軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

森竹のキノコリゾット

「え~っと、ではどうしましょう? いったん、シエル様は家に戻りますか?」

「なぜ?」

「私物はいいのですか?」

「ここにあるぞ」

シエル様は腰に付けていた小箱を差し出す。手のひらよりも小さく革製で、艶やかな表面を見ていると上等な品であることがわかる一品だった。

冒険用の薬などを入れる小箱に似ているが、違うらしい。

「これは、道具箱という魔道具で、異空間に繋がっており、ちょっとした小屋程度の収納を可能とする」

「へえ、便利な品があるんですね」

「この国は、魔道具は普及していないのだな」

「あるにはありますが……普及という意味では、そうですね」

衛生兵に支給される魔道具、環境検査器具は大変高価な品だと聞いている。

他にも、いつまでも料理が温かいお皿や、氷製造機、瞬間湯沸しヤカンなどさまざまな商品が売っているが、どれも私達庶民に手の届く品ではない。

「生活用の魔石ですら、根付いていませんから」

「なんだと? では、どうやって湯を沸かしているのだ?」

「えっと……火を熾して薪をくべて……」

「なんという、すろーらいふ的な行為なのか!」

なんだろう。王都にいるのに、スローライフな生活判定されるなんて。

「そういえば、シエル様はなぜ、スローライフな暮らしをしようと思ったのですか?」

老後の楽しみであるとは聞いていた。どこに、その楽しみを見出したのか、気になったのだ。

「それは、すろーらいふについて書かれた本が面白かったというのが一番の理由であるが――その前に、この世界に漂う魔力が、極端に減っているような気がしてな」

シエル様の生まれ育ったセレディンティア国は、魔道具のおかげで豊かな暮らしをしているらしい。

なんと、農作物ですら魔力の力を借りて生産しているのだとか。

元々、セレディンティア国は豊かな国ではあったが、アイスコレッタ家の魔法使いによって、大きく発展したようだ。

シエル様は説明を続ける。

「魔法を発動する時の魔力は自身にある内なるものを使う。しかし、魔道具の場合は大気中に漂う魔力を使うのだ」

国中が魔道具を使ったら、魔力量も減ってしまう。その点を、危機的に思っているらしい。

「魔道具を使わなくとも、薪を使えば木は減る。他の燃料もそうだろう。しかし、この国はそれで長年暮らしてきた。きっと、何か対策をしながら暮らしていたに違いない」

「ええ、まあ」

「だから私は、魔力を使わない生活の基盤を、すろーらいふから知りたいと思ったのだ」

なんて立派な御方なのか。国どころか世界の未来を憂い、ここまでできるなんて。

変わった人だと思ってごめんなさい。

「都会的ではなく、魔道具に依存しないで生活している国というのならば、見る価値がある。さあ、リスリス、ゆくぞ!」

「は、はい!」

こうして、私達はシエル様を伴って帰還することになった。

◇◇◇

シエル様の乗った馬車は、大勢の護衛に囲まれながら進んで行った。

私達も同席したわけだけど、どうにも落ち着かない。

シエル様は窓の外から見える、さまざまな物に興味を示す。

隣に座ったウルガスが、回答者に選ばれていた。

「ウルガス少年、あのくるくる回る十字のある建物はなんだ!?」

「風車ですよ。風の力を使って、小麦を挽いたり、排水を行ったり、さまざまな活用法があります」

「なんと!」

私達の生活に根付いている当たり前の物ですら、シエル様には珍しいものらしい。

どんな質問でも、丁寧に説明するウルガスの様子にシエル様は感激していた。

「ウルガス少年、お主も、私のはーれむに入れてやろう」

ウルガスは困惑半分、面白み半分といった、なんともいえない表情でいる。

隊長が「光栄なことだ、喜べ」と声をかけると、我に返ったようで「嬉しいです」と震える声で答えたのちに、ぎこちない笑顔を浮かべていた。

晴れて、ウルガスはシエル様のハーレムの一員となったのだ。

そんなことはさておいて、昼食の時間となる。

馬車を停めて、野営の準備を行う。

「リスリス、食事はどうする?」

「作りますよ」

一応、兵糧はわけてもらったが、おいしくないのでお返しした。

昨日、森を散策していて発見した物を使って、料理を作る。

「じゃ~ん! 森竹(フォレ・バンブ) です」

人の腕ほどの太さがある、中が空洞になった植物だ。

見慣れぬ物のようで、隊長は訝しげな視線をビシバシ向けていた。

「これ、食えるのか?」

「食べません」

フォレ・エルフの森にも自生していたもので、中に水を入れて水筒代わりにしていた。

「これで、料理を作ります」

「はあ!?」

まあ、見ていたまえ。

ニクスの中から取り出したのは、白米だ。

燻製肉と乾燥キノコ、チーズ、バターを切り刻む。

洗った白米に刻んだ材料を混ぜ、胡椒でしっかり味を付ける。

続いて、穴を開けた森竹の中に入れて水を注いで蓋を閉じた。

「これを、火に当てて炊きます」

三十分ほど炊いて、十分間は布に包んで蒸らす。

完成したものを、ナイフで割る。

「すると――森竹のキノコリゾットの完成です!」

「おお!!」

一番良い反応を示してくれたのは、シエル様だった。

「自然の植物が、食べ物の調理具となり、皿代わりにもなるとは!」

「どうぞ、召し上がってください」

シエル様は貴族なので、ちょっとお上品な料理を作ってみたのだ。

心配そうな表情を浮かべるアルブムにも、一本与えた。

『アルブムチャンモ、イイノ?』

「ええ、どうぞ。熱いので、気を付けてくださいね」

森竹を集めるのは、アルブムが手伝ってくれたのだ。当然、食べる権利がある。

「では、食べましょう」

手と手を合わせて、食べ物への感謝の祈りを捧げる。

ナイフを手に持ち、森竹を割る――が。なかなか硬い。

「メルちゃん、私が割ってあげるわ」

「ありがとうございます」

私の森竹はザラさんが割ってくれた。

ウルガスも割れなくてチラリと隊長を見たけれど、無視されていた。

「ウルガス少年よ、私が割ってあげよう」

「あ、ありがとうございます。恐縮です」

シエル様、なんて優しいのか。山賊も見習ってほしい。

まずは、シエル様が食べるのを見守る。

相変わらず、兜は取らないようだ。口元を開くだけだ。

白米自体も初めてだったようで、恐る恐るという手つきで食べていた。

「むむ!?」

兜で顔が見えないのでおいしいのかまずいのか、わからない。

感想を待つばかりだ。ウルガスが質問する。

「シエル様、どうですか?」

こっくりと、シエル様は大きく頷いた。

「うまい!! 驚いた。この、白米とやらで作った料理は、驚くほどうまい!!」

その感想を聞き、安心して私も食べる。

キノコの出汁がよく染み込んでいて、チーズの塩気が良い感じだ。

角切りにした燻製肉がゴロゴロと入っているので、食べ応えもある。

端っこの焼き色がついている部分も、カリカリして香ばしい。白米も芯はなくしっとりしていて、おいしかった。

「赤葡萄酒と合いそうな味だな」

隊長がボソリと呟くが、任務中なのでお酒を出すことはできない。

ここで、周囲から注目が集まっていることに気付く。

皆、切なそうに兵糧食を食べていた。

シエル様はしみじみと言う。

「気持ちはわかる。戦場の食事はまずかった」

冷たくて、味が濃くて、歯が折れそうなほど硬かったらしい。

「私達は少数部隊なので、このように食事を作ることができるのですよ」

「そうだな。これを、全員分作るのは難しい」

改めて、第二部隊に配属できてよかったなと思う。

こうして、みんなに料理をふるまうことができたから。

しんみりしていたら、食べ終えたアルブムがよろよろとした足取りで近付いてくる。

『アウウ~~、オイシカッタケレド、熱カッタカラ舌ガ、ヒリヒリスルヨオ』

「だから、言ったじゃないですか」

アルブムはがっつきすぎて、舌を火傷してしまったようだ。

そこへ、救いの手が差し伸べられる。

『コメルヴの葉っぱ、あげようか?』

『ワア、アリガト』

コメルヴの葉っぱを食べたアルブムは、すぐさま舌が完治したよう。

ひと安心だ。

◇◇◇

そして、王都に辿り着く。

シエル様はまず、リヒテンベルガー侯爵家に滞在してもらう。

紹介はリーゼロッテがしてくれるらしい。

侯爵様に睨まれるのではと思っていたので、地味に助かる。

「リスリスよ、世話になった」

「いえ、こちらこそ、助けていただきありがとうございました」

「これは、礼だ」

シエル様は道具箱から革袋を取り出す。

大きさは 南瓜(キュルビス) くらいである。受け取ると、ずっしりと重かった。

セレディンティア国の珍しい野菜なのか。だとしたら、ありがたい。

未知の食材は、興味がある。

ワクワクしながら中を見たら、表面がツルリとした真っ白い石のようなものが入っていた。

「あの、シエル様、これは?」

「二十年前に、従兄からもらった物だ。なんでも、ツケモノ石、というものらしい」

「ツケモノ石……?」

セレディンティア国のアイスコレッタ家の血筋ではなく、メセトニア国のアイスコレッタ家の人から譲り受けた物らしい。

異国の食べもの、ツケモノを作るのに必要不可欠なものなのだとか。

「しかし、綺麗な丸ですね。ただの石には見えませんが」

「ああ、なんでも、貴重な物らしいが、私は使わんから、やるぞ」

「はあ」

私も使い方がわからないんですけれど……。

しかし、せっかくの厚意なので、受け取ることにした。