軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

エスメラルダの怒り その五

食事を終えたあと、雪山に挑む。

毛糸の襟巻を巻いて、手には手袋を嵌める。

耳当ては、ザラさんが毛糸で作ってくれた物だ。

エルフの長い耳を、すっぽりと覆ってくれる優れもの。

耳当てというよりは、耳袋?

これを大量生産すれば、フォレ・エルフの村で大儲けできるだろう。

「メルちゃん、なんだか楽しそうね」

「あ、はい……」

言えない。ザラさんの作ってくれた耳袋で商売して、大儲けすることを考えていたなんて。

「あ、アリタは防寒しなくても平気なんですか?」

『ある程度は平気。人とは体の作りが違うからね』

「なるほど」

自然と近い関係にある妖精は、過酷な環境にある程度の耐性があるようだ。

どこかに、『寒イカラ、行カナイ』と言ったイタチ妖精がいたような気もしたが……まあ、いい。いろいろな種類の妖精がいるのだろう。

しかし、首元がなんだか寒そうだ。

「あの、アリタ、よろしかったらこれ、首に巻いてください」

それは、暇な時間に作った森林檎を刺繍した手巾である。

三角形に折って、アリタの首に巻いて上げようかと手を伸ばしたが届かない。

『え、それ、くれるの?』

「はい」

『わ~い! ありがと!』

アリタが身を屈めてくれたので、首に手巾を巻いて上げることができた。

『どう?』

「カッコイイです」

『えへへ~』

ステラにも家から持参していた大判の手巾を巻き、外れないようしっかり結んだ。

もじもじしているステラに「可愛いですよ」と言うと、控えめに尻尾を振っていた。

そういうところも、ステラは可愛い。

『よし! 準備ができたから、行こうか!』

「ええ」

「はい!」

『クウ!』

アリタが扉を開く。

すると、ひゅう~~っと、冷たい風と雪が吹き込んできた。

「ひえええ、寒いいいい~~!」

「メルちゃん、私の上着、貸してあげようか?」

「いえ、大丈夫です」

『雪山に入るよ~』

ザラさんが騎乗したアリタが先に行き、私とステラもあとに続いた。

そこは、見渡す限りの銀世界である。

背の低い針葉樹林には、真っ白の雪花が咲いていた。

地面の雪はかなり深いようだが、アリタはものともせずに前に進んでいた。

ステラは足が沈む前に次の足を出すという歩き方を繰り返している。

王都近くの雪山とは、雰囲気がまったく違っていた。

樹皮が白い木々が生え、雪もサラサラだ。

風も以前登った雪山より、冷たい気がする。

ここに、氷凍果があるのだ。

「アリタ、どの辺に、氷凍果があるのですか?」

『山頂付近?』

白目を剥きそうになる。

『風が強くなっているから、吹雪にならないうちに登りきろう』

「は、はい」

一時間ほど移動し、休憩を取ることにした。

とは言っても、風と雪をしのげる洞窟が都合よくあるわけがなく……。

「このままじゃ休憩にならないわ。かまくらを作りましょう」

「ザラさん、かまくらってなんですか?」

「北方地方に伝わる、雪で作った雪洞よ」

かまくらとは──半球状に雪を積んで固め、穴を開けて作る雪洞のことのようだ。

雪国の神様を祀るお祭りのさいに、作られたらしい。

神が来るがなまって、かまくらと呼ばれるようになったのだとか。

「この話はうちの村の由来だから、他の村は違うかもしれないわ」

「諸説あり、ということなんですね」

「ええ」

地方によって、いろいろ呼び方や謂れがあるようだ。

「しかし、道具がないので、難しいのでは?」

「大丈夫よ、メルちゃん」

ちょっと離れるように言われる。いったい、何をするのか。

ザラさんは常緑針葉樹の前に立ち、幹を蹴った。

すると、ドサドサと音を立てて、雪が地面に落下する。

こんもりと積みあがった雪を、戦斧で叩いて固めていた。

そして、振り返ったあと笑顔で言った。

「危険だから、良い子は真似しちゃダメよ」

「ええ、そうですね」

多分、ザラさんしかできない芸当だろうけれど。

『あのお兄ちゃん、すごいね』

「雪国育ちですからね」

固まった雪の塊を、ザラさんは斧で掘り始める。

待っている間にお茶の準備でもしておきたかったけれど、この吹雪かけの中では火を焜炉に付けることができなかった。

三十分後、かまくらが完成する。

「ふう、こんなものかしら」

「す、すごい!」

『わあ、雪の家だ!』

かまくらの内部に大判の布を敷いてくれた。

大きさは、ザラさんと私が入れるくらい。

「あ、ごめんなさい。ステラとアリタが入れないわ」

『いや、大丈夫。これくらい、そよ風みたいなものだから』

『クウ!』

気にするな、ゆっくり休んでくれと言ってくれた。

まずは、温かいものを飲まなくては。

ニクスの中から牛乳と紅茶、砂糖、香辛料を取り出す。

分量は量らず、目分量で入れていく。

ぐつぐつと煮込んだ紅茶に粉末の生姜を入れたら、煮込み紅茶の完成だ。

鍋の中の紅茶を、茶こしでこしながらカップに注ぐ。

アリタにも煮込み紅茶を手渡し、ステラには森林檎果汁を与えた。

ふうふうと冷ましてから飲む。

「あ~~、温まります」

「本当に。しかも、甘くて、ピリッとしていて、美味しいわ」

「ありがとうございます」

落ち着いたところで、ふと気づく。

ザラさんと肩が触れ合うほど、近い距離にいることに。

なんだか恥ずかしくなってきたけれど、イヤというわけではない。

って、私は何を考えているのか。

地面に手を置いたら、ザラさんの手を触ってしまった。

「あ」

「す、すみません」

「いいえ、気にしないで。少し、狭かったわね」

「いえ……」

煮込み紅茶を一口飲む。

ザラさんの言う通り、甘くて後味はピリッとしている。

なんだか私達二人のようだと、思ってしまった。