軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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目の前で振り下ろされる棒を紙一重でかわす沖長。

「くっ、また! てやぁっ!」

歯を食いしばり、また同じように棒を振り上げて攻撃しようとしてくるのは水月である。しかし沖長は、表情を一切変えることなくさらりと半身で避けた。

そんな感じで、水月が遮二無二に棒を振り回してくるが、その度に沖長は掠りもさせずに回避していく。

「ぜぇ……ぜぇ……ぜぇ…………まったく……当たんないしぃ……」

額に汗を浮かべながら悔し気な顔をみせる水月に、思わず沖長は苦笑を浮かべてしまう。

(なるほどなぁ……千疋の言ってた通りか)

水月の師である千疋には、水月をどこまで鍛え上げたかを聞いていた。ハッキリいってしまえば、まだ基礎的な身体の動かし方や、オーラの扱い方しか教えていないらしい。

それも仕方ないことで、いくら勇者としてトップクラスの実力者である千疋でも、まったくの素人を一人前の闘士に育てるのは、それなりに時間がかかるというもの。水月が勇者の資質に目覚めてまだ間もなく、ナクルや雪風のように武の心得もない。

故に短期間で、ナクルたちの域に達するなど普通は無理難題である。

今の一連の攻撃でも分かったが、身体の動きからも素人丸出しの上、駆け引きなどもなく、攻撃中もその後も隙だらけ。それに……。

「……九馬さん、もしかしてその棒、扱いづらい?」

「え? あー……分かっちゃう?」

「まあ、ね。どうも振り難そうだし、攻撃の際にどうしてもぎこちなさが目立つ」

これはただ単に武器を扱い慣れていないということもあるが、それに加え、根本的に相性が良くないように思えた。

現在彼女が手にしている棒は、彼女の腕の長さより少し長い程度。

(そういや、原作じゃ九馬さんは……)

長門から聞いていた話を思い出し、沖長は水月から棒を拝借すると、半ばからポキッと折った。

「この二つを両手に持ってくれる?」

「え? あ、うん。でも……短くない?」

「ちょうどナイフくらいの長さだね。けど、それなら振りやすいでしょ?」

原作で彼女が扱っていたのは短剣だった。しかもそれを両手に所持していたという。

「それでもう一度組手をしてみようか」

「オッケー。じゃあ、行くし!」

息を整えると、水月は再度突っ込んでくる。そのまま沖長の懐に入ると、右手に持っている棒を振ってきた。しかし軌道は相変わらず読みやすく、沖長は簡単に回避に成功する。

「それじゃダメだ。一撃の攻撃で止まらず、もっと小回りを利かして」

「っ……こう!」

またも右手で攻撃をしてくるが、それを沖長がかわす。しかし今度はそれで終わらず、攻撃の遠心力を利用して、駒のように身体を回して左手に持っていた棒を振ってきた。

「! おっと!」

当たることはなかったが、初めての連撃に対して、沖長は若干驚きを見せた。当の本人は、慣れない回転攻撃をしたからか、「わっとっと!?」と体勢を崩して転倒しそうになっている。

「うん、今のは良かったよ」

「ホ、ホント? じゃ、じゃあもう一度!」

褒められてやる気になったのか、先と同じように攻撃を止めずに回転力を利用して、回避されても追撃を仕掛けてくる。しかも徐々に動きも鋭くなっていく。

(やっぱり彼女のスタイルは双剣タイプだったか)

先程までの両手剣のスタイルとは打って変わって、今のスタイルに変わってから見違えるほどの動きを見せている。もちろんまだまだ素人の域は脱していないが、明らかに輝きが増している。

武器の相性でこうも違うとは、やはり適性というものが重要なのだと実感した。

「よし、それじゃ少し休憩しようか」

「あ、ありがとぉ……ごじゃいまし……たぁぁ~」

体力の限界を迎えたように倒れ込む水月。慣れない回転運動は、体力も削られるし、何よりも足や腰に負担がかかる。それを証明するかのように、彼女の脚部がプルプルと震えていた。

「九馬さんには、今の戦闘スタイルが合ってるみたいだ。本人としてはどう?」

「はあはあはあ……ふぅぅぅぅ~。……うん、あたしもこっちの方が、やりやすかったかも」

「そっか。じゃあこの方向で鍛錬していこう」

「はぁい……けど……」

水月が横たわりながら、チラリとある方角へと視線を向ける。その先では、ナクルと雪風が、凄まじい速度で攻防を繰り広げていた。両者ともにブレイヴクロスを纏っての模擬戦なので、その一連の動きは目で追うのがやっとであろう。

「…………あんなふうになれるのかな……あたし」

「はは……まあ、一朝一夕でできるもんじゃないって。大体今のナクル相手だったら、俺でもついていけそうにないし」

勇者モードの動きについていけるのは、それこそ千疋や蔦絵くらいだ。沖長も目では追えるが、そのすべての攻撃に対応できるかといえば難しい。

それほどまでにクロスを纏った者の身体能力は凄まじい。何よりナクルは元々速度に特化しており、クロスを纏うことでさらに磨きがかかっている。

ナクルの素早い動きに、同じ勇者モードの雪風も徐々に翻弄され押されていた。もうすぐ決着がつくだろう。それでも雪風の動きも、段々と洗練されていっているのが分かる。そのうちナクルの動きについていけるようになると思わせる成長速度だ。

(あれでもまだ二人とも二次覚醒前なんだよなぁ)

勇者モードには、二次覚醒というものが存在する。原作ではすでにこの時期にナクルは達しているが、現状では至っていない。それでもあれほどの実力を見せている。

もし次の段階に至ったとしたら、今の倍……いや、数倍の力を得ることになるだろう。故に沖長の胸中は不安で膨らんでいた。

今のところ、どうにかナクルたちとはそれほど実力は離れていないはず。しかし彼女たちの成長スピードは恐ろしく早い。このままだと近い内に、置いて行かれることは間違いない。

水月にしても、自分のスタイルを熟知し、これから勇者モードをナクルたちのように扱えるようになれば、その実力は一足飛びで向上していくだろう。何せ、それは原作が証明している。

となれば勇者モードになることができない沖長は、いずれ彼女たちの足手纏いになってしまう。

(このままじゃダメだな)

沖長は手首に巻かれている『呪花輪』に視線を落とす。強くなるための一つとして身に着けているものだが、これでもまだ足りないと思ってしまう。

時間は待ってくれない。何故なら、原作は確実に前へと進んでいるのだから。

「よーし! 休憩終わり! 札月くん、もういっちょお願い!」

見れば、水月が立ち上がり身構えていた。どうもナクルたちに触発されたようだ。

(……そうだな。俺だってまだまだやれることがあるはずだ)

自分もまた次のステップを考えつつ、今は水月を鍛えるために気持ちを切り替えることにした。