軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

新しい隊員 その四

船が無人島付近に辿り着く。

すぐさま、ランスが立ち上がり、目を細めながら言った。

「おー、岸に船はないなあ! 密漁中か?」

「私には、岸は見えませんが」

ぼんやりと、無人島の形が見えるばかりだ。ランスはどれだけ視力がいいのか。

「普通にしていたら、見えるわけがないだろうが。目に魔力を通して、視力を強化させるんだ。そんなのもできねえのか?」

「残念なことに、できねえんですよ……」

そう答えると、ランスは驚いた顔で私を見る。

「お前、本当に魔法使えないんだな」

「そうですよ。だから、騎士をしているのです」

「よく、今まで生きてこられたな。森の中を毎日駆け回っているようだったが、魔物と遭遇した時、どうやって戦っていたんだ?」

「魔物の気配を感じたら、逃げていました」

「野生のウサギかよ」

エルフが当たり前のように使っている魔法を、私はまったく使えない。

こうしてランスがいると、私は何もできないのだと痛感してしまう。

さっきだって、隊長の船酔いを治すことができなかった。

回復魔法さえ使えたら、すぐに治すことができたのに。

エルフとしても、衛生兵としても私は未熟なのだ。

「何もできないのに、本当に、生きているのが奇跡だ──ぐえっ!!」

ランスの首根っこを、急に隊長が掴んだ。山賊顔負けの凄み顔で、ランスを睨んでいる。

「な、何すんだよ!」

「お前は、何もかもできる神なのか?」

「は!?」

「リスリスに何もできないと言っていたが、お前は、料理や植物の知識、隊員を精神的に支えること、それから幻獣に好かれる気質を持ち合わせているのか?」

「できないけれど、なんでそんなことを聞くんだよ!」

「できないんだったら、リスリスにああだこうだと口出しするな!」

そう言うと、隊長はランスを放す。微妙に体が宙に浮いていたので、ランスは尻もちついてしまった。ぐらぐらと、船が揺れる。

「自分が当たり前のようにできることを、相手もできると思うな。そもそも、この世は助け合い精神のもとで皆生きているんだよ。一人で生きている奴なんて、ほとんどいない。着ている服、戦う剣、パンに使う小麦……挙げたらキリがないが、人は人の力で作った物に頼って暮らしている」

隊長は後頭部を掻きながら、眉間に皺を寄せている。

「あ~~、なんだ、つまりだな……。クソ、なんでこの俺が二歳しか年が変わらない若造に道徳を説かなきゃいけないんだよ。まあ、アレだ。お前にリスリスを批判する資格は、いっさいないってことを言いたかったんだ。わかったな?」

「……」

「わかったな!?」

ずいぶんと圧のある「わかったな?」だった。

さすがのランスも、たじろいでしまう。小さな声で「わかったよ」と言っていた。

まあ、ランスも私の悪口を言ったつもりはないのだろう。

典型的なエルフから外れている私という存在に、驚いていたのかもしれない。

ランスはゆっくり私を振り返り、もごもごと謝ってきた。

「悪かったな」

「あ、いえ」

きっと、無意識だったのだろう。意地悪を言うつもりはなかったのだ。

ただ、無意識で相手を傷つけてしまうのも、罪深いだろう。

隊長のおかげで、ランスは一歩大人になったのだ。

「俺……知らないことばっかだ」

「今から、知っていけばいいのですよ」

幸い、ここには見本にしたい大人達がたくさんいる。

年下であるウルガスからも、学ぶことはあるだろう。

「あの、一つ、聞いてもいいか?」

「なんですか?」

「隊長が二十歳なのは、本当か?」

ランスは真面目な表情で問いかける。

思いがけない質問に噴きだしそうになったが、なんとか我慢した。

「……間違いなく、隊長は二十歳ですよ」

「そ、そうか」

隊長の実年齢については、私も最初は驚いた。

若くても三十五くらいかと思っていたのだ。

「なんだ。まだまだ、知らないことばかりだ」

知らないことというのはそういう意味ではないが……。

まあ、隊員のことを知ることも、いいことだろう。

「せっかくだから、自己紹介しておくか」

ベルリー副隊長の提案で、自己紹介をすることとなった。

「私はアンナ・ベルリー。二十五歳。武器は双剣、趣味は散歩、好きなものは辛いもの。以上だ」

ベルリー副隊長らしい、簡潔な紹介だ。

「ベルリー副隊長って、散歩が趣味だったんっすねえ」

「ああ。本当は毎朝、陽の出を見ながら散歩をしたいのだが、朝が苦手で月に一度くらいしか見られていない」

そうなのだ。完璧かと思われるベルリー副隊長にも、弱点がある。朝が弱いのだ。

遠征時、わりと長い時間むにゃむにゃしているベルリー副隊長を見ることができるのは、役得だろう。

続いて、ガルさんとスラちゃんの自己紹介。

スラちゃんは木の板のように薄くなり、ガルさんはそこに爪で何かを書き込んでいく。

──ガル・ガル、二十八歳、武器は槍、趣味は読書、好きなものは甘い物、よろしくお願いいたします、と書かれていた。

「へえ、ガルさん、読書が趣味なんですね!」

最近読んだ中で面白かったのは、『北欧貴族と猛禽妻の雪国狩り暮らし』という、夫婦のほのぼの幻想譚らしい。今度、私も読んでみよう。

スラちゃんも、自己紹介する。

触手のような手をシュッシュと突き出し、最後に腕を曲げて盛り上がった筋肉を作り出す。実力をアピールしているようだ。

最後に、自身の体で「スラちゃんです」という文字を作り出す。なんともスラちゃんらしい自己紹介だ。

次はウルガス。

「ジュン・ウルガス、十七歳です。武器は弓、趣味は食べ歩き、好きなものは肉です。よろしくお願いいたします」

ウルガスはランスに向かって、ぺこりと頭を下げた。

なんともウルガスらしい自己紹介である。

「なあ、ウルガス先輩。食べ歩きってなんだ?」

「市場などにある露店で、串焼き肉とか、パンとか、甘味とかを買ってその場で食べることです」

「へえ、面白そうだな」

「今度行きましょうよ。案内しますよ」

「ああ、頼む」

ランスとウルガスは、なんだか仲良くなれそうだ。

「今度はリスリス衛生兵、頼む」

「あ、はい」

なんだか改めて自己紹介するのは恥ずかしいけれど……。

「メル・リスリスです。趣味は料理で、好きなものは王都の食べ物全般。え~、よろしくお願いいたします」

「なあ、リスリス先輩、王都ってどんな食べ物があるんだ?」

「新鮮な魚介の串焼きとか、甘いパンとか、冷たいアイスクリームとか。私も、暇があったら案内しますので」

「おう、ありがとうな」

最後に、隊長が自己紹介する。

「クロウ・ルードティンクだ。二十歳。俺は山賊じゃねえ。以上」

あまりにもシンプルな自己紹介に、みんなで笑ってしまった。

きっと、雰囲気を和ませようと、山賊ネタを仕込んできたのだろう。

ピリピリとした空気は、綺麗さっぱりなくなった。