軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ハシバミの実のスープ

ミルがやって来てから早一週間経った。

驚くほど周囲の環境に順応していて、羨ましいと思う。

演習はすぐに許可が下りなかったようだったが、明日、行うことになった。

大丈夫なのか。心配だ。

翌日。演習当日となった。向かう先は、王都から馬で二時間ほど駆けた先にある草原。

そこには、 長毛兎(ラピヌ) という小型の魔物が出る。大きさは半メトル(五十センチ)ほどであるがなかなか獰猛で、食料である小動物の繁殖が少ない年は人を襲う。

今年がどうやらそのようで、数件被害が出ているようだ。

よって、討伐任務が第二部隊に任された。

「――って、演習じゃないじゃないですか!」

「昨日の夜まで演習するつもりだった。任務が入ったのならば、仕方がない」

いきなり実戦とか……。

すぐ傍に新人がいるので、悲しいお知らせをした。

「ステラ、演習ではなく、任務になってしまいました」

『クウ……』

ステラは今回が初陣となる。先日、騎士隊公認の幻獣として認められたのだ。

面接官のおじさん達を前にして涙目になり、耳と尻尾が垂れ下がっていたため合格できるか心配だったけれど。

隊長が書いてくれた推薦文が良かったのだろう。

不安そうにするステラに、アメリアが声をかける。

『クエクエ、クエクエ?』

『クウウ……』

心配するアメリアと、頑張ると健気な返事をするステラ。幻獣同士の姉妹愛(?)にウルッとしてしまう。

一方、我が妹といえば――。

「ミル?」

ミルは目を見開き、固まっていた。身の丈ほどもある長い杖をぎゅっと握りしめている。ひと目で、緊張しているのだと分かった。先ほどまで、ニコニコしていたのに。どうしたものか。

「ミル、大丈夫?」

「……」

「ミル?」

肩をポンと叩くと、「ぎゃっ!」と悲鳴を上げて跳び上がった。

「あ、び、びっくりした。お姉ちゃんか……」

「ミル、今回は止めとく?」

「や、止めない」

どうやら、演習から実戦込みの遠征任務となったので、怖くなったようだ。無理して参加することはないのに、意地っ張りで一度言ったことは反故にしない。困った子だ。

私は隊長のもとに行って、耳打ちをする。

「隊長、ちょっといいですか」

「なんだ」

秘密の話なので、しゃがむようにお願いする。

「あの、ミルのことなんですけれど、すごく怖がっているみたいなんです。でも、行くって聞かなくて」

この時点で適性なしだろう。だから、遠征に来るなと言って欲しいとお願いした。

「いや、本人が行くというのならば、連れて行く」

「え!?」

「もしかしたら、移動しているうちに決心もつくだろうから」

「そんな!」

っていうか、秘密の話なのに、隊長はヒソヒソ声で話してくれなかった。これでは意味がない。

そう思って振り返ったが、ミルは上の空の様子だった。私と隊長の会話も聞いていない模様。

そんなわけで、出発することになった――が。

「わっ、わわっ! ええ~~!」

ミルは馬に乗ることすら、できていなかった。

馬は首をぶんぶんと振り、落ち着かない様子を見せている。恐々と手綱を握るものだから馬が嫌がっているのだろう。

「隊長、あの子、適性なしですよね?」

「まだわからん。アメリアに乗せてやれ」

「いや、でも……」

「隊長命令だ」

ここで止めておいたほうがいいのに、隊長はミル込みでこのまま任務を進めるようだ。

「ミル、お買い物の時とか、狩りの時とか、馬に乗らなかったの?」

「うん。狩りは、歩きだったし……買い物の係はエルちゃんが行ってたから」

狩りは馬を使わずに、魔眼で獲物を探していたとか。そんな裏技があったとは。

しかし、私がいなくなったあと、てっきり役目を引き継いでいると思っていたら。買い物係はエル、もう一人の妹が担当していたようだ。

「今だったら間に合うよ。行けないって、馬に乗れないって、隊長に言ったら?」

「だ、大丈夫。きっと、大丈夫だから」

様子を見ていると、大丈夫には見えないのに。

やはり、一度決めたことは曲げないようだ。本当に、困った子。

「アメリア、ミルのこと、お願いします」

『クエ!』

キリッとした表情で、アメリアは返事をしてくれた。

さっそく、ミルが乗りやすいよう姿勢を低くしている。

「アメリアちゃん、よろしくね」

『クエ~』

とりあえず、アメリアに任せていたら安心だろう。

ステラにも声をかける。

「ステラ、草原まで、よろしくお願いいたします」

『クウ』

ステラは緊張した面持ちだったが、精一杯頑張ると気合いを見せてくれた。

準備が整ったので、出発となる。

二時間、休憩もなく現場まで進んで行った。

「よいしょっと……わっ!」

アメリアから降りたミルは、ふらついて倒れそうになった。

「あ、危ない!」

転倒寸前で、ウルガスが受け止めてくれる。

「リスリス魔法兵、大丈夫ですか?」

「うん、ありがと」

ぜんぜん大丈夫ではないだろう。

背後にいた隊長を振り返る。

今のヘロヘロ振りを見たかと指を差したが、隊長は首を振った。任務はこのまま遂行する気らしい。

「よし。行くぞ。衛生兵のほうのリスリスはこの場で待機。聖水で結界を作り、拠点を作っておけ」

「了解しました」

この指示に、ミルはぎょっとしていた。

「え、お姉ちゃん、来ないの?」

「任務によっては、足手まといになるから、こうして馬の見張りや拠点作りをして、待機をしなきゃいけないの」

「そ、そうなんだ」

ミルは私が首に巻いていたアルブムに声をかける。

「ね、ねえ、アルブムちゃん、一緒に行かない?」

『エエ~、パンケーキノ妹ト~?』

「お願い! アルブムちゃんだけが、頼りなの!」

『エ、ソウナノ? ウ~~ンダッタラ、仕方ガナイカナ~~』

アルブム、チョロい。しかし、安心した。アルブムがいたら、心強いだろう。

願いを聞き入れたアルブムは、ミルの肩に跳び乗った。

『ト、イウワケダカラ、アルブムチャン、任務ニ、参加シテクルワ』

「お気をつけて」

手を振って見送る。

ミルの背中を叩いて、活を入れた。

「ミル、しっかりね」

「う、うん」

目を泳がせながら返事をする。……ダメだこりゃ。

私は隊長のもとへと走った。

「あの、隊長」

「なんだ?」

「ミルのこと、すみませんが、よろしくお願いいたします」

返事はせずに、ポンポンと頭を叩いていった。

「リスリス衛生兵、心配は無用だ」

「ベルリー副隊長……」

ザラさんも、大丈夫だと言ってくれた。ガルさんは私を勇気づけるように、肩をトントンと叩いてくれる。

「メル、妹はわたくしが守るから」

「どうか、お願いします」

なんだか、入隊時の自らとミルの様子が被ってしまうらしい。

「なんだかんだ言って、初めての遠征はいろいろ怖かったから、気持ちは解るの」

「リーゼロッテ……」

もう一度、ミルに声をかける。

「ミル、隊長と、副隊長の指示はよく聞いてね。戦闘になったら、ウルガスやリーゼロッテから離れないで。困ったら、ザラさんかガルさんを頼るんだよ」

「うん……」

まったく覇気がない。あの、絶対に騎士になると言っていた威勢はどこへ行ったのやら。

心配になりながらも、見送ることになった。

一人になった私は聖水を振り撒いて魔物避けして、天幕を張り活動拠点を作る。

続いて、みんなの昼食を準備することに。

「アメリア、かまど用の石を集めてきてくれますか?」

『クエ!』

アメリア隊員は、遠征時にかまど用のほどよい大きさの石を集めることを得意としている。

『クエクエ、クエクエクエ』

『クウ?』

どうやら、自らの技術を、後輩であるステラ隊員に教えるようだ。

「気を付けてくださいね。魔物が出たら、戻って来てください」

『クエ!』

『クウ』

幻獣姉妹がかまどの石集めに行っている間に、料理の下ごしらえをする。

偶然にも、拠点の大木がハシバミの樹だった。下に果実が落ちている。旬は秋ごろだけど、たまにこうやって、時季外れの実を生らす場合がある。土地の魔力が濃い場合など、季節感が狂ってしまうようだ。

数分で革袋いっぱいに拾えた。

同時に、アメリアとステラが戻って来る。かまど用の石を集めて来てくれた。

「アメリア、ステラ、ありがとうございます」

『クエ!』

『クウ!』

任務達成できたからか、二人共満足げだ。

アメリアは顎を撫で、ステラは額を撫でる。

「では、次はハシバミの実を割ってもらえますか?」

『クエ!』

『クウ?』

ハシバミの実は硬い殻に覆われている。

「たぶん、アメリアが軽く踏みつけるだけで割れるかと」

『クエ~~』

殻割りも、アメリア隊員はやる気を見せていた。ステラ隊員は学ぶ姿勢を取っている。

任せていても大丈夫だろう。

料理作りを開始する。

まず、バターで乾燥野菜を炒める。しんなりしてきたら、水を少しずつ加えた。

途中で香辛料を加え、牛乳を投入。

『クエクエ~』

「あ、ありがとうございます」

ハシバミの実の殻割が終わったらしい。器用に、殻と実を分けてくれていた。

乳鉢で身を砕き、スープの中に入れる。

ぐつぐつじっくり煮込んだら、『ハシバミの実のスープ』の完成だ。

時間に余裕があったので、再度ハシバミの実を拾い、炒った木の実入りのパンケーキを作った。香ばしい匂いがたまらない。

隊長達が任務にでかけて二時間ほど経ったか。

『クエ?』

『クウクウ』

アメリアとステラが私を振り返る。どうやら、戻ってきたようだ。

私は立ち上がり、出迎えようと待機していたが――。

「んん?」

戻って来る隊員の数が一人足りない。

その謎はすぐに判明する。

「ひええええ~~ん」

なんと、ミルは大泣きしながらガルさんに抱っこされた姿で戻ってきた。

いったい何があったのか。思わず隊長の顔を見る。

「不合格だ」

……ですよね。