軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

最終話 エノク第二部隊の遠征ごはん

邪龍事件は無事、解決した。

まず、心配をかけてしまった鼠妖精達に報告する。

不安だったのだろう。深く感謝され、宴を、という話にもなったが、シエル様は「また今度、ゆっくり滞在させてもらう」と返し、ひとまずフォレ・エルフの村に戻ることになった。

魔術医の先生や村長を集め、邪龍について報告した。

邪龍は、フォレ・エルフが造り出した悪しき意識から生まれた悲しき生き物だったのだ。

そう告げると、誰もが複雑な表情を浮かべる。

元は、ただの黒竜だった。契約した邪龍だったルーチェを見せると、たいそう驚かれた。

これから責任を持って、ルーチェを守らないといけないだろう。

村長は深々と、ルーチェに頭を下げていた。

それから――村長はフォレ・エルフを集めて、隠していた歴史を話す。

何百年と昔に、村の若者の結婚を両親が反対した結果、若者が邪龍を召喚し、使役できずに暴走させてしまった。その後、フォレ・エルフの村は崩壊寸前まで追い詰められたと。

とある賢者のおかげで邪龍を封じたものの、フォレ・エルフの生贄が必要だった。

長い間、邪龍にフォレ・エルフの命を捧げてきたという真実を聞いた人々は、衝撃に包まれる。村長は魔術医の先生の名を隠していたが、途中で賢者とは私のことだと名乗り出てしまった。

続けて恨むならば、恨むといい、と皆に宣言する。潔いというか、なんというか。

けれど、先生を恨む人は一人としていなかった。

先生も長い間、罪悪感に苛まれていたのだろう。宣言してからは、どこかスッキリした表情を浮かべているように見えた。

最後に、村長が宣言する。フォレ・エルフの婚約制度を廃止すると。

これからは、好きな者同士で結婚できるのだ。

フォレ・エルフの未来に幸あれと、祈らずにはいられない。

◇◇◇

いろいろと話し合った結果、ランスは実家に戻るようだ。もともと、邪龍の邪悪な気配を感じていたので、村に戻りたくなかったと言っていた。

邪龍なき今、王都で騎士をする理由はない。

「いろいろ、世話になったな」

「よかったですね、邪龍の問題が解決して」

「まあな」

会話が途切れ、なんとなく気まずい時間を過ごす。

先に沈黙を破ったのは、ランスだった。

「本当に、すまなかったな」

「何が、ですか?」

「その、婚約破棄をしたことだ」

「あ~~……」

私の気を引くためという、とんでもなくしようもない理由で婚約破棄をしてくれたのだ。

でも、それがきっかけで、私は王都に出稼ぎするために旅立った。

大切な仲間や、大好きなザラさんと出逢えたのだ。

ランスのおかげとは言いたくないが、ランスが私を突き放さなかったら絶対に会えなかった人達だろう。

けれど、絶対にありがとうとは言いたくない。

彼に掛けるべき言葉は、きちんとわかっていた。

「では、仲直りしましょう」

ランスはキョトンとした表情でいる。

そっと手を差し出すと、弱々しく握り返してくれた。

「これで、よしっと。ランス、元気で」

「お前も」

「はい」

かつての私は、「ランス、絶対に許さん!!」という思いで村を出た。

その気持ちは、私の心をどす黒く染めていたような気がしてならない。

たしかに、ランスの発言は最低最悪だった。けれど、もう気にしていない。

私はランスに対して怒るよりも、遠征部隊で働いたり、大事な人達と過ごしたりで忙しいから。

誰かに対して憤ったり、恨みに思ったりする時間があるならば、一秒でも楽しく生きたい。

そう、思えるようになった。

だから私は、ランスと仲直りしたのだ。

清々しい気持ちで、彼と別れる。

ちなみにミルは、まだ騎士を続ける気らしい。王都での生活を知ってしまったら、フォレ・エルフの村で薬草をちまちま摘む生活になんて戻れない。お金は貯まるし、食事はおいしい。友達も大勢いるから寂しくないと。

最後の最後に、「あ、お姉ちゃんもいたね!」と言ってきたときには、がっくりと脱力してしまった。

なんというか、本当に要領のいい子だ。そんな、可愛い可愛い私の妹なのである。

◇◇◇

王都に戻った私達は、邪龍を鎮めた褒美として一ヶ月の休暇が与えられた。

新しい仲間であるルーチェが家族に加わり、大丈夫かハラハラしていた。

もっとも心配だったのは、エスメラルダだった。無視したり、威嚇したりするのではと、想像していたが――。

『キューウ!!』

エスメラルダは、小さな竜の子ルーチェを守るように座っている。

彼女はルーチェを、弟分として認めたようだ。

末っ子気質だからと心配していたが、杞憂だった。

アメリアとステラは、そんなエスメラルダとルーチェを優しく見守っている。

竜がやってきたことにより、幻獣保護局の出入りが頻繁になった。

ルーチェはリヒテンベルガー侯爵を怖がらないようで、たまに抱っこをせがむときもある。

リヒテンベルガー侯爵は初孫を抱くように、ルーチェを優しく胸に 抱(いだ) いていた。

ニコニコ微笑むリーゼロッテも傍らにいるので、孫感に拍車がかかっているのだろう。

なんていうか、幸せそうで何よりである。

近衛部隊に復職したザラさんは、毎日忙しそうだ。

第二部隊の面々と同じように一ヶ月の休みをもらったようだが、近衛部隊に欠員がでたようで出勤せざるを得なかったようだ。

休みの日は、二人で過ごしている。

幸せなひとときである。

ミルは邪龍討伐での活躍を受け、どの部隊に配属されるか再考されるようだ。

優秀な我が妹は、引く手あまたなのである。

リオンさんは国に帰った。シエル様が元気だと、家族に伝えてくれるらしい。

最後まで、かっこいい女性だった。

一方で、シエル様は、アリタとともに冒険に出かけたり、庭で「すろーらいふ」をしたりと忙しい。毎日が充実しているようだ。

◇◇◇

第二部隊での活動は相変わらずだ。

任務を命じられ、各地を転々としている。私はザラさんから貰った、ルーチェが入る背負い鞄を背負って任務に参加していた。

ルーチェも、アメリアやステラ同様に、第二遠征部隊公認幻獣となっている。

辛い遠征であるが、ルーチェの可愛さが皆の心を癒やしてくれるのだ。

アルブムも、相変わらずである。勝手に遠征部隊の任務に同行し、珍しい食材を発見してくれる。

今日も、珍しい松キノコを発見してくれた。

『パンケーキノ娘ェ、コレ、炙ッテ食ベタラ、オイシイヨオ』

味覚がすっかり人間寄りになっている。野生育ちには、とても見えない。

『今日ハ、何ヲ、作ルノ?』

「初心に戻ってみようかな、と」

『初心?』

私が最初に作った、遠征の食事――『森の恵みの山賊風スープ』だ。

使う食材は、当時のままではない。ウルガスの失敗した干し肉や、パンの再現は難しいだろう。

お肉は、瓶詰めにしていたすじ肉の水煮を使う。

鍋にすじ肉、胡椒茸、松キノコ、堅くなったパンを入れて、途中で味を調えながらぐつぐつ煮込む。

あくを掬ったあと、スープが白濁したら完成だ。

「みなさーん、食事の用意ができました」

「リスリス、何を作ったんだ?」

「山賊――ではなくて、森の恵みのスープです」

「お前今、山賊って言いかけなかったか!?」

「気のせいです」

山賊は耳がよくて困る。

そんなことはさておいて、スープをお皿に装って配った。

隊長は猫舌なので、しばし冷ましていた。

ベルリー副隊長は一口飲んで、「おいしい」と言ってくれる。

ガルさんは、尻尾を振りながら食べてくれた。スラちゃんが、フーフーとスープを冷ましている様子が、なんとも健気である。

ウルガスはトロトロになるまで煮込まれたすじ肉を、幸せそうに頬張っていた。

皆がおいしそうに食べてくれると、私も嬉しくなる。

貧乏、不器量、無魔力と、フォレ・エルフの村では後ろ指をさされていた私にも、居場所があったのだ。

そのことを、心から誇りに思う。

私はこれからも、大切な人達のために食事を作るだろう。

それが、喜びでもあるのだから。

エノク第二部隊の遠征ごはん 完