軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

未知なる区画。 何かの予兆

「指揮官殿の推察通りですな。この隧道は意思を持っている。 そして、貴方を一人の命令権者として認識しているのですな」

「私の魔力が鍵だったのだろうか」

「……それも有りますが、長きに渡り護り、そして新たな命令を待っていた『魔道具』なのでしょう。 この域に達するとは、恐るべき古代魔導…… 我が家門に伝わりし家伝の書も、実際の物の極一部しか紐解いて居なかったのだと感慨深い物が胸を締め付けますな」

「何代も引き継いだ英知という土台無しでは、古代魔導術式は読み解けなかった。貴様の家門の献身に感謝したい。有難う」

「…………勿体なく」

道は開かれた。 轟音の欠片も耳には届かない。 静謐で明るい区画が目の前に広がっていた。 探索隊の面々と私は、その静謐で整えられた空間を前に紡ぐ言葉は無かった。全てが整えられ、十全に機能を果たしていると云える『下水隧道の保守点検路』

汚れた床は、磨き上げられたかのように光り輝き、アーチを描く天井も本日完工を迎えたと見紛うが程。 再起動、再稼働。 その深淵なる技術力、魔導術式の完璧さを目の当たりにして、何と表現したら良いかすら判らなかった。 輜重長が感情が溢れ出す様に、言葉を紡ぐ。

「これ程…… これ程の文明が何故に……」

「滅びの足音は、人知を尽くしてすら留められぬモノなのかもしれない。が、爪痕は残す事が出来ると云う事実を我等に見せ付けているようだな」

「まさに…… 指揮官殿が、世界の理を知る為だと仰った意味が、今初めて理解出来ました」

「この先に有る未知なるモノは、これ以上だと想像している。同じ世界に棲む者でも、同じ歴史を刻んでいるとは言えないのだ。遥か古代に於いて、この様な文明を築いた者達が居た。その都は『魔の森』に沈み、今は痕跡しか残って居ない。大いなる自然の脅威がそこに有った。しかし、私は思うのだ。コレは人為的に引き起こされた脅威なのでは無いかと。これ程の文明が滅ぶとすれば、それは、その文明が自壊したとしか思えないのだ。天変地異ならば、この隧道の様に耐えうる事が出来る。文明を築いた人々が居れば、崩壊した枝管の再構築なども可能だ。その証左に本管たるこの隧道は生き残っているのだからな」

「文明の自壊……」

「過ぎたる力を行使したのか、暴走したのか…… 其処は判らない。 分からないから調べるのだ。 もし、其の災厄が未だに続いているのならば、王国に警告を発しなくてはならない。『世界の理』として……な」

「成程…… 真の目的は、そこに有りましたか」

「多分だが…… 我々『探索隊』がその真理に一番近くに居る『人族』なのだと思うのだ。エスタリアン達は、既に知って居る。そして、その秘密は公にする事が出来ない事情が有るのだと思う。故に彼女は言った。“もう始まっているのだから”とな」

「何が始まるんですか?」

「分からない。 ……が、それを見出す事も我等が使命と心得る。気を引き締めねば成らない。 皆…… 行くぞ。 先ずは『帰還距離』を目指す。食料等の兵站用残置物資の設置を目的とする。その地点が何処に成るかは未だ不明では有るが、周辺索敵を厳とし先に進む。 ……以上、基本方針と成す」

「「「応」」」

目の前の息を飲むような光景を前に我等は進む気概を持つ。私の周りに集まった『各部隊の長達』の目に強い光が浮かび上がる。そう、この『探索行』の真の目的を見出した目だった。 彼等の心の中にも、この世界の『 理(ことわり) 』の解明に強い『使命感』を持ったようだった。 軍靴が一歩前に出る。

指揮官先頭は騎士爵家の漢の誉れ。

無言のままに響く軍靴の力強い音。人を殺す為では無い、この世界の理を解明する為、辺境の…… 王国の…… 人が生活する場所の安寧を護るための静かな 戦(いくさ) 。帰還し報告をせねば、達成は出来ぬ、重要な使命。 心に刻む重大な任務に、恐れを抱きつつ矜持を以って前に進み始めた。

隧道は、私が指揮する探索隊に好意的であると思える。 行軍の速度も、行軍基準速度を大幅に超えていた。濃密な周辺索敵を実施しつつも、何も問題は起こって居ない。 索敵限界に近い場所に時折地中型の魔物魔獣の姿が映り込むが、あの接続区画の様な強大なモノでは無かった事も有る。 更に言えば、あの後既に四区画の接続区画を越えた。 あれ程の困難は無かったが、その度に枝管閉鎖を実施し、隧道の再起動を成した。

枝管を独立稼働させるように設定したのは正解のようだった。

完全に放棄するわけでは無く、本管に接続する保守点検道の隔壁扉だけを閉鎖する様に設定したのだ。 大きく機構を視れば、基幹の本線のみ全体を通じての保守点検を成し、この本管に続く枝管は独立稼働となる。 大きく崩壊した枝管は、独自の判断を成し閉鎖するか稼働停止を決断する。 ……のだろうか。

本管からの支援が無ければ、稼働停止も有り得るのだが、水は枝管の構造体が完全に崩落しない限り本管への流れは止まらない。 つまりは……

『 排水自体は機能する 』

コレは、輜重長と共に考察した結果だ。水利と云う面に於いて、輜重長は相当に深い知識を有しているのだ。 分からない事が有れば、専門家に意見を聞くのは常道であり、必須。 故に、おおよその判断は間違いは無い ……と、思うのだ。

思った以上の行軍速度は、最初の想定よりも遥か遠くまで足を延ばせる事と成った。長距離を走破した探索隊。枝管接続部の間隔が短くなった。 枝管の破断や破損も少なくなったのか、生きている区画が多くなって来た。 強度規格が変わったのか、別の本管との距離が迫ったのか……

もう一つ、違いも有る。 超長距離索敵に紅輝点が映り込み始めた。 ただし、水平距離では無く、上反角を付けた視覚に於いて。 索敵は上下にも実施している。 流石に真上は向かないが、兜の上下の可動範囲で常時実施していた。 最初に声を上げたのは、やはり我が佳き人。

「輝点の数が増大しております。 ただし、かなり上方だと…… 思われます。 愚考しますに…… 地表かと思われます。 輝点の分布は、どれもほぼ同じ平面上に点在し、中型、大型の形跡も有りますが、移動速度は極めて緩慢。浅層域での魔物魔獣の捕食行動と酷似しております」

「そうか。 かなりの距離を稼いだ。 距離的に言えば、拠点北部の断崖から望んだ『塔』の近くまで来ている程は進んでいる。 排水する為の勾配が付けられているのは、輜重長とも確認済みである。 地表が近い場所まで来たと見て良い。 引き続き観察を続けつつ、異常が有れば報告する事を望む」

「了解しました。 前方、側方地下部分の索敵を厳とし、地表部分と思われる輝点に関して魔物魔獣の動向に要注意を実施します」

一つ頷く。射手隊、観測隊、の索敵隊は彼女の言葉を以って、さらに慎重に周辺の索敵を実施。 接続部区画では、常に金属板を起動し現状の把握に努めた。 そして、我等は、ある意味最終到達点に到着した。

——— 今迄とは全く違う様式の区画に侵入したのだ。

明かに、今までの区画とは違う。 抜けて来た隔壁扉とは違う隔壁が前方に立ちふさがっていた。接続部の枝管がある区画にあった、巨大な金属板が隔壁に取りつけられている。 更に言えば、隔壁自体も今までの隔壁より高さも幅も有る。 部隊に大休止を命じた。

急ぎ、各隊の長を集め、この状況の考察を始める。