軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

骨董市にて その四

ガルさんの馬車の操縦で、進んでいく。

ワイングラスに入ったスラちゃんは、ウルガスが持っていた。

馬車がガタゴトと動くたびに、スラちゃんはワイングラスの中を滑っていた。

馬車が揺れた振動でスラちゃんが零れそうになるので、ウルガスが必死になってワイングラスを傾けないよう努力をしている。

ただ、スラちゃんはその状況すら楽しんでいるように見えた。

ワイングラスの中のスラちゃんを見た隊長は、「酒が飲みたくなってきた」と呟く。

一応、仕事中は飲酒禁止ですからねと、釘を刺しておいた。

だんだんと、骨董市のあるモンリテールへと近づいていた。

「おっ!」

窓の外には、草木が生えていない赤土の大地が広がっていた。

このあたりは開拓して広げた領地のようだが、植物が育ちにくい土地のようだ。

木を伐採したあとは、雑草すら生えないような環境らしい。

モンリテールは比較的大きな街のようだが、周囲のほとんどは荒野だ。

しばらく馬車を走らせていると、畑が見える。

広大な農作地のようだが、水路はなく、土も乾いていた。

ここでは、乾燥地帯でも比較的育つ 黍粟稗(ミレット) を栽培しているようだ。

「しかし、あまり育ちがよくないですね」

「ありゃ、家畜用だからな」

「え!?」

隊長が教えてくれた事実に、驚いてしまう。

ここの地域で作られているミレットは、家畜用に出荷されているのが大半らしい。

フォレ・エルフの村ではスープに入れて食べたりしていたので、衝撃的な情報だった。

小麦の三分の一以下の値段なのに、栄養豊富という素晴らしい食材なのに。

リーゼロッテからも、衝撃的な情報がもたらされる。

「お父様が昔飼っていた小鳥も、ミレットが好物だったわ」

「鳥の餌……」

それよりも、侯爵様が小鳥を飼っていたことに、びっくりしてしまった。

まあこれは、深く触れないほうがいいだろう。

そんなことを話している間に、モンリテールに到着する。

街の出入り口には、馬車が停まっていた。

国内最大の骨董市ということで、買い付けの商人だけでなく、観光客も集まっているらしい。

とりあえず、みんなとは別行動なので、時間を置いて出発することにした。

最初に、私とベルリー副隊長が外に出る。

出入り口は荷物を抱えて道行く商人や、鞄を抱えて歩く観光客でごった返していた。

本当に、いろんな人達がいる。

私達が潜り込んだところで、目立ちはしないだろう。

変装も完璧だし。

骨董市に出店できなかった商人が、地面に敷物を広げて商品を売っている様子も見られる。

新聞や、軽食を売る移動式の商店もあった。

モンリテールは、街に入る前からかなり賑わっている。

「なんだか、わくわくしますね!」

そう言ってしまったあと、口を両手で押さえる。今日は任務できている。遊びではない。

怒られるかと思ったが、そんなことはなかった。

「たしかに、賑やかで心躍るようだ」

ベルリー副隊長は爽やかな笑顔を浮かべつつ、そんな言葉を返してくれた。

隊長だったら、山賊のような顔で「ゴラァ、リスリス! 遊びに来ているんじゃないからな!!」と怒鳴っていたはずだ。

よかった……ベルリー副隊長とのコンビで。

今まで、二人組での任務といったら、隊長とばかりだった。

毎回、何かしら怒られていたような気がする。

何をしたかは、忘れてしまったけれど。

人とは、自分に都合の悪い記憶は消し去ってしまうのだろう。

本日の私はベルリー副隊長のメイド。

お仕えする立場なので、「ベルリー様」と呼ぶことになった。

ベルリー副隊長は私のことを──。

「では行こうか、メル」

「は、は~い」

普段は「リスリス衛生兵」なので、名前で呼ばれると照れる。

しかも、ベルリー副隊長は私の手を握って歩き始めたではないか。

「あ、あの、ベルリー様、て、手は、繋がなくても、大丈夫なのでは?」

「このような人混みでは、離れ離れになってしまうからな」

「あ、そ、ですか」

私達を気にする人など、一人もいない。

だから、大丈夫なのだろう。たぶん、きっと。

◇◇◇

モンリテールの骨董市は、想定以上の規模だった。

街の広場で出店されているのは当たり前として、街中に露店が開かれていた。

細い路地裏まで、店がある。

私とベルリー副隊長の担当は、大広場の半分である。

リーゼロッテとザラさんが、大広場のもう半分を担当する。

隊長とウルガスがそれ以外の地区にある商店担当で、ガルさんとスラちゃんは食品を売る区画を見回るようになっていた。

隊長とウルガスが、一番範囲が広くて大変なような。

心の中で頑張れと応援する。

人と人の間を縫うように進み、なんとかメイン会場にたどり着いた。

「ひ、人が、すごいですね」

「だな」

ベルリー副隊長の言う通り、手を繋いでいなければすぐさま離れ離れになっていただろう。

「わっ!」

一秒でも立ち止まっていると、背中を押されてしまう。

転倒しそうになるそのたびに、ベルリー副隊長が抱きとめてくれた。

「うっ、すみません」

「気にするな。それよりも──」

「商品、ぜんぜん見ることができないですね」

「ああ」

想定以上の人混みで、調査どころではない。

どうしてこうなったのかと天を仰いでいたら、またしても背中をドン! と押されてしまった。

ぐぬう~~。