軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

――― 血の通過儀礼 ―――

『ジンパジー』の致命部分である、頭部、胸部中央には命中しなかったが、弾丸に施された符呪により、『ジンパジー』の右肩から右胸に掛けて爆発四散した。 これではもう敵は『魔法』を打てない。 わたしは素早く近寄り、佩刀で幾度も切りつけ、討伐を完了する。 肩で息を吐きつつ、周囲の状況を確認する。 そこに爺が足音もさせず近寄って来た。

「やれやれですな。 今までは『脚』を止めてからが長いのですがな」

「爺、右翼の損害は?」

「…………重軽傷二人 死者一名」

「クソッ!!」

怒りとも、嘆きともつかない感情が湧きあがる。 『 死者一名(・・・・) 』 爺の言葉に『指揮官』として自身が背負った命の重さを強く意識したのだ。 そうなのだ。 此処は戦場で在り、一瞬の油断が命を絶つ場所なのだ。 故に…… 故に……

「全員に通達。 本作戦は中止。 傷を負った者、そして、『命』を辺境の安寧の為に礎にした者の遺骸を収容し、邑へと帰還する。 なお、討伐した魔物は全てを保全し持ち帰る。 工兵はコレを移送する準備を成せ。 かかれ!」

皆が『 私(・) 』の哀しみと憤りを感じてくれた。 五年兵は実際に人の死を見て…… 見続けていた故か、口を酸っぱくして油断を戒めてきた。 だから、彼等も又訓練場では厳しく指導していた。

それでも尚、今一つ実感が湧かなかった新兵達。 ついさっきまで、隣を歩き一緒に飯を食い馬鹿話に花を咲かせていた戦友同輩が、今は何も言葉を口にする事無く『永久の眠り』についた事に衝撃を受けていたのだ。

自嘲気味に想う。 馬鹿な話だ。 いくら『索敵魔法具』を使おうと、幾ら『銃』を用いようと、それを使うのは『人』だ。

――― 『人』なのだ ―――

くどくどと説諭する必要も無い。 自分達の心の緩みが何を齎したか。 その事を心に刻み付けた事だろう。 そして、それは『私』も同様なのだ。 爺(副官殿) は そんな私を哀しい視線で見詰めている。 かつての遊撃部隊の損耗率はこんなモノでは無かったと、そう爺は云う。 私はそれが『嫌』だった。

だからこその『索敵魔法具』であり『銃』でも有ったのだ。 しかし、その有効性が故、道具の便利さに過信した結果なのだと…… そう思う。

「 若様(ぼん) 。 帰りましょう。 礎となった者の魂の抜け殻は保全しましたぞ。 彼が帰るべき場所へ、少なくとも身体は帰る事が出来るのです。 且つてでは考えられぬ事。 それが 若様(ぼん) の在り方と皆にしかと届いた事でしょうな。 ですがな、 若様(ぼん) ……」

「なんだろうか?」

「失ったモノは大きいかも知れませぬ。 が、残したものは辺境の安寧。 誇ってやりましょう。 さもなくば、浮かばれぬ。 宜しいか、指揮官殿。 貴方の言動一つで兵は簡単に死ぬ。 そして、『死』を命じなくては成らない事も有る。 御覚悟召され」

「…………あぁ、私は指揮官だ。 この遊撃部隊の指揮官なのだ。 故に再度『覚悟』を決める。 命を預かる覚悟を決める。 爺、礎となった兵を丁重に弔いたい。 私の誓いとして」

「宜しいかと」

『血の 通過儀礼(イニシエーション) 』とも云うべき、命の重さを自覚したのだ。 厳しい表情の爺。 それにもまして、厳しい表情を浮かべる私。 引き絞った弓の様な緊張感が部隊を覆う。 もはや、誰も ” 慣れた ” 表情を浮かべる者は居ない。

そう、兵は兵で覚悟を決めたのだ。 五年兵達もその様子に更に気を引き締めた様だった。 粛々と『浅層の森』を行軍する。 邑までの道すがら、誰も軽口を叩く者は居なかった。

―――― § ――――

騎士爵家の邸に戻り、父上と長兄様に作戦を中止した事を告げる。 小型魔物『ジンパジー』は討伐した。 しかし、その他に居るかもしれない。 数個体が群れを作る傾向にある『ジンパジー』だ、油断は出来ない。 だが、早々に撤収を決めた。

「取り敢えずの ” 危機 ” は取り除けたが、まだ脅威は潜んでいると云う事か」

「はい父上。 兵に損害が出た事の責は、全て私に在ります。 永遠に無くしてしまった事に忸怩たる思いに御座います」

「遭遇戦…… だったのだろ? 今回の戦闘は。 主力でも対処に苦慮する。 お前は良くやったよ。 私が指揮していても、損害は免れなかっただろう。 むしろ、『ジンパジー』に対し五名の損耗で済んだ事に驚きを隠せんよ。 心優しき弟が、勇猛果敢な指揮官で有った事を嬉しく思う。 そうでしょう、父上」

「……兵の損耗は致し方なかった。 しかも、お前がそれを重く受け止めている。 お前に対しての『罰』は無い。 よくやった。 『ジンパジー』…… か。 中層域に生息する小型魔物が何故 浅層域に出没したかの方が気に掛かる。 警戒を厳とせねば成らないな。 護衛隊にもその旨を通達し、森に近い村々に『些細な森の変化』にも注視する事を伝えよ」

「御意に、父上」

対処は間違っていなかったようだ。 兄上も中層域に生息する魔物とは対峙した事が有るのだろう。 対処の困難さは、共通認識として持っていると云う事だ。 父上は私に罰を与えなかった。 期待される事は、もっと兵を精強と成し、森の中では油断ない行いに徹するよう指導する事…… だな。

――― 理解した。

民の安寧の為の礎と成った兵の葬送は、出来る限り心を砕いた。 父上がそうであるように、私も『葬送の儀』に出席し、彼の献身を『献辞』として贈る。 街の大聖堂の神官に願い、魂の平穏を祈って貰った。 荼毘に付し、残された 家族(父母) の希望もあり、兵の共同墓地に葬った。 真新しい墓石の前に、彼の戦友たちが花や酒瓶を供える。 口々に云うのは、

” 遠き時の輪の接する処で待っていろ、様々な『武勲話』をこれから作っていくから、楽しみに場を作っていろ ”

だった。 私も『その言葉』には賛成だ。 そちらで、宴会の準備をして置いてくれ。 お前は、そう云った事が得意だったのだから。

――――

忸怩たる思いを抱えつつ『砦』に戻る。 鍛冶部屋に入り、持って来たモノをテーブルの上にそっと置く。 もう使う者が旅立ってしまった、彼の装具だった。 辺境騎士爵家 標準剣 及び、遊撃部隊に配備されている軽鎧だった。

標準剣は中程から折れ、完品の半分ほどの長さしかない上、刃毀れも酷い。 剣を振るい善戦したのだと云う証明でもある。 軽鎧の胸当ては大きく切り裂かれ、赤黒く汚れている。 背当てには深い傷は無い。 最後の最後まで、前を向いて敵に背を向けなかったと云う証左。 ” 優秀で『 勇者の心(ブレイブハート) 』を持つ者だったのだ ” と、心に留める。

逝ってしまった者の為人は十分に理解した。 その上で考える。 『もし』 と云う、不確定な未来について。

もし、標準剣の硬度がもっと高く、もっと鋭く、魔物の表皮を切り裂けるモノだったら……

もし、軽鎧の胸当てが、魔物の爪を防げるほど強固なモノで有ったなら……

もし、もし、もし…… 幾つもの仮定を重ねてしまう。 遊撃部隊の主任務を考えると、今のままでは脆弱過ぎるのだ。 なにか……

――― なにか、方策は無いのかと。