軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

突然の大事件

コメルヴの救出を経て、大英雄シエル・アイスコレッタを訪ねる任務を再開させる。

『コノ子、本当ニ、連レテイクンダネ』

コメルヴはアルブムにギュッと抱きついている。どうやら、暖を取っているらしい。寒いというわけではなく、毛皮がふかふかで程良い温かさなのだとか。

『ナンカ、嫌ッテワケジャナイケレド、葉ッパガ、ガサガサシテイテ』

「仕方ないですね……」

コメルヴに手を差し出すと、腕によじ登ってくる。暖を取るのは私でも問題ないらしい。

『ア、アノ~~、パンケーキノ娘ェ』

「なんですか?」

アルブムはもじもじしながら話しかけてくる。

『エット、ソノ~、アルブムチャンモ、パンケーキノ娘ノ膝ニ、座ッテモイイ?』

まさか、アルブムまでも私で暖を取ろうだなんて。しかし、冬の間私もアルブムを襟巻にしていたことを思い出す。

「いいですよ」

『ワ~イ、アリガトウ!』

アルブムは私の膝へと飛び乗ってくる。すぐさま丸くなり、目を閉じていた。

「眠たいんですか?」

『ウン。昨日、変ナ物音ガ聞コエテ……』

「変な音ですか?」

『ドーン! ッテイウ音』

「なんですか、それは?」

『聞コエナカッタ?』

一晩中、目を覚まさずに朝までぐっすりだった。他の人もそうらしい。

「ガルさんも聞こえなかったのですね」

こっくりとガルさんは頷く。スラちゃんもわからなかったのか、にゅっと伸ばした手でバツを作っていた。

「ってことは、隊長やベルリー副隊長も聞こえなかっただろうなあ」

現在、ベルリー副隊長がアメリアに跨って飛んでいる。

隊長は朝、何も言わなかったので、聞こえなかったのだろう。

う~む、なんだか引っかかる。

「あの、アルブム。その音って、どんな感じですか?」

『エットネエ、ドーン、ウワ~、ガラガラ、ビリビリ、ゴウゴウ……ッテ感ジ』

「まったくわからないですね」

ただ一点、わかることは私達の近場から聞こえたものではないことだろう。

「私達が野営していた場所から、どのくらい離れているかわかりますか?」

『ゴメン、ワカラナイ』

「そうですか」

妖精であるアルブムにその辺の説明を求めるのは酷なことだろう。

「メルちゃん、その音のこと、隊長に報告したほうがいいと思うの」

「そうですね。気になりますし」

そんな話をしていたら、馬車が急停止する。もしや、魔物でも出てきたのか。

車内にいた、ウルガス、ガルさん、ザラさんの表情が引き締まったものとなる。リーゼロッテは不安そうに、私に身を寄せていた。

コメルヴは私にぎゅっと掴まっていたので大丈夫だったけれど、膝に丸まっていたアルブムはぶっ飛んだ。ガルさんが空中で掴まえてくれたので、天井に激突という難を逃れる。

すぐに、コンコンと馬車の扉が叩かれた。ガルさんがカーテンを広げ、ベルリー副隊長だというのを確認してから、扉を開いた。

「急に止まってすまない。人が飛び出してきたんだ」

どうやら、魔物が出現したわけではなかったらしい。ひとまずホッとする。

しかし、どうして人が飛び出してきたのか。現在、隊長が話を聞いているらしい。

「いったい何があったのか。かなり動転していて、喋る内容が言葉になっていない」

「それって、隊長が相手だからじゃないですか?」

怖い目にあったであろう人が助けを求めた相手は山賊だった。確かに、怖すぎる。

ウルガスが的確に原因を突きとめた。

「私も合流しよう」

ベルリー副隊長も事情聴取に向かった。

十五分後、招集がかかる。馬車から降りて、何があったのか語られる。

馬車を停めたのは、二十代半ばくらいの青年だった。全身煤だらけで、憔悴している。

「どうやら、この近辺にある村でがけ崩れが起こり、土石流に呑まれたらしい」

そこは、山を開拓して造られた村で、背後は崖だったようだ。それが、三日前の大雨で地盤が緩み、岩や土が村に襲ってきたのだとか。

「村の半数は土石流に呑み込まれ、数軒は岩で倒壊。怪我人は把握できていない」

なんとも絶望的な状況である。

もちろん、私達ではなんともできない。

「それで、リスリス、頼みがある」

「はい?」

「アメリアに近隣の街や王都へ向かう早打ちの使者を頼みたいのだが」

騎乗するのはベルリー副隊長。馬で行ったら数日かかるが、アメリアだと一日で飛んでいける。近くの街ならば、数時間で行けるだろう。

馬車や馬は整えられた街道しか走れない。だが、アメリアは森や山を越えて飛んで行くことができるのだ。

私はちらりとアメリアを見る。任せてくれと言わんばかりに、翼をバサァ! と広げていた。

「では、アメリア、頼めますか?」

『クエ!!』

「すまない。助かる」

アメリアに果物、ベルリー副隊長にはパンとビスケット、干し肉、黄金蜂蜜を手渡す。

「どうか、お気をつけて」

「リスリス衛生兵も」

アメリアはぎゅっと抱きしめた。私を安心させるように「 大丈夫(クエ) だから(クエ) 」と言ってくれる。

すぐに、ベルリー副隊長とアメリアは出発した。

私達も急いで現場に向かう。

◇◇◇

馬車の中はどんよりと暗い。誰も、村人の青年にかけるべき言葉が見つからなかったのだ。

私は勇気を振り絞って、声をかける。

「あの、怪我とか、していませんか?」

見た感じは負傷しているように見えない。しかし、念のために聞いてみた。

「いえ……なんとも。俺だけ助かって、家族は――!!」

村人の青年はぐっと、拳を握る。どうやら、家族を亡くしてしまったようだ。気の毒である。

以降、シンと静かになった。ブルブルと手が震えているのを、見ることしかできない。

私はハッとなり、ニクスの中からガーゼを取り出して水で浸す。

「あの、手を、拭きますね」

青年はあちらこちら煤だらけだった。綺麗になったら、落ち込んだ気分もマシになるかもしれない。そう思って、手の甲から綺麗にしていく。

「ありがとう、ございます」

「いえいえ」

その後、ビスケットと水を飲んでもらうことに成功した。馬車に乗る前は、そんな気分ではないとお断りされてしまったのだ。

何か食べないとこの先活動できないと言ったら、受け取ってくれた。

どうやら空腹だったようで、五枚のビスケットを食べてくれた。

そうこうしているうちに、村に到着する。

「これは――」

隊長ですら、言葉を失った。

村の半分は泥に埋まり、奥には巨大な岩に貫かれた家がある。煙が上がっている家もあった。

村の入り口に行くと、わっと人に取り囲まれる。

「騎士様!」

「お助けを!」

「うちの娘が、家の中に!」

こういった災害現場の監督を執ったことのない隊長は、わずかにたじろいでいるのがわかる。無理もない。隊長と言っても、彼はまだ二十歳の若い青年だ。

ここで、ザラさんが一歩前に踏み出る。比較的、落ち着いているように見える女性に話しかけた。

「今動ける、一番の年長者のもとへ案内していただけるかしら?」

「え、ええ。ご案内、いたします」

村人達は広場に避難していた。

一番の年長者であるお爺さんに話を聞きに行く。

村の中は焦げ臭く、土の強い臭いがした。

どこもかしこもめちゃくちゃで、人が住んでいた場所には見えない。

広場では村人達が一ヵ所に固まって避難していた。

「うっ……!!」

思わず、顔を背けてしまう。火傷に骨折、切創など、今までみたことのないほどの、酷い怪我だったからだ。

「騎士様、騎士様、お助け下さい!!」

村人の一人が、隊長に縋る。

「妻を、妻をお助け下さい!!」

奥さんは――生きているようには見えなかった。

隊長は、静かに顔を逸らす。

「騎士様、早くしないと!!」

「すまない、医者はいないんだ」

「そんな!!」

今、救援を呼んでいる。できる限りのことはしたい。隊長は淡々とした言葉で告げた。

それから、年長者のお爺さんに話を聞きに行った。

被害が軽い場所、酷い場所を聞く。ガルさんが村の地図を描いた。

「あの、隊長、私は……?」

「大人しくしていろ」

「は、はい」

衛生兵なのに、何もできない。

肩を落としていたら、ザラさんが耳元で囁く。

「怪我人は重症者ばかりだわ。衛生兵と聞いたら、期待をされてしまうから」

「ええ、そう、ですよね」

ここにいる怪我人は、私ではどうにもできない。天の助けのように、縋られても困る。

「その子の力を、借りるわけにはいかないし」

コメルヴの頭から生えている治癒の葉には限りがある。残りは二枚。たくさんの怪我人がいるのに、特定の誰か選んで助けることなどできない。

それに、契約していない私には、お願いする権利すらないだろう。

隊長もコメルヴの能力は知っている。使うべきではないと、判断したのだろう。

今、村人達の精神は不安定の中にある。二名だけ助かって、残りの大勢が助からないと知ったら絶望するだろう。

なんてことだ。

とても、無力だ。そう思ったら、泣けてくる。

ポロリと流れた私の涙を、コメルヴは手先に生えた葉っぱで受け取り――飲んだ。

すると、コメルヴはいきなり光り出す。

「――え!?」

◇◇◇