軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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現在沖長は、修一郎とともに露天風呂を堪能しながら今後のことを考えていた。

それはもちろん原作の流れについて、である。

あくまでも情報提供者である羽竹長門を信じるとしたら、この旅行の間でナクルは勇者として選ばれ、物語の主人公らしく、それから次々とやってくる様々なイベントをこなしていくことになる。

これが日常アニメのような物語ならば、沖長も安心して見守ることができたが、どうやらこの世界はファンタジーが存在するらしいので、当然バトルといったシーンも存在する。

その中でナクルは、艱難辛苦を乗り越えて立派に勇者として成長していく。しかしながら、その道程は決して平坦なものではなく、普通なら大人でも挫けそうな辛く悲しい現実が要所に詰め込まれているらしい。

そんなナクルというキャラクターは、ネットでは悲劇のヒロインならぬ、悲劇の主人公として勇名を馳せていたとのこと。

(ナクルの悲劇……かぁ)

正直、長門から聞いた、ナクルが今後経験する悲劇というのは、目を背けたくなるモノばかり。だから当初は鬱アニメと呼ばれるジャンルにまでランクインされていた。

それでも僅かな救いを頼りに奮い立つナクルに胸を打たれた視聴者たちは、徐々に魅了されていき第三期が終わる頃には神アニメとしての地位も確立していたとのこと。

沖長にとっては、ナクルは可愛い妹分だ。当然幸せになってほしいし、苦痛だって味わってほしくない。

けれど原作において、それらの経験がナクルを立派に成長させたのもまた事実。

極端なことをいえば、自分が介入せずともナクルは死なないし、悲劇だって結果的には彼女の成長への糧になる。そしてそんな物語だからこそ、人々の胸を打ったのだ。

となると、下手に自分が手を出すことで、その流れを崩しナクルの成長の妨げに、あるいは主人公であるはずのナクルを死に追いやるなどといった最悪な事態を呼び込む危険性だってあるかもしれない。

長門もまたその可能性を示唆し、助言はするものの長門自身は、積極的に現状を変えるつもりはないと言っていた。

彼にとってすべては第三期に登場するというリリミアという少女だ。彼女さえ幸せならば、きっとナクルがどうなろうと知ったことではないのだろう。

しかし彼もまたこの神アニメの魅力に憑りつかれた一人であり、ナクルら他の登場人物たちの悲劇を推奨しているわけではない。だからこそ沖長に助言くらいはという形で協力してくれているのだ。

(ったく、どうせならもっと前のめりに手伝ってくれりゃ助かるのになぁ)

とはいうものの情報自体は感謝しているし、邪魔をするようなこともしないので今はそれでいいと思っている。

少し離れたところで温泉に気持ち良く浸っている修一郎をチラリと見た。彼の身体は古傷だらけで、これまで数え切れないくらいの修羅場を経験してきたのだろうことは、その肉体を見ただけで分かった。

「ん? 何だい?」

あっさりと視線を向けていたことがバレていて、思わず苦笑してしまう。

「あ、いえ……その、聞いていいですか?」

「いいよ。そういえばこうして二人だけで風呂につかりながら話すのは初めてだったかな」

道場がある日もそうだが、たまに日ノ部家に泊まった時も、修一郎と二人で風呂に入ったことはなかった。

修一郎と入る時もあったが、その度にナクルが一緒に入りたいと突入してくることが確定されているし、一人で入る時にはナクルと一緒に蔦絵もそこに参戦してきて沖長はその度に慌てたものだ。

ナクルはともかくとして、精神的なもので蔦絵のような大人の身体を持つ彼女と一緒に入るのは恥ずかしいし、どこか申し訳なくも感じるから。

実際、ついさっきもナクルが自分たちがいる男湯に入るとワガママを言っていた。さすがにはしたないとユキナに注意され、今では女湯で不貞腐れているだろう、

そんなわけで、こうして修一郎と二人きりで静かな時間を過ごすのは初めてかもしれない。

「その……修一郎さんは戦うことってどう思いますか?」

「……ずいぶんと急だね。もしかして古武術を習うのが嫌になったかな?」

「いえ! それはありません! 確かに修練は厳しいですけど、自分が成長できてるって実感できるのは嬉しいし、何よりも楽しいんで!」

「あはは、それは良かった。じゃあ……何故そんなことを?」

「あ……えと、仮に戦わなければならない運命を背負ってるとして……」

「ふんふん」

「その運命を変えることで、もしかしたらもっと悲惨なことになるかもしれない。そうだとしたら修一郎さんはどう……しますか?」

「なるほど、それは難しい問題だね」

子供の戯言と評されて適当な返答が飛んでくる可能性もあったが、修一郎は顎に手を当てて考え込んでくれている。

「そうだね……俺なら恐らく戦うだろうね」

「そう、なんですか?」

「幸い俺には戦う力があるからね。それに今までも戦うことで守れたものは多い。もちろん自分の無力に嘆いたことだったあるけれど」

「修一郎さんでもですか?」

「もちろんさ。俺だって最初から今のように戦えたわけじゃない。というよりも戦うなんて物騒なことが嫌いな性格だったなぁ」

どこか懐かしそうに天を仰ぐ修一郎。

「戦いが嫌い……なのに戦ったんですか?」

「そうしなければ守れないものがあったからね。確かに平和が一番さ。戦わずに済むならそれが良い。けれどそれを許してはくれない状況が目の前に現れる。いうなればそれが運命ってやつなのかもね」

沖長は黙って耳を傾け、少し間を置いたところで再び修一郎が語る。

「運命ってものが本当にあるとしても、それは考えようじゃないかな」

「どういうことですか?」

「何故なら運命なんてものは正直なところ誰にも判別つかないものだからさ。だってそうだろ。それが分かるのは未来を予知できるのと同じ」

確かに彼の言う通りだ。運命という言葉はありふれていて、誰でもどこでも使い回されているが、この言葉ほど適当で曖昧なものはない。

それは自己にとってインパクトのあるイベントに出くわした時に、その表現として示されるただの言葉でもある。

運命の人に会った。この事故も運命だった。これを手にしたのはまさに運命だ。

そんな人生において多大な衝撃を受けた時に扱われるのが運命という言葉である。

「そして仮に未来が分かるとしたら、それはもう運命なんかではない。自らの意志と行動でいかようにも変えることができる未来の選択肢の一つでしかないと俺は思うよ」