作品タイトル不明
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籠屋家において夕食時、そこで初めて五家全員揃っての顔合わせとなった。食事は大広間で行われ、豪勢な料理がテーブルの上に所狭しと並んでおり、滅多に口にできない高級食材まであって、思わず沖長は口にするのを躊躇われてしまった。
できればこのまますべての料理を回収しておきたいところだが、さすがにそんなことはできないので、いろんな料理を一口ずつ頂くことだけにした。
(う~ん……なるほど、これがキャビアか…………なるほど)
前世から続けてキャビアを初めて食べたが、別にまずくはないが好むものでもなかった。これなら同じ魚卵であるイクラの方が良いなと思うほどに。
高級=美味という公式は必ず成立するわけではなさそうだ。もちろんその公式が正しい価値を示す食材もあるだろうが、元々子供舌ということもあって、どちらかというとカレーや唐揚げの方が好ましい。比べるようなものではないかもしれないけれど。
他にもA5等級の神戸牛があったが、こちらは文句一つなしの美味だった。やはり肉は高級な方が柔らかくて脂も上質だから美味いものだ。
隣に座っているナクルも、さっきから高級肉を使った料理ばかり食べている。
「……ナクル、野菜も食べないといけないぞ」
「むふぇ? はっへ、おひくほひひーっふほん」
「……何言ってんか分からんけど、ほら、口周りも汚れてる」
沖長はティッシュでナクルの口周りを拭いてやると、ナクルは口の中にあった料理を飲み込んであとに、笑顔で「ありがとうッス! えへへ~!」と返してきた。
「ふぅん、そうやって見てると、ナクルと沖長くんは兄妹みたいだよねぇ」
そう言うのは対面に座っている和歌である。何やらニヤニヤした表情でこちらを見ていた。するとナクルはぷく~っと頬を膨らませる。
「和歌ちゃん! ボクとオキくんは兄妹じゃないッス! そんなの嫌ッス!」
その言葉に胸を貫かれたような痛みが走り、思わず目眩がしてしまった。
「ナ、ナクル……そんなに嫌だったのか……?」
まさか大切な妹分と思っていたナクルから拒絶されるとは思っていなかったので多大のショックを受けた。
「あっ、え、そ、それはその……オキくんがダメとかそういうことじゃなくて! オキくんのことは大好きッスよ! けど兄妹愛じゃなくてッスね、その……」
「……大好き? 本当か? 俺のこと嫌いじゃないんだな?」
「ふぇ? う、うん、当たり前ッスよ?」
「そ、そうか……そうかそうか! ならいいんだよ、ナクル! 何だよ俺をからかったってことだよな! うんうん、ちょっとビックリしちゃったじゃないか! あはははは!」
「いや、そういうことでもなくて……はぁ、もういいッス」
どうやらナクルがたまに仕掛けてくるからかいだったようだ。
(でも良かった良かった。もしナクルに嫌われてたら……死ねたな、うん)
それにしてもナクルは、どこか釈然としない様子を見せているが、少しやり過ぎたと思って反省しているのだろうか。だとしたら何と愛らしい子であろうか。
「……ねえ、お姉ちゃん、もしかして沖長くんて……」
「ええ、そうね。将来きっと多くの女性を泣かせる男になりそうね」
などと蔓太刀姉妹が、小声で会話しながら呆れた表情で沖長を見ている。
(……にしても、これって凄いメンツ……なんだろうな)
チラリと上座周辺へ視線を向けると、そこには五家それぞれの当主たちが席に着いて食事をしている。原作を熟知していない沖長は、格式の高い家の人たちだという事実しか知らないが、この光景は原作ファンにはなかなかに価値の高い光景なのではなかろうか。
とはいえこの人たちが原作にどれだけ深く関わっているかも分からないが、かつて日本を裏から支えていた籠屋家とそれに連なる者たちなのだから、ナクルが関わっている以上は今後活躍するかもしれない。
(ていうか羽竹もそのうちの一つなんだよな。アイツめ、マジで性格悪いぞ)
その羽竹の当主だという老翁。食事の前に紹介があったが、見た目はどこかの組を仕切っている長のような風格だ。任侠映画とかに出てきそうな感じ。
確かに歳は取っているものの、全身から漲っている生気は若々しささえ感じるほどに強い。それに間違いなく武の嗜みもあるはず。師匠の大悟からは、あのジジイには気を付けろとだけ言われている。
自由奔放かつ豪放磊落で、自身は楽しさを優先し、誰が相手でも関係なく試したりして遊んでくるようで、興味を持たれないようにした方が良いと注意を受けていた。
しかし……。
(……うわ、やっぱこっち意識してるよな)
盗み視る感じで羽竹家当主である羽竹以蔵を観察すると、その度に察知したかのようにこちらを見据えてくる。慌てて視線を切るも、向こうの意識がこちらに向いていることはビシビシ伝わってきた。
(師匠……どうやらさっそく興味を持たれたみたいなんですけど?)
助けを求めるように大悟を見やるが、彼は酒を飲みながら修一郎に絡んでいる。もっとも助けてといったところで、男ならこのくらい一人で何とかしてみせろと言われそうだ。
「そういえばアイツ……いないけど、また何かしでかして出禁くらったのかも」
不意にそんなことを口走ったのは和歌だ。続いて彼女は、自身の祖母である現当主の蔓太刀菊歌に「ねえお婆ちゃん、アイツってばどうしたの?」と尋ねた。
アイツとは間違いなく、この場にいない藤枝家当主代理としてここへやってきた皇火のことだろう。確かに姿が見えないので気にはなっていたが。
「彼は私用があるそうで、顔を見せただけで帰宅されましたよ」
無表情のまま答える菊歌に対し、和歌は「やった、ラッキー」と嬉しそうに笑みを零す。
「それは残念ね、和歌。婚約者として愛を深めることができなくて」
「ぶふっ!? ちょ、お姉ちゃん! だからアタシはあんな奴との婚約なんて認めてないから! お祖母ちゃんからもお父さんにそう言ってよ!」
どうやら彼女の婚約を決めたのは、話の流れからして彼女の父らしい。
しかし菊歌はまともに相手をせずに軽く溜息を零しただけ。その直後に、楽しそうに声を上げたのは陣介だった。
「あっはっは、和歌ちゃんも大変だよなぁ。確かにあの子は少し変わってるからね」
「陣介さん……少しどころじゃないと思うんだけど?」
「いやぁ、それでも次期当主だぞ? 前に和歌ちゃんが言っていたように、顔も良いし金も持ってるけど?」
「うぐっ……お姉ちゃんと同じようなことを……っ」
和歌は皇火の話題を出したことを後悔したように小さくなる。そんな彼女を見て他の者たちも愉快そうに笑う。
(ふぅん、少なくともここに集まった四家の雰囲気は悪くないな。例の赤マスクの家はちょっと問題を抱えてるっぽいけど)
場の雰囲気から、四家の間には目立った確執などがないと判断できた。もちろん細かいところでいろいろあるかもしれないが、少なくとも籠屋を支柱として四家は纏まっているように思えた。
そうして食事が終わった後、トイレで用を足して、ナクルが待つ部屋へ沖長が向かっていた矢先、曲がり角で突然目の前に何かが迫って来た。