作品タイトル不明
謎の客人 その一
朝──自然豊かなエヴァハルト邸の庭が見える窓を広げ、空気を吸い込む。
肌寒いけれど、キンと冷えた空気は寝ぼけまなこを醒ましてくれる。
今日は休みだ。
残念ながらザラさんはお仕事。日の出前に出勤してしまった。毎朝、早朝から任務に就いているらしい。王族にお仕えするのも大変である。
アメリアとステラも、目が覚めたようだ。
アメリアは今日のリボンを選び、ステラは首輪を選んでいる。二人共、本当にオシャレだ。
エスメラルダは起きているけれど、寒いから出たくないようだ。私をジロリと睨み、寒いから窓を閉めろ~~と、訴えている。
ブランシュとノワールも、丸くなって眠ったまま。
妖精鞄のニクスは、蓋をパタパタと動かしながら寝ている。
アルブムはお腹を上にして、ピーピー寝息を立てながら熟睡していた。
なんというか、いつもの光景である。
「今日は何をしましょうか──」
腕を組み、一日の予定を考えようとしたその時、窓の外で大きな何かの残像がシュッと通り過ぎて行った。
「え!?」
反応したのと同時に、窓ガラスがガタガタと風圧で震える。
そのあと、エヴァハルト邸も揺れた。
アメリアとステラが同時に動き、私の体に覆い被さった。
「な、何事!?」
揺れは十秒ほどで収まる。
いったい何事なのか。
もしかして、魔物?
シエル様とアリタは現在冒険に出かけている。そのため、もしも魔物だったら大ピンチというわけだ。
「ひえええ~……」
立ち上がろうとしたら、近くにモコモコとしたものがあった。エスメラルダだった。
おそらく、怖くて私のところにやってきたのだろう。
こういうところが、可愛いんだよね。震えているようなので、持ち上げて胸に抱く。
アメリアが窓の外の様子を見に行ってくれた。勇気がある子だ。
『クエ!?』
アメリアの全身の毛が、ぶわりと膨らむ。尻尾はピンとまっすぐ伸びていた。
「え……な、何が、いるんですか?」
質問しても、答えてくれない。何も言わないまま、硬直している。
今度はステラが見に言ってくれるようだ。姿勢を低くして、慎重な足取りで窓まで近づく。
そっと窓を覗き込んだステラは、アメリアと同じように全身の毛をぶわっと膨らませていた。
「え~、なんだ、気になる!」
もう、こうなったら腹を括るしかない。
「エスメラルダ、私達も見に行きますよ!」
『キュッフ~~!!』
エスメラルダは嫌だと言うが、このまま呆然としているわけにもいかない。
こういう時は勢いが大事だ。走って窓まで近づき、覗き込む。
驚くべきことに、庭に赤くて大きな物体が鎮座していた。
「なっ、なんじゃこりゃ~~!!」
大きさは、五メトルくらいだろうか。
こう、なんと言ったらいいのか、邪悪な気は感じないので、魔物ではないだろう。
だったらなんなのか。
猫が丸くなったように、身を縮めている。
「あれは、なんなのですか?」
『キュ、キュウ……』
「え?」
『キュウ……』
エスメラルダは呟く。あれは、竜、だと。
「り、竜!?」
シエル様が竜と契約している話は聞いたが、あの赤い竜はシエル様の竜ではない。
よくよく確認したら、竜には鞍が付いていて、誰かが跨っている。
黒い全身鎧を纏っていた。
「あ、あれは、もしかしなくても、シエル様の、関係者?」
シエル様に会いにきたのか。
じっと見つめていたら、視線を感じたのか黒い全身鎧の人物はくるりと振り返った。
「ヒッ!!」
目が合ったような気がして、身を縮める。
このまま、見なかった振りはできないだろう。
出迎えなければ。ザラさんが不在なので、仕方がない。
「ブランシュ、ノワール、起きてください。お客さんが来ましたよ」
『うみゃ!?』
『にゃう!?』
人懐っこいブランシュとノワールは、お客さんが大好きである。声をかけたら、すぐさま目を覚ました。
アルブムは、まだ起きないだろう。外は寒いので、襟巻代わりに巻いておく。
幻獣と妖精を引き連れ、謎の客人を迎えることにした。