作品タイトル不明
新しい隊員 その三
今回の任務は、王都の北部にある無人島に賊と見られる団体が潜伏していると。
ただ規模は小さく、多くても五、六名くらいの小集団らしい。
ここ最近、海をちょこまかと行き来し、密漁しているようだ。
海兵部隊が追いかけていたようだが、追い詰めるたびに霧が深くなったり、風が強くなったり、急に波が高くなったりと、トラブル続きとなっているようだ。
昨日、賊の潜伏先を発見したと、伝書鳩を通じて連絡があったのだとか。
港から無人島まで、船を飛ばして半日程度らしい。
今回、無人島に行くための小型船が用意されているのだとか。
隊長が船酔いすることを想定して、薬草を準備しておく。
ニクスの中に食料を詰め込んでいたら、背後から声がかけられた。
「おい、メル」
「ぎゃあ!」
集中していたので、驚いてしまった。
振り返った先にいたのは、ランスだ。
「な、なんですか?」
「いや、謝ろうと思って」
「謝るとは?」
「俺、お前がいる部隊に異動するって、知らなかったんだ」
「ああ、そういうことですか。別に、気にしないでください」
ランスはそれだけ話して、集合場所である広場のほうへ向かっていった。
いつも喧嘩早いイメージがあったけれど、こうして話してみたら普通に話せる。
やはり、私が相手にしなかったのが、不仲の最大の理由だったのだろう。
『クエクエ?』
『クウクウ?』
アメリアとステラは、すでに準備が整ったようだ。私も、早く終わらせなければ。
素早く食料をニクスの中に詰め込んだ。
『アルブムチャンモ、忘レズニ~~!』
アルブムは手巾に食料を詰め込み、背負った姿で走ってくる。
いったいどこで食料調達したのやら。
まあいいかと思い、アルブムもニクスの中に詰め込んだ。
集合場所に向かうと、私が最後だった。
「よし、全員揃ったな。行くぞ」
「了解」
騎士隊の馬車で、港町まで向かう。
今回は馬車を操縦する御者を用意してくれていた。そのため、みんな揃って馬車に乗り込む。
ザラさんとリーゼロッテが抜け、代わりにランスが入った。
雰囲気はガラリと変わる。
「ふ~ん、ウルガス先輩は俺の一つ下か」
「そうですね」
ランスはウルガスと年が近いからか、話しやすいようだ。
「リスリス先輩は、衛生兵なんだよな」
「まあ、はい」
隊長がランスに「お前は一番下っ端な。生意気な態度を続けていたら、ぶっとばすぞ」と言った結果、ランスは私やウルガスを「先輩」呼ばわりしている。
なんか、先輩だなんて聞き慣れないので、微妙な気持ちになる。
私なんて、ウルガスは最初から呼び捨てだったのに。
「あの、ウルガス、今更ですが、私も先輩と呼んだほうがいいですか?」
「いや、いいですよ、呼び捨てで」
その発言を聞いたランスは、ウルガスを指差し「呼び捨てていいと言っているが?」と隊長に質問する。
「言っているが、じゃない。お前は、先輩呼びを続けるんだ」
「え~~、なんだよそれ。隊長先輩、俺にだけ厳しくねえ?」
「俺に先輩はいらない」
「はいはい」
ゆるさ溢れるランスの言葉に、隊長は鋭い睨みを返す。
ランスは「わかりましたよ」となげやりに返していた。
港に到着すると、すぐさま小型船に乗り込む。
一時間半ほどで、到着するらしい。
船が動きだすと、すぐさま隊長は表情を青くする。
「おい、隊長、大丈夫か?」
「う、うるさい。耳元で、デカい声で喋りかけるな」
「祝福かけてやるから、動くなよ」
「祝福? なんだそりゃ」
隊長の問いに答えることなく、ランスは手をかざしぶつぶつと呪文を唱える。
「──祝福よ、不調の因果を癒しませ」
ランスの手の先に小さな魔法陣が浮かび上がり、パチンと音を立てて消えていく。
すると、隊長の顔色が良くなっていった。
「なんだ、これは?」
「回復魔法の一歩手前のやつ。人族風に言うと、痛いの痛いの飛んでいけ、的な。それのエルフ版だな」
すごい。ランスはこんな魔法が使えるなんて。
曰く、回復魔法は苦手で使えないようだが、低位魔法である祝福であれば、一日一回くらいならば使えるらしい。
「とは言っても、祝福では小さな傷も治せないからな。気休めみたいな魔法だ」
本人はそう言っているが、隊長の顔色はよくなった。
「ランス、すごいですね」
「だろう?」
ふふんと、自慢げな言葉を返してくる。
なんというか、ランスは謙虚という言葉を習ったほうがいいような気がした。
船はどんどん進んでいく。
隊長の具合もよくなったので、昼食を用意することにした。
とは言っても、船上なので火を使った調理はできない。
こんな時は瓶詰にした料理が活躍する。
「というわけで、各々好きなものを付けて食べてください」
用意したのは、檸檬とバターを混ぜて作る『檸檬カード』。
炒った木の実を加えた『キャラメルナッツ』。
旬のキノコで作った『キノコのアヒージョ』。
ワインが隠し味の『木苺のワインジャム』。
猪豚をじっくり煮込んで作った『猪豚のリエット』。
二枚貝を油と唐辛子に漬けた『二枚貝のオイル漬け』などなど。
チーズやバターも用意する。
隊長は猪豚のリエットをたっぷりつけたパンを頬張っていた。
「猪豚の旨みが凝縮してやがる。酒が飲みたくなる味だ」
ベルリー副隊長は、ピリカラの二枚貝のオイル漬けをパンに載せて食べていた。
「これは、おいしい。二枚貝はプリプリで、ピリッとした辛みがなんともいえない」
お気に召したようで何よりである。
ガルさんは尻尾を振りながら、キャラメルナッツを塗ったパンを食べていた。
相変わらず、甘い物が大好きなようだ。
私は檸檬カードを塗って食べる。濃厚だけれど後味はサッパリとした風味が、パンとよく合うのだ。
ウルガスは迷った結果、キノコのアヒージョをパンに載せて食べていた。
「おいしいけれど、大人の味!」
確かに、アヒージョは大人向けかもしれない。
ここで、ランスが口を挟む。
「アヒージョに、リエットとチーズを載せたらどうだ?」
「あ、試してみます」
ウルガスはすぐさま、ランスが言った組み合わせをパンに載せて食べる。
「あ、おいしい! 大人の味が、チーズによってまろやかになって、食べやすくなりました!」
嬉しそうに語るウルガスに、ランスは「そうだろうが」と上から目線でいる。
私も食べてみたが、確かにおいしかった。