作品タイトル不明
大森林にて その十一
しんしん、しんしんと雪が降る。
こうして大自然の中にいると、感覚が研ぎ澄まされるようで、雪の降る音が聞こえるような気がした。
スープで体が温まったあと、活動再開させる。
「コメルヴ、大丈夫ですか?」
『うん、ダイジョブ』
コメルヴは『 大丈夫(ダイジョブ) 』と言ったものの、ガタガタと震えていた。
温かい蜂蜜水も、半分ほどしか飲めなかったのだ。
『クウクウ』
「あ、そうですね」
ステラが毛皮でコメルヴを温めてくれるらしい。私が抱いているより、ずっといいだろう。
コメルヴにアルブムを巻きつけ、革袋の中に入れる。顔を出した状態で、紐で軽く縛る。
それを、ステラの首元にあるふわふわの毛に埋め、落ちないようリボンで結んだ。
『温かい……』
「よかったです」
『アルブムチャンモ、温カイヨ!』
私は首に巻いていたアルブムがいなくなって、首元がすーすー冷えるけれど我慢するしかない。
「リスリス、問題ないか?」
「はい、行きましょう!」
風が強くなってきた。降る雪と混ざり合い、吹雪いているようだ。
険しい道のりを、ゆっくりゆっくりと歩いていく。
険しい道のりを越え、強力な魔物との戦闘を繰り返し、急激な斜面を下りて行く。
消耗が激しく、みんな疲労困憊だ。
『もう少しだ。頑張ってくれ』
猫の大精霊様の応援を受けつつ、先へ、先へと急いだ。
そして──大森林にそびえ立つ世界樹のもとに到着した。
天を衝くような巨大な樹だと聞いていたので、遠くからでも見えると思っていた。
しかし、霧が深かったので、世界樹は急に姿を現す。
威圧感というか、空気が重たい気がする。これが、世界樹の威厳なのか。
「それにしても、すごいですね……!」
みんなも驚いているだろう。そう思っていたが──隣を歩いていたリーゼロッテが突然倒れる。
「リ、リーゼロッテ!?」
「どうした!?」
「隊長、リーゼロッテが倒れました!!」
「なんだと!?」
リーゼロッテだけではない。ザラさん、ガルさん、ベルリー副隊長、ウルガスと、どんどん意識を失っている。
「え、な、なんで!?」
その疑問に、猫の大精霊様が答えてくれた。
『世界樹が、魔力を吸収しているんだ!』
「え!?」
猫の大精霊様は、世界樹のほうへと駆けて行く。
大本である大メルヴがいなくなったから、周囲にある魔力を吸収しはじめたのだろうか。
私はきっと、他の人より魔力量が多いので、昏倒しないのだろう。
特に違和感は覚えない。
アメリアとステラも、平気なようだ。アルブムも同様に。
コメルヴは変化なし。震えは収まっているようだけれど。
スラちゃんは心配そうにガルさんを覗き込んでいる。
妖精鞄ニクスは『空気がぐわんぐわんするのん』と呑気に呟いていた。
隊長は魔力がもともと少ないので、平気なのか。それか、山賊力のおかげだろう。
「リスリス、敷物を」
「はい」
倒れたみんなを、雪の上から敷物の上に運んで寝かせる。
作業をしているうちに、威圧感のようなものが薄くなる。
世界樹の前に、巨大な魔法陣が浮かび上がっていた。
『すまなかった!』
すぐに、猫の大精霊様が戻ってきた。
『世界樹が魔力を集めるために、暴走していたようだ』
猫の大精霊様のお母さんと共に、世界樹を鎮めることに成功したようだ。
……ん? お母さん?
ちょっと前に、『母を氷漬けにしてしまい』と遠い目をしていたような気がしたが。
「あの、大精霊様のお母様って、その、氷漬けになったとおっしゃっていましたよね?」
『ああ。妻のおかげで、今は元気だ』
「そ、そうだったのですね」
てっきり、お亡くなりになられたのかと。ホッとした。
『勘違いをさせて、すまなかった。母は私が幼い頃、魔力を暴走させて氷漬けにしたと思っていたんだが──』
実際には違ったようだ。なんでも、猫の大精霊様の魔力の暴走を防ぐために、自らが封印の拠点となるため、氷柱となっていたらしい。
「なんていうか、愛ですね」
『そう、だな。なかなか、衝撃的な出来事だったが』
「ですよね」
霧もだんだん薄くなっていく。
だが、よかったとは言えない。みんな、魔力を失って倒れてしまったし。
世界樹も、このまま封印の状態を保つことは難しいだろう。
『おい、連れてきたぞ!』
凛とした女性の声が聞こえる。目を凝らすと、小さな姿を捉えた。
それは──白い猫だ。
『母上!』
猫の大精霊様は、やってきた猫を「母」と呼んだ。
ということは、あれは母猫の大精霊様なのだ。
母猫の大精霊様は、十個ほどの小さな光球を従えている。
『彼女らが、魔力を分けてくれるらしい』
『助かる』
赤や黄色、青と、色とりどりの光球は『花の妖精』らしい。
私達の危機を聞いて、助けてくれるのだという。
『彼女らも、魔力を奪われて力が通常の半分以下なのに、助けてくれるらしい』
「うう、ありがとうございます!」
隊長も立ち上がって、花の妖精さんに深々と頭を下げていた。
『花の妖精は、普段は二メトル近くあるのだが……こんなに小さくなってしまって』
「け、けっこう、大きいのですね」
『ああ。頼りになる存在だ』
コメルヴが大きくなった感じを想像してみる。
二メトルもあったら、かなりの迫力だ。
花の妖精さんは、みんなに魔力を分け与えてくれた。
口元に飛んで行き、光の粒のようなものを唇に注いでいる。
「うっ……!」
最初に目を覚ましたのは、ウルガスだった。
「あ、頭、割れるように痛いです」
「大丈夫ですか?」
すぐに起き上がらないほうがいいだろう。
続いて、ベルリー副隊長、ガルさん、ザラさん、リーゼロッテの順に目覚めた。
「あ~、もう、最悪」
「ザラさん……!」
「メルちゃん、大丈夫よ。しばらくしたら、元気になるから」
「ええ」
目覚めたガルさんを、スラちゃんが抱きしめていた。
ベルリー副隊長はゆっくり起き上がり、リーゼロッテの心配をしていた。
「ベルリー副隊長、まだ、寝転がっていてください」
「そう、だな」
リーゼロッテは顔色が悪かったが、アメリアとステラが覗き込んだら嬉しそうにしていた。
ひとまず、みんな大丈夫そうなので、ホッと一安心だ。