軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

森の恵みの山賊風スープ

どうしてこうなった。

目の前の山賊達――否、騎士団の面々を見ながら思う。

ここは深い森の中。そこで、ひたすら魔物狩りをしていた。これが、私達エノク第二遠征部隊の任務なのである。

「ようし、今ので何体殺った?」

隊長はベルリー副隊長に問いかける。

「ルードティンク隊長が二十体、私が七体、ガルが十一、ウルガスが五」

「この調子でいけば、明日には終わるな。おい、野ウサギ、数を記録しておけ」

髭面で強面な大男が私に命じる。

あのお方は山賊のお頭……ではなくて、エノク第二遠征部隊の隊長である。

はあと盛大な溜息を吐きながら、魔物討伐数のノートに数を書き込んで行った。

「野ウサギ、えらいダレてんな」

「野ウサギではなく、メルです。家名はリスリス」

「野ウサギだろうが」

そう言って、ルードティンク隊長は私の長い耳を指先で弾く。

「ギャア! 止めてください!」

嫌がる私を見て、がははと笑う。

この変態山賊が、何しやがる! と叫びそうになるのを、必死で堪える。一応、相手は上司なので。

それにしても、無神経な男だと思う。フォレ・エルフの特徴である、長く尖った耳は神経が集まっていると聞いたことがあった。

これは、いたずらされるためにあるのではなく、森の中で暮らすために発達した器官になっている。獣や魔物の気配を察知し、遠くの鳴き声も聞き分けることができる。

「長い耳はウサギの証だ」

「違います! 私はフォレ・エルフです!」

ジロリと睨むが、まったく怯んでいない。悔し過ぎる。

ルードティンク隊長は私の頭をポンと叩き、踵を返す。

いつか仕返しをしてやる。私の心はメラメラと燃えていた。

なぜ、森の奥深くにある集落で暮らすフォレ・エルフが騎士団に所属しているのか。それは、我が家が大変な大家族で、かつ、貧乏だからだ。

つい先日、家と家の繋がりを目的に結婚を約束していた相手に婚約の解消を言い渡された。

理由は我が家の泣けるほどの貧乏さと、私の器量と魔力のなさが原因である。

そう、私は【美しい森の妖精】と呼ばれるフォレ・エルフの中でもぱっとした容姿をせず、魔力もからっきしであったのだ。しかも、狩猟が苦手。

基本的に、猪などの大物を狩るのは男の仕事だけど、ウサギとか、鳥とか、小物の獲物は女が獲りに行くのだ。一日中、狩りにでかけても獲物を仕留めることはできず、籠の中を薬草でいっぱいにして帰ることは珍しいことでもない。

そんな事情もあって、総合的に残念な私に嫁の貰い手なんかつくわけがなかった。

貧乏・不器量・無魔力の三重苦。空しいにもほどがある。

幸い、妹達は可愛かった。身内の欲目かもしれないけれど。

狩猟も上手くて、魔力も高い。だから、貧乏だけはどうにかしてあげたい。私はそう思い立ち、出稼ぎに王都にやって来たのだ。

炊事、洗濯、掃除など得意だったのですぐに就職先など見つかると考えていたが、思いがけず大苦戦した。

なんでも、給料の高い貴族の邸宅は紹介状のない者は雇い入れないらしい。知らなかった。

飲食店の面接を受けても、私のとんがった耳を見れば、お断りをされてしまうのだ。

親切なおばさんが教えてくれたんだけど、エルフという生き物は自尊心が高く、労働者としては扱いにくいという印象があるらしい。

そんなことないのに。

たいてい、エルフは人里へ降りてこない。やって来るのはきっと、変わり者ばかりだったのだろう。

妙な印象を植え付けた先人エルフを恨めしく思う。

親切なおばさんは、私に合った就職先を紹介してくれた。それは、王国騎士団、エノクだった。

そこはどんな種族でも受け入れ、平等に仕事を与えてくれる。しかも、給料は高い。

私は喜び勇んで面接と試験を受けに行った。

計算なども得意なので、事務系の部署に回してもらえると、信じていた。

なのに、配属された先は、エノク第二遠征部隊という、隊員の頭数が四名しかいない部隊だった。

そんな不幸過ぎる私の役職は衛生兵。フォレ・エルフだけど回復魔法なんて使えないと必死になって主張したのに、ちょっと薬草の知識があると言っただけで、とんでもない部隊に配属されてしまったのだ。

遠征部隊とは各地に派遣され、魔物討伐や災害救助などを行う。

長時間、馬に跨っていなければならないお仕事だとわかり、くらくらしてしまった。

馬に乗るのも苦手だったのだ。

さらに、配属先の人々にもびっくりした。

隊長である、クロウ・ルードティンクは、見上げるほどの大きな体に、顔の輪郭を覆う灰色の濃い髭、ギラギラと輝く紫色の目をしており、まるで山賊のお頭のような男だったのだ。背中には信じられない程の大剣を背負っており、騎士という雰囲気は欠片もない。「山賊です」と紹介されたら、「へえ、そうなんですね」と返すくらいのいで立ちである。

副隊長のベルリーさんは若い女性で、黒髪青目の短髪で細身の双剣使い。王都に来たばかりの私に、親身に接してくれた。

十七か十八か、私と同じ年くらいの青年ウルガスは、人懐っこくて、昔飼っていた犬を思い出した。

そして、最後の一人、年齢不詳で寡黙なガルさんは狼の頭を持つ獣人で、体は山賊隊長よりも大きい。赤い毛並みは美しく、ここでも私は実家で飼っていた犬を思い出してしまった。

そんなメンバーで、仕事内容の説明も受けぬまま、私は遠征へと連れ出されたのだ。

本日の任務は、王都よりほどなく離れた場所にある森で、大量発生した魔物の討伐。

私は荷物が吊るされた馬に跨るように命じられ、大きな鍋のような、新品の兜を山賊隊長に手渡されたのだ。それにしたって、私の頭には大きすぎる。

「戦闘中はこれ被って端のほうで震えておけ、野ウサギ」

「は!?」

山賊隊長は私の長く尖った耳を指差し、野ウサギと呼んだ。

絶対に許さないと思った。

驚いたのは山賊な風貌をした一行の容姿だけではなかった。

大剣を操る山賊隊長は信じられないほど強くて、魔物を一刀両断する。

双剣使いのベルリー副隊長は踊るように首元に刃を滑らせ、確実に仕留めていた。

隙を見て、青年騎士のウルガスが矢を放つ。それは、魔物の脳天を貫いた。

狼獣人ガルさんは一撃一撃、魔物を串刺しにしていく。大きな体なのに、案外素早く動けるようだ。

彼らは間違いなく、少数精鋭なのだろう。実力確かな騎士達なのだ。

けれど、戦闘終了後、血まみれで振り返る様子は山賊にしか見えない。

なんか、もっとこう、騎士らしく、亡骸を前に紳士のように十字でも切ってほしいなと思った。

代わりに、私が神に祈りを捧げておく。

「おい、野ウサギ、ちんたらするなよ」

山賊のお頭が呼んでいる。私は大きな声で返事をした。

そんな感じで、私はこの山賊共――ではなく、エノク第二遠征部隊の面々と任務に就いていた。

◇◇◇

結局、魔物討伐は夕方まで行われた。

夜間の移動は危険とのことで、今日は野営になるらしい。

野宿なんて、もちろんしたことはない。

薪を作り、火を熾す。

昼食は魔物の亡骸を見過ぎて食べられなかった。先ほどからお腹がくるくると鳴っているので、夕食は食べられると思う。

「ほら、リスリス衛生兵」

「あ、ありがとうございます」

ベルリー副隊長がパンと干し肉をくれた。それから、革袋に入った水も。

神に祈りを捧げ、いただくことにする。

まずは、干し肉から。

………………うん、噛み切れない。それに、味がまったくない。かと言って、素材の味は死んでいる。どうしてこうなったのかと、作った人に問い詰めたい。

目の前では、ルードティンク隊長がバリムシャ! と豪快に干し肉を噛み千切っているところであった。

山賊かよ。

そんな感想を心の中で呟きつつ、今度はパンを齧る。

………………硬ったい。その辺に転がってる石か。それに酸っぱい。硬さもだけど、味も残念だった。ちょっとこれ、食べるのは無理。

またしても、私の目の前でルードティンク隊長がバリバリと音をたてながら、パンを食べていた。食感がバリバリとか、パンとは思えない。

それを平然と咀嚼する様子を見て、この人は瓦とかも普通に食べられそうだなと思った。

水は、なんだろう。薬草が入っているのか。ちょっとくどいような気がする。何か理由があって入れているのだろう。そんなことよりも。

「うが~~!!」

地面に倒れ込み、悲鳴をあげる。

空腹だった。食べたいのに、食べられない。そんな思いを、叫びで表現する。

「リスリス衛生兵、大丈夫ですか~?」

「だいじょばない……」

心配そうな顔でウルガス青年が覗き込んでくる。

王都の保存食、不味過ぎる。酷い、これはない。

絶望しかかっていた矢先、ある薬草の匂いが鼻先を掠める。

「ん?」

視界の中にあったそれを引き抜いた。

「薬草ニンニクだ!」

それは、スープとかに入れて風味を出す薬草である。店で買ったら地味に高いので、いつも森に採りに行っていた。騎士寮に持ち帰って、干して保存しようと思う。

夢中になってプチプチと引き抜いていたら、その近くで素敵な食材を発見した。

「あ、胡椒茸!」

それは、胡椒のような味がする茸。味付けをしなくても、炒めただけで美味しいのだ。

これを夕食に! と思ったけれど、胡椒茸だけでは辛い。普段はパンと一緒に食べたりするのだ。

スープにしても美味しい。けれど、ここに調理器具などない。

辛い茸と堅い干し肉、硬いパン。残念な食材達。

私は再び愕然とする。

「おい、野ウサギ、硬くて食えないのならば、茹でてふやかせばいいだろう」

「あ!!」

隊長のその一言で、ぱっとひらめく。

私は下ろしてあった馬の鞍から、本日支給された鍋のような形の兜を取り出す。水を注いでみれば、漏れる様子もない。

新品なので軽く水洗いして、焚火の上に置いた。

「おい、野ウサギ、何してんだよ」

「これで、スープを作るんです!」

お湯でふやかせばいいという話を聞いて思いついたのだ。硬いパンや干し肉はスープにすればいいと。

熱している兜の中に水を注ぐ。

次にナイフを取り出し、パンや干し肉を一口大にする。が――

「ぐぬぬ、ぐぬぬぬぬ!」

硬くて切れない。家の中で一番切れるナイフを持って来たのに、どういうことなのか。

「おい、貸せ」

横からにゅっと、ごつごつした手がでてくる。ルードティンク隊長の手だった。

私が切るのに苦労していたパンや干し肉を、指先で一口大に千切ってくれた。

「わ、凄い。ありがとうございます」

ありがたく受け取り、兜の中に入れていく。

ごとごとと沸騰したら、薬草ニンニクと胡椒茸をナイフで削ぎながら入れていった。

隣で、ガルさんが鼻先をひくひくさせている。

ベルリー副隊長は不思議そうな顔で眺めていた。

「うわあ、良い匂いがします」

「ウルガスも食べますか?」

「いいんですか?」

「ええ」

大きな兜いっぱいに作ったスープは結構な量なので、一人では食べきれない。

手伝ってくれる人がいて、一安心。

数分後、スープは完成した。

スープの色は濁っていて、干し肉が怪しい色合いで浮かんでいるけれど、気にしたら負けなのだ。

やっと食事にありつける! そう思っていたけれど、ベルリー副隊長よりあるツッコミを受ける。

「リスリス衛生兵、匙とか持っているのか?」

「あ!」

そうだ。スープを食べるのに大切な、匙を持っていない。

せっかくあつあつのスープが完成したのに、食べられないなんて。

ショックで頭を抱えていたら、しばらくいなくなっていたガルさんが、ある物を差し出してくれる。

それは、私の顔よりも大きな分厚い葉っぱと、細長い木の枝。

ウルガスが教えてくれる。

「あ、それ、いつも水を飲む葉っぱ!」

「んん?」

聞けば、この分厚い葉っぱを丸めて水などを飲んでいたらしい。分厚く強い繊維で構成されているようで、水中でもダレないらしい。

ここで、ガルさんの意図を理解する。

「ああ、なるほど!」

私は葉を小さく切り、丸めて円錐状にし、上に木の枝を刺す。これで、簡易スプーンの完成となった。

せっかくなので、人数分作る。よかったらどうぞと、配った。

「では、いただきますか!」

名付けて、森の恵みの山賊風スープ!

手作りの匙で掬い、一口。

「あ、美味しい!」

意外にも、干し肉から良い出汁が出ている。見た目は悪いけれど、味は良い。

他の人も、美味しいと言ってくれた。

あの硬かったパンも、ふやふやになっていた。スープを吸い込んで、食べやすくなっている。干し肉も柔らかくなっていて、脂身がぷるぷるになってとろける。薬草ニンニクのおかげで肉の臭みはないし、胡椒茸のおかげでスパイシーだ。見た目はアレだけど、美味しい。干し肉は独特な種類なのだろう。普通、ここまで柔らかくならない。きっと家畜なのだろう。

「隊長もよかったらどうぞ」

「いや……野ウサギが食べろ。腹が減っているのだろう」

なんだろう。山賊の癖に優しいとか。

強奪、略奪当たり前みたいな顔をしているのに、意外だと思った。

「ありがとうございます。ですが、一口だけでもどうぞ」

なんか自分達だけ温かいスープを食べるのも悪い気がしたので、匙で掬って口元に差し出した。

一瞬、目を丸くする山賊のお頭。ではなくて、ルードティンク隊長。

いらないのかと思い、引っ込めようとしたけれど、そのまま飲んでくれた。

「どうですか?」

「普通に美味い」

「よかったです。まだ、いりますか?」

「いい、いらん」

「さようで」

これで、罪悪感はなくなった。遠慮なく、スープをいただくことにする。

このようにして、エノク第二遠征部隊の勤務一日目は過ぎていく。

――いや、野宿とか、普通に眠れないんですけれど!

ああ、夜空の星が綺麗だ。(現実逃避)