軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

古代遺跡への理解度

大型滑空索(ジップライン) は、問題無く、我等を大地溝の向こう側へと運んでくれた。 いやはや、それは、想定していた事とは云え、幸いでも有る。 大型飛翔系魔物魔獣からの被害も無く、厳然とそこに存在する大断崖の反対側に到達する探索隊の面々。 輜重隊が運ぶ兵站物資も悉く 大型滑空索(ジップライン) により、運び込む事が出来た。 ここは、最前線となる。 言い換えるならば、我等の知る世界の『最後の拠点』とも云えた。

ここから先の探索は、全て手持ちの物資だけで熟さねば成らなくなる。 故に、その道行は必然的に慎重を期さねば成らなくなる事が決定しているのだ。 最初の隔壁の前に立ち、金属板に手を添え、練った魔力を流す。 一度、こちら側にも認められてはいるが、少々緊張した。 内部に幾つもの魔力の流れを感じつつ、暫し待つ。 こちら側の隧道にも、拠点側の隧道と同じく保安要員と誤認して貰えれば、これから先の探索に大いに役に立つのだがな。

もし、認められなければ、我等は排除対象と成り、隧道を通る探索行を諦めねば成らない。 中層域の深部、その地表を歩んでいく事は、死の危険と隣り合わせの探索行となる事は誰の目にも明らかだった。故に祈るしか無いのだ。

重い音が隔壁の内側から響く。

巨大な壁とも云える隔壁が一度、奥側に引き込まれ、横に動いていく。 隔壁解放の一連の動きは、我等を『隧道』が、保安要員として認めた証左と成った。 ふむ…… コレは、幸先が良い。

「輜重長、これで征けるな」

「はい。 大断崖の向こう側にも、同じ意思が有ったと思っても良いかと」

「つまりは…… 破壊されている部分は、応急的に塞ぐ…… など、保守している様に偽装するのが吉か」

「まぁ、そうなりましょうな。 ですが、征く道の安全を担保する為に、隧道の補修は必要不可欠とも言えましょう。 ならば、目的は違えど成すべきは同じかと」

「そうだな。 その通りだ。 先ずは良く観察し、征く道の安全を確保しつつ前に進もう」

「御意に」

隔壁の向こう側は、既視感の有る光景が広がっていた。 ほぼ、1クーロンヤルド先に、新たな隔壁も見える。 天井から魔法灯火が明るい光を投掛け、床面は常に清掃されているように輝いている。 こちら側の隧道の破断部は、中央部、下段部から大量の水が流れ落ちている事も観察されている。 つまり、豊富な魔力を水から濃し取っているとも云えるのだ。 この情景は、当たり前の情景とも云えるのか? 全ての機能を十全に保持しつつ、建造時から今に至るまで命脈を保ち続けた技術力に感服する。

周辺の魔力濃度の変化を記録しつつ、我々は前に進む。 その先に未知なるモノが存在する事は確かなのだ。 隧道の反応は悪くない。 探索しつつ、不具合の有る場所を見極めるのは我等が安全の為に必要な処置でも有る。魔力は硬い岩盤すらも透過する。良く見詰めていれば、魔力が滞留した場所や、不具合を来している場所も索敵魔道具の輝点によって判明する。

例えば、天井に設置されている魔法灯火。 幾つかの隔壁を越えた先の区画では、その灯火が弱弱しい光しか放っていなかった。暗い事に関しては、我等には不都合はない。 索敵魔道具に頼らずとも、皆はそれぞれ夜目が効く。 しかし、隧道側は明らかな不具合と認識している事だろう。 工兵と私と土魔法を持つ者達と共に、原因を探った。

魔蟲か何かにより、魔力回路一部が破壊されている箇所を発見した。 隔壁を貫通する場所でも有った為、その部分にかんして、土魔法保持者により掘り出してもらった。 金属ケースに入った回路。 一部分が何かに噛みちぎられた様に破壊されていた。

「 地中岩蟲(ロックイーター) でしょうか」

「その辺りだな。 ミミズとも云える魔物だが、この高濃度魔力下に於いて 身体大変容(メタモルフォーゼ) をしている可能性もある。いわゆる魔長蟲となるか。 岩を喰らい、その中を進むとは、少々厄介だな」

「痕跡もその様ですしね。 さて、原因は金属函の中にあるのでしょう。 見てみますか?」

「そうだな、魔道具を作る側の人間としては、興味深い事なのだよ」

「では。 おい、函を開けよ」

「「ハッ!!」」

工兵達の手により、金属函は開けられる。 周辺に魔物の反応が無いか、猟兵達は立哨に付く。 私のすぐ後ろに我が佳き人が付き、金属函が露呈している穴の中に身体を滑り込ませた。 箱の中には複雑な古代魔導術式を刻み込んだ金属板が複数枚仕込まれていた。 内一枚が破損しているのが見て取れた。

金属板が嵌め込まれた場所を観察する。 うむ…… コレは…… 既視感の有るモノだった。 決して現世のモノでは無い既視感。 前世に於いてみた事が有るのだ。 金属板一枚一枚は、それだけで独立した魔道具と云える。 それを複数枚を連ね合わせ、重ね合わせた中継器とも云える。 モジュール方式で、繋いでいるのだと見て取れた。 各金属板の古代魔法術式を読み解く必要も有るが、取り敢えず、機能していない金属板を取り外す。

穴の外に出て、その金属板を良く観察した。

「下部から流れて来る『魔力』をここで受けとめ、必要な場所に流す…… か」

「術式構成は、それ程には…… 複合化されておりませんから、繊細な魔力の流れは必要無いかと。 それに、この古代魔導術式…… 単体では、壊れてはいませんな」

「あぁ…… そのようだ。 つまりは、此れが接続していた場所の方に問題があったのか?」

「その様ですね。 筐体となっている金属函は堅そうですが、一部が食い破られていました。 それにより、接続部の一部が壊れたと…… そう考える方が妥当でしょう」

「そうか、ならば、もう一度、見てみよう。 土魔法保持者に、周辺をもう少し広く広げて貰いたい」

「御意に」

工兵と土魔法保持者たちが、金属函の周辺の土を除いてくれて、かなりの空間が出現した。 函全体はそれ程大きなものではない。一ヤルド真角程の大きさ。 背面下部に魔蟲が喰った跡があった。 先ずはその部分の除去をする。 工人の『技巧』がそれを可能とするのだ。手に魔力を集中させ函に乗せる。 一瞬の時と共に、箱の中に半分埋没する私の手。 魔力を伸ばし、函を形成する金属を一気に軟化させ、引き剥がす。

ただ、ソレだけの事。

露呈した金属板を固定する基部を観察した。取り外した金属板が乗る場所に亀裂が入り、一部損壊していた。 ふむ…… これか。 勿論、一から古代魔導術式が符呪された金属板を接続する部分を構築するとなると時間も掛かる。 接続部に施されている符呪には、複雑な術式があり、その術式を解析し考察しなくては、新造する事は出来ないのだ。 すべき事柄が、あまりにも多岐に渡るのだ。 新規に作り直す事は諦めねば成らない。 しかし、方策はある。 これは連結の基部なのだ。 手本となる物は隣接しているのだ。

破損部のみを除去しつつ、隣接する古代魔導術式を転写さえできれば、再構築も何ら問題では無い。 基部を裏側から見ているとはいえ、魔力の流れを視れば、自ずと施されている古代魔法術式がどの様な構成になっているのかは、理解も出来ようもの。壊れた部分は全体からして一割にも満たないのだ。再構築する事も、それ程の難易度では無い。魔法学院の錬金塔で研鑽に明け暮れた日々が、それを担保する。幾多の試行錯誤が私に力を与えてくれているのだ。

工業製品とも呼べるそれは、規格化されたモノであろう事も予測された。これまで踏破して来た隧道の隔壁結節点の全てに、きっとコレが埋設されている筈。一点物という訳では無く、規格化し量産されたモノで有る筈なのだ。 という事は、つまり、一点物とは違い、ある程度の冗長性も含まれていると考察できる。長い時を経て、自己修復機能も含まれる古代魔導術式で記述された魔道具なのだ。

時の浸食すらも撥ね退ける様に考慮されて居る筈でもある。 ならば、私が複製して修理したとしても、その冗長性の内側ならば、機能を取り戻す事はできまいか?

特注品でなければ…… 行けるはずだ。