作品タイトル不明
シエル様とキノコ狩り! その三
魔物だ。キノコ型の魔物が出てきた。あれは── 邪悪キノコ(イビル・オンゴ) 。
大きさは半メトル程度か。数は七。
赤いかさに、白い斑点があって、軸部分に吊り上がった目と口がついている。毒はないが、狂暴で人の血肉を好んでいると聞いたことがある。
キノコ狩りをしていた人が襲われたという話は、よく耳にすることがあった。
邪悪キノコは、確かな敵意を発しながら接近する。
『クエエエッ!』
急な魔物の出現に足をすくませていたら、体がふわりと浮く。アメリアが私の首根っこを銜え、ステラの背に乗せたのだ。
キノコを両手に抱えたアルブムも、ステラに跳び乗る。だが、キノコを抱えていたので、背中に到達するまえに勢いを失くす。
『──アッ!』
落ちていくアルブムに手を伸ばし、掴まえた。
『ア、危ナカッタ!』
「キノコを放さないからですよ」
『大事ダカラ、手放セナクッテ!』
なんという食い意地なのか。ある意味尊敬してしまう。
『クエッ、クエ!!』
『クウ』
アメリアが指示を出すと、ステラは数回跳んで後退した。
私達の前にアメリアが立ち、盾を構えるかのように翼を広げる。
同時に、シエル様が叫んだ。
「爆ぜろ── 火炎弾剣(ファイアボム・ソード) !」
水晶剣を掲げると魔法陣が浮かび上がる。それを斬りつけるように動かせば、炎の球が出てきて発射された。
全部で七弾。すべて、邪悪キノコの体を炎上させる。
邪悪キノコは煙を漂わせながら、燃えていた。
「──あ」
『オ、オオ……』
私とアルブムは、あることに気づく。キノコが焼ける香ばしい匂いを感じたのだ。
もちろん、邪悪キノコが焼ける匂いである。
今だったら、ほどよく火が通っているような状態に見えた。
身を縦に裂いて、バターを載せるだけで絶品キノコ料理となるだろう。
ここまで考えて、ぶんぶんと 頭(かぶり) を振った。
『オ、オイシソウナ、匂イ……!』
「アルブム、ダメですよ。あれは魔物です」
『ワカッテイルケレド……』
魔物喰いは禁忌である。しかし、耐えがたいような良い匂いだ。思わず、生唾をごくんと呑み込んでしまう。
シエル様の魔法剣の効果は絶大で、ものの数分で邪悪キノコを燃やし尽くした。
今は、焦げ臭さしかない。
「よし、先を進むぞ」
「あ、は~い」
『了解!』
その後、複数の食用キノコを発見した。やはり、奥地のほうがたくさんある。
「これくらいにして、食事にしましょう」
「だったら、湖のほうに案内するぞ」
「ありがとうございます」
湖は開けた場所にあり、そこには太陽の光が差し込む明るい場所だった。
そこで、採れたてキノコを使った料理を行う。
まず、キノコをじゃぶじゃぶ洗う。容赦なく洗う。風味が飛ぶとか関係ない。綺麗になるまで洗った。
アメリア、ステラが簡易かまどを作ってくれる。
アルブムとコメルヴは、その辺に生えていた薬草を摘んで集めてくれた。
シエル様が、魔法剣で火を熾してくれた。これは、薪がなくても燃え続けるらしい。非常に便利だ。
「火の調整を行うことも可能だ。微調整をしたい時は、言ってくれ」
「ありがとうございます」
皆の協力を得ながら、調理に取りかかる。
一品目は、キノコの串焼き。さまざまな種類のキノコを串に刺し、火で炙る。
この作業はシエル様にお願いした。
「それでは、お願いしますね」
「全力を尽くそう」
何事にも全力で取り組む。さすが、大英雄と呼ばれる御方だと思った。
私は別のキノコ料理に取りかかった。
まず、鍋に油を敷き、細かく刻んだ薬草ニンニクを入れる。続いて、二つに切ったキノコをしっかり焼き色が入るまで炒める。途中から、薄切りにしたベーコンを加えた。
キノコに火が通ったら、牛乳、バター、チーズを入れ、仕上げに塩コショウで味付けをすれば、『キノコのクリーム煮』の完成だ。
「これは焼けているのか?」
『ウ~ン、モウ少シカナ。コッチハ、焼ケテイルヨ』
「うむ。なるほどな」
アルブムがシエル様にキノコの焼け具合を教えていた。大英雄と妖精の交流という、不思議な様子を目の当たりにしてしまった。
焼けたキノコはコメルヴが摘んできた大きな葉っぱの上に並べる。
キノコのクリーム煮も深皿に注いで配った。
アメリアとステラにも、果物を用意する。真っ赤に熟れた森林檎だ。
食事の準備は整った。手と手を合わせていただくことにする。
「ピリカラ茸は、舌がおかしくなりそうなので、後回しですね」
「それがいいかもしれぬ」
まずはキノコのクリーム煮からいただくことにした。
匙でキノコを掬い、たっぷりクリームソースに絡めて食べる。
「むう!」
先に、シエル様が反応を示す。
「歯触りが良く深い旨みもあって、クリームソースとの相性が非常によい。このベーコンですら、キノコの味を引き立てる脇役となっている。素晴らしいぞ」
シエル様は最後に「うまい!」と言って言葉を締めた。
素材の味を存分に生かせるよう、頑張った甲斐がある。
パンにつけて食べると、ソースの中にあるキノコの旨みが溶け込んでいることに気づく。
「はあ……森の恵みに、圧倒的感謝……!」
「そうだな」
続いて、ピリカラ茸の串焼きを食べてみることにした。
シエル様が、焼きたてを差し出してくれる。
「ピリカラ茸……いただきます」
カサの部分にかぶりつく。じゅわっと、ピリカラ茸の旨みが口の中に広がった。
ピリリとした強い辛みに、目が潤んでしまう。
けれど、おいしい辛みだ。
「これは、うまいぞ!!」
シエル様は大絶賛だった。パクパクと食べている。私は一本で満足だ。
あっという間に鍋は空になり、串焼きしたキノコを食べてしまう。
大満足の昼食だった。
「極上の料理は食卓にあるのではない。この、大自然の中にあるのだ。私は、それを食べつくしたい」
食後に、シエルさまはそんなことを言っていた。
「リスリスよ、また、このような食材探しに付き合ってくれるか?」
「もちろんです」
シエル様の夢を叶える手助けを、私もできたらいいなと思った。