軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

特務の意味合い。 表向きと真実と

拠点の拡充は、「特任旅団」が拠点に入ってからも、引き続き行われた。

既に、旅団の施設としては十分に拡充されていたが、恒久的な司令部を置くには、やはり少々手狭であるとの判断からだった。岩塊を割り地下へ地下へと拠点は拡充されて行く。 兵舎も外では無く、地下壕と云える場所に十分な部屋数を作り上げる事が出来ていた。 食堂、厨房、厠に風呂。 私の簡易研究室も作り上げられた。

全ての部屋に於いて『魔力遮断壁紙』を使用したことは言うまでも無く、外気導入口に朋の作った魔力渡過膜型の魔力を濾す魔道具により、一定以下の魔力濃度に抑え込む事により、魔力過多症対策を施しても居た。 特段の配慮の必要は無いと申し送ったのだが、施設部隊と工兵隊が協力し、私の私室まで作り上げてくれていたのには、少々困惑した。 『指揮官職』の私的な空間を『私』が必要とすると…… 皆の総意で作り上げられたと、そう報告を受けた。 何とも…… 有難いやら、羞恥を覚えるやら……

様々な冬季の作戦を実施しており、錬成にも目を配り、長い時間を過ごす場所として執務室に籠る毎日ではあった。 自身が動かずとも、『特任旅団』の面々は、私の意図を汲み上げた作戦に従い、自身の任務に自信と誇りを以て行動してくれている。 深い満足を覚える毎日だった。 様々な冬季任務を実行に移した有る日、執務室に射手長が一人でやって来た。 人払いをする必要も無い。 つまりは、一人の私の配下の軍人としてやってきたのだ。 その眼には、意思の力が宿り、何らかの事柄を告げに来たのだと推察された。

「指揮官殿、意見具申」

「何だろうか?」

その日は、執務室にて『魔の森』浅層域全域の地図に、任務による成果を反映させていた時だった。 鍛練に、索敵に、そして、魔道具の設置にと、任務を遂行している探索隊の面々。 それぞれ任務は、『自身の鍛錬』、『周辺の安全確保』、『魔道具の設置』、『中層域の方向への若干の索敵』。 そんな中で、私に願い出て『中層域の方向への若干の索敵』を主な任務に精励したのが、射手長と索敵長が率いる部隊。

『周辺の安全の確保』も副次的な任務と捉え、さらに輜重の負担の軽減の為、食料調達の為の『狩り』まで実行していた。 あまり無理はして欲しくは無いのだが、その行動こそが自身の鍛錬に繋がると、兵達は嬉々として任務に精励していた。 彼等の手は長く、目は遠くまで見通せ、脅威たるを各自に捕らえる。

それを熟知していた私は、彼女の言葉に耳を傾けざるを得ない。 彼女は、意を決したように、私に言葉を紡ぐ。

「隧道迄の道程。 その周辺の詳細索敵を実施したくあります」

「気温も低い、雪も積もっている。 危険度は上がっている訳だし、隧道周辺は完全に中層域なのだが?」

「来春の事を考えるならば、今のうちに隧道迄の道の整備と周辺の安全確認を行うべきだと具申します」

「隧道入口迄の道の周辺の掃除…… と云う事なのかな?」

「そうです。 幸いにして射手隊、観測隊は冬季作戦に関しては、猟兵隊、輜重隊、工兵、衛生兵と比べ、十全に動ける者達、すなわち『元狩人』で構成されております。 冬季の狩猟は、我等が得る『命の糧』ともなっておりましたし、その『狩り』に関しての薫陶も家族や師匠様方より受けております」

「しかし、中層域なのだぞ、あの場所は」

「織り込み済みです。 決して無理は致しません。 狩人の本能に従い、進退の判断は厳と致しますれば…… ご許可頂けますでしょうか?」

「射手隊、観測隊、皆の総意なのか?」

「はい。 分隊や班に分かれ、猟兵隊の任務に帯同する者達を除き、拠点周辺にて安全確保や自主鍛練を行っている者達から参加者は募ります。探索行の続行には必要な策かと思います。 是非ともご許可を……」

「普段の任務以外の特別な任務に成るが?」

「任務の遂行を願います」

「『探索隊』の足元を固めておきたいと?」

「はい、指揮官殿の道行に不安を残しては成りませんので」

「……あぁ、我が佳き人。 君は何時も先を見詰めている。 が、其処に私の意思や、思惑は含まれていない。 ならば…… その作戦行動を許可するにあたり、一つ条件を付けよう」

「なんなりと…… 一日の行軍距離でしょうか? 作戦従事者の人選でしょうか?」

「いいや。 その作戦、私も参加する」

「なッ! なりません!!」

驚く射手長の顔を見ながら、真摯に言葉を口にする。 コレは私に課された任務なのだ。 冬季と云う困難な時期に、先行させるような無能で在りたくはない。 幸いにして、残置していた『 鳴子残響器(エコー) 』の情報も遅滞なく拠点には届いている。 先程、書き加えていた『魔の森』浅層域全域の地図の北端部にも、その情報は書き込んでいる。 ここに、朋が新規作成した『魔力濃度計測機』を設置すれば、更に多大な情報の取得も可能となる。

通常の作戦としての指針は既に示している。 それらに関しては北部王国軍『特任旅団』の使命として、作戦を立案実行に移している。 しかし、具申を受けた事柄に関しては、完全に別でも有る。 射手長は其処まで考えが及んではいないが、『探索行』は王命で在り、秘匿された命令でも有る。 我々は余りに『その事実《探索行》』の近くに身を置き過ぎた結果、『 極秘作戦(・・・・) 』だと云う事を失念する事となっているのだ。 少々問題が有ると思われる。 秘密作戦でも有る『探索行』を皆が大々的に口にする事は、憚られるのだ。

「作戦としての行動指針を提示する。 表向きだがね。 『指揮官先頭にて、冬季中層域の予備調査』 先の戦役に於いての帝国軍侵攻路の状況確認と、新型魔道具の設置を目的とした作戦行動とする。 ……我が佳き人。 一つ、注意して置くよ。 『探索行』に関して、口外する事は王国の密命と云う面に於いて、守秘義務を破る事と同義なのだよ。 よって、本来の作戦目的を 韜晦(・・) しつつ、付随する様に混ぜ込まねばならないのだ。 そして、脅威が大きい中層域に足を延ばす時には、必ず指揮官先頭の原則を守らねばならない事は…… 北部王国軍、戦闘要務令にも記載されている事だ。 名目上とはいっても、規定されている事には違いないのだよ。 我が佳き人。 君が私の事を案じてくれるのはとても嬉しい。 だが、此処は北部王国軍、北部方面司令部でもあるのだし…… 分かって貰えないだろうか?」

「す、すみません!」

「謝る必要は無いよ。 だけどね。 この事は、きちんと理解してほしい」

「……承知いたしましたッ!」

「幸いにしてね、この拠点は今も拡充を続けている。 皆が私の私的な空間も、『指揮官職たる私』には必要であると用意してくれた。 君の心遣いを聴く場所として、私的な話は 其方(そこ) で聞こう。 ……良いかな?」

「は、はひ…… う、承りました……」

基本的に作戦は許容範囲内だ。勿論、指揮官先頭の原則は崩さない。まして秘匿されてはいるが『王命』なのだから、当然その作戦の指揮官は私に成るのだから。私が率いねば、原則から逸脱する。小さな事柄では有るが、基本の北部王国軍軍務令を蔑ろにしては、今後、なし崩し的に指揮権の崩壊に向かうのだ。規律が腐る原因ともなる。最初は善意で組上げられた思考が、邪な者達の手に掛かれば、あっという間に腐り果てる事は、軍史に於いても散見される事柄なのだ。 私はこの『特任旅団』がそのような 轍(てつ) を歩む事が無い事を望んでいるのだ。

常に在るべき姿で、規律を重んじ、自身を高める者達で構成された組織で在りたいのだ。

この『魔の森』と云う過酷な環境で、環境に特化した特別な運用を基本とすると、後続の北部王国兵の運用基準と大きく乖離する。 そうなれば、此処は特異な集団となり、最後は人的に枯渇する事に繋がりかねない。 公平公正たる軍律を以て、規律を遵守し、上意下達と 雖(いえど) も風通し良く…… 二律背反な事は、私も自覚しているのだ。 だが、手間を惜しんでは、軍としての組織が瓦解するのだから仕方ないのだからな。