軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

235

このえの部屋に入るが、代わり映えのしない無造作に積み重なった書物で埋められた光景に思わず溜息が零れ出る。

今は慣れたものだが、ナクルや水月も初めてここに来た時は、あんぐりと口を開けて呆然としていたものだ。

「――それで? 俺たちを呼んだのはどういう了見だったんだ?」

沖長は、自分たちを呼びつけた張本人であるこのえに問いかけた。すると開いていた本をパタンと閉じたこのえが、相変わらずの無感情に思えるその瞳をこちらへ向けてくる。

「あなたたち……というよりは札月くん……あなただけに伝えることがあったのだけれども……」

そう言いながら視線を千疋へと向けた。

「む? 仕方なかろう。その場にこやつらもおったんじゃからのう。主一人を誘ったところで、こやつら……特にナクルが大人しく引き下がるとは思えんかったわい」

それを証明するかのようにナクルが何度も頷きを見せている。するとこのえは小さく溜息を零すと「まあいいわ」と口にして続ける。

「札月くん……あなたに少し……頼み事があるのよ」

「頼み事?」

「ええ……あなた、《逆光の砂時計》を知っているかしら?」

「逆行の……砂時計? 何だそりゃ? ナクル、知ってるか?」

「え? ぎゃっこう……ぎゃっこう…………砂時計……どっかで聞いたことが……あっ! 思い出したッス!」

「は? 知ってるのか?」

「はいッス! 火鈴ちゃんが持ってたッスよ!」

「か、火鈴が?」

ナクルが教えてくれた。以前、雪風を助けるために初めてハードダンジョンに挑むことになった時のことだ。沖長がダンジョン内に入ったのはいいが、雪風を逃がそうとしたが彼女曰く外に出られなくなっていたとのこと。

そのせいでピンチを迎えた時に、ナクルたちが増援として助けに入ってきてくれた。よく考えれば出口が閉ざされていたのに、どうやって中に入ってきたのか疑問だったのだが、その理由を聞くのを忘れてしまっていた。

ナクルが言うには、閉ざされたダンジョンの入口を、火鈴があるものを使って開いてくれたのだという。その時に使用したのが《逆行の砂時計》と呼ばれるアイテムらしい。

「へぇ、対象の時間を遡らせることができるのか。とんでもねえな、そりゃ」

時間を遡るなんて、どれだけ科学が発展したところで不可能だと言われている。そんな事象を現実化できるなんて、さすがはファンタジーな物語だと脱帽してしまう。

「その《逆行の砂時計》がどうかしたのか?」

「それを……手に入れてほしいのよ」

「え? でもそんなすげえもん、簡単に手に入るのか?」

「情報ではハード以上のダンジョン内で……稀に見つかる……とのことよ」

「おいおい、マジかよ……」

あれだけ苦労したハードダンジョン以上ともなると、かなり難易度が高い。

「何でそんなもんが欲しいんだ?」

「いずれ……必要になるから……と言っておくわ」

「……詳しくは言えないってことか?」

「先日のように……突然必要になることも……あるでしょう?」

確かにそう言われればそうだ。たまたま火鈴が所持していたから沖長と雪風は命拾いしたとも言える。もし入口が閉ざされたままだとするなら、X界に逃げ込める沖長とは違い、少なくとも雪風は、あの場から生き残ることはできなかったかもしれない。

「だから……手にしておいて……間違いはないわ」

このえの言う通り、数分程度とはいえ時間を遡らせることができるというなら使い様によっては強い味方となり得る。手持ちにしておけば、沖長なら無限化することもできるし、メリットは半端なく大きい。

「……でもハードダンジョンかぁ」

「前みたいなボスがいるんスよね?」

ナクルの言う通り、デュランドのような主と戦うことにだってなるだろう。今の実力では倒し切るには力が足りないかもしれない。

「なぁに、ワシも手伝う故、安心するがよい」

「まあ、千疋がいるなら心強いけど……」

そうは言うが、毎回彼女に頼るのもどうかと思う。それにいくら現段階で最強クラスの彼女といえど、ダンジョン内で妖魔人と戦うことになった場合どうなるか定かではない。

沖長の脳裏に浮かんだのはユンダと、そしてその脅威を味わうことになったエーデルワイツだ。

貴婦人のような見た目の彼女だが、その実力はケタ違いだった。あの時、完全に遊ばれていたが、もし彼女が本気なら瞬殺されてもおかしくなかった。そんな実力差がある中で、千疋が傍にいても確実に自分は足手纏いなってしまう。そうなればそれが隙となり、千疋が敗北する危険性も十分に高い。

(…………せめて俺に勇者の力があればな)

その力あれば、主に対しても、そして妖魔人に対しても有効な対抗手段となり得る。しかし現段階で沖長は、その力量を持ち合わせていない。

もちろん武に身を置いている期間や年齢を考えれば十分に強者といえるだろう。しかし上には上が山ほどいる。このままではいずれ自分のせいで、誰かが犠牲になってしまうかもしれない。

もしそれでナクルや蔦絵、千疋たちが傷つき、最悪死ぬようなことになれば自分はきっと耐えられない。

「それで……どうかしら……札月くん?」

「…………少し考えさせてくれないか?」

「主?」

「オキくん?」

二つ返事で引き受けなかった沖長を不思議に思ったのか、千疋とナクルは小首を傾げている。しかし水月だけはどこか神妙な面持ちで沖長を見ていた。

「……分かったわ。満足に動けない私が……文句を言える立場ではないもの……じっくり考えてちょうだい」

「ああ、助かる」

沖長はこのえに返事をしたあと、その日はその話だけで終わり解散することになった。