作品タイトル不明
遠征二日目
朝食後、しばらく胃を休めてから、山賊探しを再開させる。
昨晩、ぐっすり眠れたので、体は全快だ。
やはり、布団の上で眠るのは、疲労回復の面においても違うのだろう。
二日目の隊列が発表される。
先頭に隊長、ガルさん、ウルガス、私、アメリアとステラ、リーゼロッテ、ベルリー副隊長、ザラさんの順である。
前を歩くウルガスが、ポツリと呟いた。
「本当に、山賊っているんですかね」
そんなウルガスの一言を聞いた隊長が振り返る。
「おい、ウルガス、また山賊って言ったか!?」
「ち、違います。さっきの山賊は隊長のことではなく、本物の山賊のことです」
隊長はチッと舌打ちし、再び歩き出す。
昨日、成果が得られなかったので、イラついているようだ。少々、神経質になっている模様。
「リスリス衛生兵、隊長、珍しく焦っているんですかね?」
「かもしれないですね」
今までも捜索系の任務はあったが、いつもだったら一日目にちょっとした証拠は見つかっていたような気がする。
調査範囲が広いのも、心の重荷になっているのかもしれない。
隊長はああ見えて、二十歳の青年。まだ、いろいろと繊細なのだ。
「ウルガス、しばらく、山の賊については禁句ですよ」
「はい、山の賊については、自粛しておきます」
山の賊が早く見つかりますように。
ウルガスと共に、願った。
◇◇◇
一時間半ほど歩いたら、草原地帯を抜ける。湖がある、少しだけ開けた場所に出る。
先には、森が広がっていた。
やはり、私が休みたいと言わなければ、草っぱらで野営する事態にならなかったのだ。
深く、深く、反省する。
今度からは、食事の前に野営地を優先的に探す。
遠征の鉄則として、胸の中に刻んでおく。
「少し、休憩する」
「了解です」
その辺に落ちていた石を円形に並べ、簡易かまどを作る。鍋を置き、湯を沸かした。
湯が沸いたら、紅茶を淹れてみんなに配った。
『フウ、結構、歩イタ』
アルブムがやって来て、額を拭うような仕草をする。
妖精なので汗は掻かないが、人のすることを真似したいお年頃なのだろう。
「結構歩いたってアルブム、まだ、一時間半くらいですよ」
『エ、ソウナノ?』
減量効果はあったのか。細長い胴を持ち上げてみたが、朝と変わったようには思えない。
まあ、私達の歩く速さについてきたことは、偉いけれど。
それにしても、アルブムってば、また最近太った?
上下に動かしていたら、腕に筋肉が付きそうだ。
『ア!』
視界が高くなったアルブムは、何かを発見したようだ。
放すと、テテテと走り出す。再び、草の生い茂るほうへ行き、姿が見えなくなった──かと思えば、穴掘りをしているのか土が舞い上がる。
十分後、アルブムは全身土で真っ黒になった状態で戻ってきた。
『パンケーキノ娘ェ、見テ! 山芋(ヤム) ヲ発見シタヨ!』
「お、おお」
アルブムは蔓を引いて、一メトル半ほどの山芋を引きずってきた。
山芋とは、山に自生する細長い芋だ。粘り気があって、けっこうおいしい。
「よく、この短時間で掘ることができましたね」
『エヘヘ~』
山芋は縦に生える。そのため、折れないように慎重に掘らなければならない。
大物を掘る時は、数時間かかる時もあるのだ。
『コレ、オ昼ニ、ミンナデ、食ベヨ』
「いいのですか?」
『ウン。ミンナデ食ベタホウガ、オイシイデショ?』
「ありがとうございます」
いい子、いい子をしていたら、顔を顰めた隊長に話しかけられた。
「おい、リスリス、なんだ、その黒い生き物は? また、変な生き物と仲良くなっているんじゃないだろうな?」
「あ、これ、一応アルブムです」
「洗ってこい。今すぐにだ」
「はい」
近くに湖があってよかった。
アルブムをむんずと掴み、わっしゃわっしゃと洗う。
『パンケーキノ娘ェ、アルブムチャン、背中ガ痒イ』
「痒いところを聞く前に、言ってくる人は初めでです」
人じゃなくて妖精か。
爪を立てて、思いっきり掻いてやった。
『アア~~、気持チイイ!』
普段だったら無視するけれど、今日は食材を探してくれたので、そのお礼として徹底的に綺麗にしてあげた。
背中に山芋を背負い、山賊捜索を再開させる。
「山芋背負って騎士隊の任務をしているの、リスリス、お前くらいだからな」
「でしょうね」
山芋は精もつくし、おいしいし、素晴らしい食材なのだ。
折らないように、慎重に運ばなければ。
「アルブムのおかげで、お昼はおいしいものが食べられそうです」
『デショ~』
そんなやりとりをしていたら、籠の中のエスメラルダが割り込んでくる。
『キュッ、キュウ』
「え、本当ですか?」
アルブムと張り合っているのか、エスメラルダも歩いていたら何か発見できるかもしれないと主張している。
「だったら、エスメラルダも歩いてみますか?」
『キュウッ!』
エスメラルダは、恐る恐るといった足取りで地面に降りる。
あまり外歩きは慣れてないのか。
そういえば、あまり地面を歩いている姿を見ていない。
契約してから、私がほとんど抱いていたのだ。
もしかして、本当の箱入り娘なのか。
『キュウ!』
一歩歩いただけで、足に泥が付着したと騒ぎだす。やはり、自分で歩くのは向いていないのでは?
「おい、リスリス、何をちんたらしているんだ?」
「あ、すみませ~ん! エスメラルダ、今は急ぐので籠の中に入ってくださ──」
『キュキュッ!』
「え?」
エスメラルダが何かを発見した。
もしかして山芋? と思ったが、違った。
それは、小さな足跡だった。