作品タイトル不明
楽しい夏祭り その二
遠征部隊の総隊長と会うのは、勲章授与以来か。
個人的な呼び出しだなんて、嫌すぎる。
「た、隊長、もしかして、幻獣関係ですか?」
「違う」
「だったら、魔力関係?」
「それも違う。いいからさっさと行け」
「りょ、了解です」
誰か、一緒に行ってくれないものか。
まず一番に、アメリアを見る。目があった瞬間、ふるふると首を横に振った。
『クエ、クエ~~』
「あ、はい」
アメリアの体の大きさでは、執務室に体が入りきらないだろうとのこと。
彼女の体は現在、二メトル半ほどまで成長している。階段を上ったら他の歩行者の妨げとなる上に、扉には翼が引っかかるだろうことは容易く想定できる。
ステラは──おどおどしていた。
彼女の体長は二メトルほど。もふもふしているけれど細身なので通行者の邪魔にならず、扉も通れないということもないだろう。
しかし、ステラは人見知りする。無理に連れて行くわけにはいかない。
続いて、エスメラルダは──私と目が合うと、天鵞絨の布を敷いた籠の中に入って丸くなる。名前を呼んでも、こちらを見ようとしない。
残念ながら、遠征部隊の総隊長の執務室まで、一緒に来てくれる子はいないようだ。
『アノ、パンケーキノ娘?』
いつの間にか私の足元に来ていたアルブムが、話しかけてくる。
『アルブムチャンガ、ツイテ行ッテアゲヨウカ?』
「本当ですか?」
アルブム一匹でも、いないよりはマシだろう。
私はアルブムを抱き上げ、部屋を出ようとしたら想定外の事態となる。
『キュウ!』
エスメラルダが急にやってきて、一緒に連れて行くように主張するのだ。
「え、あなた、行かないって言ったじゃないですか」
『キュ、キュウ!』
気が変わったらしい。さすが、お嬢様系幻獣だ。
仕方がないのでアルブムと一緒に持ち上げたが、地味に重たい。
二匹同時に持ち歩くのはキツイので、エスメラルダは籠に入れてアルブムは首に巻いた。
夏は暑いけれど、我慢だ。
さて、いざ出発と思いきや、ドコドコと何かを主張する音が聞こえた。
これは、スラちゃんだ。
目が合うと、ぐっと親指を立てる仕草を作っている。これは、「一緒に行ってやるぜ!」みたいなヤツだろうか? 念のために質問してみたら、手をにゅっと伸ばして丸を作ってくれた。
「ガルさん、スラちゃんを借りてもいいですか?」
ガルさんはコクリと頷き、腰ベルトにぶら下げていたスラちゃんを手渡してくれた。
スラちゃんの入った瓶は、ひんやりして気持ちがいい。
瓶を頬に当て、至福の時間を過ごす。
「それにしてもスラちゃん、氷みたいに冷たいのですが」
ガルさんはその秘密を教えてくれた。
なんでも、朝、氷の欠片を食べさせたらしい。それで、こんなに冷え冷えになると。
「スラちゃん、すごいです!」
スラちゃんは誇らしげに、えっへんと胸を張っていた。
こうして仲間を得た私は、アルブム、エスメラルダ、スラちゃんを連れて、遠征部隊の総隊長の呼び出しに応じることになった。
第二部隊の騎士舎を出て、中庭を突っ切り、渡り廊下から総隊長の執務室がある建物の中へと入って行く。
アルブムとエスメラルダを持っていると、すれ違う騎士達からちらちらと見られる。
見知らぬ騎士の一人が「森の仲間達だ」と言っていた。
誰が森の仲間達だ。まことに遺憾なり。
しかし、冷静になってみると、幻獣、妖精、精霊、フォレ・エルフを一言で表すのに、『森の仲間達』は間違っていないような気がした。
そんなことを考えながら歩いていると、遠征部隊の総隊長の執務室にたどり着いてしまった。
「……ううっ」
『パンケーキノ娘、頑張レ。アルブムチャンガ、応援シテイルヨ』
「ありがとうございます」
幻獣についてと魔力についてではないと言っていたので、痛いところを 突(つつ) かれるわけじゃないだろう。
もしもそうだとしたら、私一人で来るはずがないのだ。
息を吸い込んで──吐いた。
拳を握り、気合を入れて、扉を叩く。
「誰だ?」
「第二遠征部隊、第三衛生兵のメル・リスリスです」
「入れ」
扉を開く前に、深呼吸する。
破裂しそうなほどにバクバク鼓動する胸を押さえ、息を吸って、吐いて。
深呼吸の一回くらいで緊張は収まらなかったけれど、腹を括って中へと入った。
「失礼いたします」
執務室は真っ赤な絨毯が敷かれ、総隊長の大きな執務机がドン! と置かれていた。
そこに腰かけるのは、五十代くらいの貫禄のあるおじさんもとい、遠征部隊の総隊長である。
背後にたたずむのは、金髪碧眼の美女だ。きっと副官か秘書だろう。
「突然呼び出して、すまなかった」
「い、いえ」
「隣の部屋でゆっくり話をしよう」
「……はい?」
話は執務室ではなく、隣にある休憩室で行うようだ。ますます、何の用事なのかわからない。
隣には、マホガニーの大きなテーブルと、黒い革張りの長椅子が置いてある。
「そこに、腰をかけるように」
「は、はい」
「その籠や瓶も、テーブルに置け」
「ありがとうございます」
お言葉に甘えて、エスメラルダとスラちゃんをテーブルの上に置く。
金髪碧眼の美女が紅茶とお菓子を持ってきてくれた。
紅茶にはミルクがたっぷり入っており、お菓子は乾燥果物入りのケーキだ。
なんだか待遇が良いような?
そんなことを考えていると、ぽたりと生暖かい何かが首筋を伝う。
「え、何──うわっ!」
触れる前に、アルブムの涎だと気づく。
「ちょっと、アルブム! 涎垂らさないでください」
『ア、ゴメン』
きちんと朝食与えたのに、これだ。今朝も大人一人分の料理を平らげてきたのに、いったいどういう胃の構造をしているのか。
「その妖精にも、ケーキを与えるといい」
「す、すみません」
総隊長はにこやかに言ってくれた。隊長より、はるかに良い人だと思う。
私は膝にハンカチを広げ、アルブムを乗せる。そして、いただきますと一言断ってから、ケーキをひと切れいただいた。
アルブムは目を輝かせながら受け取ると、はぐはぐと食べ始める。
「そこの幻獣は、ケーキはいいのか?」
「えっと……エスメラルダ、ケーキ、食べますか?」
そう問いかけると、エスメラルダは籠から顔を出したが、すぐにツーンとした。
予想通りである。
「幻獣のほうは、いらないそうです」
「そうか」
その後、シンと静まり返る。
気まずいので、ドギマギしながら話しかけた。
「あの、それで、ご用件は?」
「ああ、そうだった。忘れておった」
本題を忘れないでほしい。心からそう思う。
総隊長は金髪碧眼の美女に目配せをして、指示をだす。
私の前に、書類の束が置かれた。
表紙に書かれていたのは──夏祭り衛生本部案。
「こ、こちらは?」
「一枚目を捲ってくれ」
ぺらりと捲ると、昨年の夏祭りでの騎士隊の活躍が書かれていた。
酒に酔った暴漢を取り押さえ、ひったくりを捕まえ、喧嘩を収めさせる、子どもが迷子になる──などなど。
その事件数は、開催三日間で四百件以上にも及ぶ。
夏祭りは、たくさんの事件が起こるようだ。
夏祭りは夕方から夜までの八時間で、一時間に十七件くらいの事件が起こっている勘定か。
それを、王都にいる騎士が協力して解決しているらしい。
二枚目は、騎士隊側の被害だ。
暴漢に殴られ、打撲。ひったくりに抵抗され、ナイフで頬を切られる。喧嘩を止めようとして腹部殴打など、さまざまな症状が書かれていたが、一番多いのは暑気あたりだった。
「去年は何名もの騎士達が倒れ、困った状態となった。そこで、今年は巡回騎士のための本部を作り、休憩を順番で取らせようと考えているのだが──」
ここで、三枚目を捲るように言われる。
書かれてあったのは、衛生兵による本部の運営を提案するものであった。
「リスリス衛生兵の体の調子を整える料理は、第二部隊のルードティンク隊長からの報告書でいつも読んでおって、とてもおいしそうだっ……いやいや、とても素晴らしいものだと思いながら読んでいた」
「はあ」
「それで、本題なのだが、夏祭りの巡回騎士が休む休憩所で、騎士達のための軽食を考えてほしい」
な、なんだって~~!?(※本日二回目)