軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

猪豚と黒酢のスープ

と、いうわけで、夏祭りの軽食開発係に任命された。

夏祭りのある時期は特に暑く、人混みの中全身フル装備で活動する騎士は暑気あたりの症状が出てしまうのだとか。

暑気あたりとは、夏の暑さが原因で体調を崩すことを言う。

症状は食欲不振、頭痛、吐き気、下痢、眠気、発熱、失神など、多岐にわたるらしい。

高温多湿の環境に、体が対応できなくなるのだ。

かくいう私も、たまにそういう症状で魔術医の先生にお世話になったことがある。

森の中で夢中で薬草を採取していたら、うっかり。と、いった具合である。

暑い場所に長時間いると汗を分泌させる 汗腺(かんせん) が詰まり、発汗が困難になるのだ。その影響で体温調節ができなくなった結果、具合を悪くする。

また、過剰発汗した場合も、水分不足に陥って、体調を崩してしまう。

まず衛生兵の視点から、暑気あたりにならないための指導書を作成する。

夏祭りを迎える前に、できる予防をいくつかあげた。

一つ目は、栄養価の高い食事を取ること。

疲労回復効果の高い、 猪豚肉(スース) 、豆類などを中心に、精を付けるようにするのだ。

二つ目は、ぬるめのお風呂に入ること。

血液循環が良くなって、リラックス効果を得ることができる。

アツアツのお風呂は脳が興奮してしまうので、注意が必要。

お風呂から上がったあと、しっかり水分補給をするのも重要だ。

三つ目は、質の良い睡眠を取ること。

疲労回復こそ、大正義。元気な体は、夏の暑さも撥ね返す。

深い眠りで、その日の疲れを取るのだ。

以上が、暑気あたりにならないための予防である。

一度隊長に提出して、総隊長に報告するか否かの判断をしてもらった。

「よ~し、これからが本番ですね」

腕まくりして、騎士達が元気になるような軽食を試作する。

アルブムは『ワ~イ』と喜んでいたけれど、あくまでも仕事だと念を押しておいた。

スラちゃんはぐっと拳を作り、やる気を見せている。

エスメラルダは調理室の花台の上で丸くなり、日向ぼっこをしていた。

目が合うと、頑張るように上から目線で言われる。

相変わらずの、お嬢様ぶりだ。

ここで、資料を再度確認する。

食堂のおばちゃんから集めた、騎士達の声を再度読んだ。

「食欲がない、気持ち悪い、こってりしたものは食べたくない……ですか」

食欲がないからと、甘い果実汁や氷菓ばかり食べたり飲んだりしていたら、糖分過多で疲労感を覚えてしまうのだ。負の連鎖である。

そうならないためにも、飲み物は茶か水がいいだろう。

食べ物は何にするのか。大人数用の料理だったら、スープとかが手っ取り早くて楽なんだけど、暑い中、熱いスープを食べろというのはなかなか辛い。

「さっぱり系がいいのか……」

『サッパリシタ、スープ、作ル?』

さっぱりしたスープねえ。

「酢の入ったものとか」

『パンケーキノ娘、酢ッテ何?』

「穀物や果実を原料にして作った、酸味の強い調味料ですよ」

酢にはたんぱく質を作る栄養素がたくさん含まれている。また、酢の中にある酢酸は体内に取り込むと血液を通して筋肉へと到達し、活動力となるのだ。

「いいですね、酢のスープ。作ってみますか」

調味料は一通り揃っている。侯爵様がいろいろ準備してくれていたのだ。

「へえ、黒い酢ですか。こんなのもあるんですね」

『パンケーキノ娘、ソレ、黒イケレド、大丈夫ナノ?』

「いい機会なので、使ってみましょうよ」

そんなわけで、猪豚と黒酢を使ってスープを作る。

まず、調味料の準備から。水と酒、粉末鶏ガラ、塩コショウに 山椒(ハジカミ) 、 唐辛子(ピマン) などの香辛料。

これを、深皿に入れて混ぜておく。

続いて、鍋に油を敷いて、乾燥させた薬草ニンニクと角切りにした猪豚を炒める。

『ア~~、良イ匂イ』

「アルブム、鍋に近づき過ぎないでくださいね」

『ハ~イ』

いまだに、肉食妖精の存在に慣れない。アルブムだけかもしれないけれど。

夏の調理は、とにかく熱い。額の汗を、手巾で拭う。

肉を炒める私を、スラちゃんが瓶の中で応援してくれていた。

肉に火が通ったら、合わせ調味料に酒と水を合わせたものを入れ、最後に黒酢を入れた。

これにて、『猪豚の黒酢スープ』の完成である。

「では、味見しましょう!」

『ワ~イ』

皿にスープを装っていると、エスメラルダがやってきた。

「あなたも食べますか?」

スープをエスメラルダの前に置く。興味があるのか、くんくんと匂いを嗅いでいた。

「熱いので、ふうふうして食べて下さいね」

注意すると、エスメラルダは小さな口でふうふうし始める。

そして、一口飲んだ。

「おお!」

もしかして、ゼリーの他にスープも飲めるのか。そう思ったが──。

『キュッフ!』

「……」

エスメラルダはスープを飲んですぐ、噎せた。

何度か咳き込んだあと、前足でスープの皿を押しやり、ツーンと顔を逸らしたのである。

「こ、これは、お口に合わなかったということですか」

そういえば、味見をしていない。酢のスープなんて初めてだった。おいしくできていない可能性が浮上する。

『アルブムチャンモ、食ベテミルネ』

アルブムは匙を持ち、器用に操りながらスープを飲んだ。

『ア~、チョット酸ッパイケレド、オイシ……ゲッホ!!』

アルブムもまた、エスメラルダ同様に噎せ始める。

いったいどうしたというのか。

「どれ、私も……」

匙で掬って、一口。

「あ、意外とおいしいかも。確かに酸味はありますが……えっほ!!」

ごほん、ごほんと何度か咳き込む。

「こ、これ、ダメですね」

おいしいけれど、噎せてしまう。おそらく、強い酸味が喉を刺激してしまうのだろう。

『エ、デモ、ゴホン、コレ、オイシイ、ゴホンゴホン、ヨ』

アルブムは、噎せながらも黒酢スープを食べてくれた。とってもいい子。