人がいるなんて。

「ミル、それは、思い出を美化しているから。空腹の中で食べたからおいしかったんだって、勘違いしているんだよ」

「違うよ。だって私、練りパイの森林檎パイを出すお店にも食べに行ったんだけれど、お姉ちゃんのパイのほうが絶対においしかった!」

「嘘だ~~」

「嘘じゃないもん! お姉ちゃんの森林檎パイは、世界一おいしいんだから!」

「気のせいだって」

「気のせいじゃないもん!」

何を言ってもミルが納得しないので、久しぶりに練りパイを作ることとなった。

「絶対、王都の森林檎パイのほうが、おいしいのに」

「いいや、お姉ちゃんの森林檎パイのほうが、おいしいの!」

なんだかこの調子だと、食べたあとも意地を張って私の作ったパイのほうがおいしいとか言いそうだ。

どうしたものか。悩んでいたら、救世主が現れる。

『話ハ、聞カセテ、モラッタ!! アルブムチャンモ、審査スルヨ!!』

フォークとナイフを持参して、アルブムがやってくる。いったいどこに潜んでいたのか。本当に、神出鬼没だ。

『アルブムチャンハネエ、侯爵家デ、パイヲ、タクサン、食ベテイルヨ。ダカラ、審査モ、オ任セアレ!』

「アルブムちゃんは、嘘吐かないもんね~?」

『ネ~!』

そんなわけで、アルブムも交えて世界で一番おいしいパイコンテスト(?)が開かれた。

なぜか、台所にミルとアルブムがついてくる。

「私、お姉ちゃんが料理するところ、見るの好きなんだよねー!」

『アルブムチャンモー!』

ミルとアルブムの監視(?)を受けながら、練りパイを使った森林檎パイ作りを開始する。

こうなったら、フォレ・エルフの村時代に作っていたレシピをそのまま使って作ってやる。

薄力粉と強力粉を混ぜておく。これに砂糖、塩、牛乳、バターを加えてしっかり混ぜる。生地がまとまってきたら冷やした水を入れて、力を込めて捏ねるのだ。

生地に艶がでてきたら、しばし休ませる。その間に、森林檎をザクザク切る。

皮にも栄養があるので、剥かずにそのままなのがリスリス家風。

森林檎に砂糖をまぶして混ぜておく。お店の森林檎パイは、煮詰めて甘くするのだが、私の森林檎パイはそこまで手間暇かけない。当時はとにかく時間がなかったので。

鋳鉄の鍋に、油を塗る。ここでケチると、生地が鍋にくっついて離れなくなるのだ。

続いて伸ばした生地を鍋に敷き詰め、縁からはみ出たものはカットする。

砂糖に絡めていた森林檎を生地の上に並べ、縁からはみ出ていた生地を上から格子状に被せる。

最後に、水で溶いた卵を表面に塗って、三十分焼くだけ。

だんだんと、台所に甘酸っぱい匂いが漂う。吸い込んだミルとアルブムは、幸せそうな微笑みを浮かべていた。

「よし、と。こんなものですか!」

「ヤッター!」

『ヤッタネ!』

ナイフでカットして、お皿に盛り付ける。おまけにホットミルクも付けてあげた。

「はー、いい匂い。永遠にかいでおきたい」

『アルブムチャンモー』

「冷めないうちに、食べてね」

「はーい!」

『ワカッタ!』

ドキドキしながら、ミルとアルブムの様子を窺う。

まずは、ミルがパクリと頬張った。

「んーー!! これこれ!! 外はサクサク、中の森林檎は甘酸っぱくて、食感はシャリシャリ!! やっぱり、お姉ちゃんの森林檎パイは、世界一おいしい!!」

このミルの笑顔に、嘘はないだろう。

王都にはおいしい森林檎パイを出すお店がたくさんあるのに、私が作る森林檎パイが世界一おいしいだなんて。

続けて、アルブムもパクリと食べる。

『アーー!! コレ!! コノ森林檎パイハ、優勝ダネエ!!』

「優勝って……」

「お姉ちゃんも、食べてみなよ。おいしいから」

そういえば、弟妹達に作るばかりで、私は私の作った森林檎パイを食べたことがないかもしれない。

ミルが差し出したパイを、食べてみる。

生地はサクサクしていて、森林檎の酸味がほどよくて、確かにおいしい。

「あっさりしているから、二切れくらいは食べられそう」

「でしょう? 王都の森林檎パイは、こってりし過ぎなんだよ。だから私は、この森林檎パイが大好きなの!」

ミルは私や母の料理を食べて育ったので、食の好みが偏っているのだろう。

アルブムは……よくわからないが。

「よかった。お姉ちゃん特製の森林檎パイが、世界一おいしいってことを理解してもらえて」

そんなことを言うミルを、思わず「愛い奴め!」と言って抱きしめてしまった。