軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

――― 公正公平に足る、最後の断片 ―――

『探索行』に使用する『装備』も色々と改められた。 幾つかの問題点を洗い上げた、朋の作り上げた魔力制限を符呪した例の下着だ。 着心地と動きやすさを追求し、色々と朋が改変してくれた。 当然、薄さや見た目はそうは変わらない。 いや、変えようが無いのだ。 要所要所に改変を組み入れる…… その様な感じで改良型は完成した。

さらに、例の『魔蜘蛛』の糸。 あれは、良い物だ。 人工魔鉱の斬撃にすら耐えうる糸。 それを織れば、『防刃布』となり得る。

『魔の森』の作戦行動に於いて、装備の軽さと強靭さは何よりも生残性を高め、強く兵達が求める物でも有る。 騎士爵家の傭兵戦力であった『遊撃部隊』時から、我等は『軽装備』を標準装備と成している。 行動の隠密性、静粛性、軽快性は、重視されて然るべきものだったのだ。 主力部隊、護衛部隊の各隊は、それに比べ『重装備』を標準装備と成していた。 役割が違うのだ。 我等は目となり、耳となり、密やかな手となり、『魔の森』内部を縦横に駆け巡らねば成らなかったのだから。

その 特殊(・・) とも云える役割が、要求するのは装備の軽快性。

最初期の頃は皮鎧に黒鉄の装甲を張ったモノ。 冒険者達の中でも、中堅までしか使わぬ軽鎧だった。 当然、防御力は重装備には劣る。 まだ、ちい兄様が遊撃部隊の指揮官であった頃、それを憂い、装備の変更、更新を成した。 それが、魔物魔獣の外皮、殻を張ったモノ。 確かに強化された。 が、しかし、『魔の森』浅層域で狩れる魔物の表皮や外骨格は、中層域から降りて来る魔物魔獣の 咢(あぎと) には、不十分なモノだった。 それが証拠に、変更後も兵の損耗率は高止まりしていた。

人工魔鉱製の装甲片を魔物魔獣の表皮の代わりに装備したのは、それが理由だった。

目の前で不意打ちにより討たれた若年兵の死の後に配備出来るようになったのは…… 今でも痛恨の極みと云える。 今回、魔蜘蛛の糸から防刃布を織る事が可能となった。 軽く、強靭なその布を軽装備の仕立ての下地に使う事により、軽鎧の防御性能は重装備の全身鎧並みに拡充する。

商工ギルドの服飾部門の者達に、多大な協力を仰ぎ、ようやっと形になったのは、つい先日。 見た目は殆ど変わらないが、秘めたる防御性能は、私の心に歓喜を沸き立たせた。 これで…… これで、ようやく、あの若者に顔向けが出来る。

――― 月の出ない夜。

共同墓地への足を運び、小さな墓石の前に膝を突く。そして祈ったのだ。 “君の死は、無意味では無かった。 君の生き様が、後続する皆に光を与えたのだ” と、そう胸の内で語り掛け、深く深く哀悼の祈りを捧げた。 ……気配がする。 『優しい魔力の流れ』が、私を包み込んだ。 護衛の兵か…… 何も言わず、私と同じ思いを抱え、そして、同様に祈っているのだと思った。

魔道具関連の見直しも並行して行っていた。より効率的に長時間稼働できるように。 朋が編んだ【魔力低減術式】は、大いに役に立たせて貰った。 論文を読み込み、その骨子たる部分を理解し、再度組み直せるまで、思考と知見を深めた。その間に、色々と判った事も有る、新たな知見を得た事も有った。

懐かしき錬金塔での日々が浮かび上がる。

日々の課題と、鍛錬、そして…… 小さくは有るが未来へとつながる発見の日々。 ややもすると、心が押しつぶされそうになる重圧が、この何気ない日々により少しだけ軽くなる。 探索行を思い、その現場での使用を考え、堅牢に、ひたすら壊れないモノを追及する。 その積み重ねは、『出来て当たり前』『壊れる事など許さない』現状に立ち向かう、魔導を探求する者が持たねばならない矜持に、自信を付けさせる唯一の方策とも言えた。 私は、嬉しく思う。 強大な敵を前に、小さな得物を手に立ち向かわねば成らぬ時、その勇気の在処をしっかりと認識できたことに。

魔法学院での日々は、なにも知識と知恵を貯め込む場所ではなかった。 貴族間のアレコレを実地で学ぶ場でもない。

困難に立ち向かう為の、心の在り方を学ぶ場所だったのだ。 父と母より受け継し『体内魔力』。 神の恩寵により身に受けた『技巧』。 優秀な兄上達の存在。 私が魔法学院で学ぶ機会は、すべて薄氷の上に有った。 ならば、その機会を最大限に有効活用し、その機会を与えて下さった尊敬すべき方々と、その方々が目指す先に光を灯す事は……

――― 私の本懐とも云えたのだ。

――― ★ ―――

魔道具の安定性と堅牢さ、そして、軽さを最重要視し、装備装具の再点検は終わる。 『探索行』に携帯するモノは、現状考えられる困難に太刀打ちできると、そう確信した。 しかし、一点だけ、問題のある部分が有ったのは否めない。

探索行を成功させるには、その記録も又必要不可欠なモノだった。 事は『世界の理』に関する記録。 誤謬や、個人的思惑が入ると、どうしても報告が歪む。 完全に第三者的視点に立ち、事実を事実として、現実を現実として、個人的解釈を抜きに記録せねばならない。

今まではいい。 まだ、それ程多くの地域に足を踏み入れていないのだ。 中層域とは言え前庭のようなもの。 様々な発見や知見を得る事は出来たが、『魔の森』浅層域最奥の常識の延長と云えば、その通りなのだ。 私の報告にも予断が入る余地も有る。 探索行を共にする兵達にも、聞き取りをしつつ報告書を纏めてはいる。 私一人の視点よりも、多人数が見た事実を記載する様に心がけていた。

心掛けていたが、私は指揮官でも有る。 私の意思を忖度した様な意見が出ても、それは仕方のない事だった。 よって、最初に私見を述べる前に、彼等に見たモノ聞いたモノを報告してもらっている。 が、それを纏めるのは私だ。 事実の報告に、これ程困難を感じるとは思っていなかった。そこで、如何にか事実を客観的に記録する方策は無いモノかと模索した。

そう云えば…… 『アレが有った』、と気が付いた。

気が付けば、苦労する程の事では無かったのだ。 ソレは既に実用化され、正式に制度に則り運用もされている。 ソレが有った場所は、魔法学院の学び舎。 要らぬ騒動が引き起こされた場合を想定して、仕掛けられていたとも云う。

連綿と続く魔法学院の歴史に於いて、下位貴族が上位貴族に公然と虐げられていた時期が有った。 学び舎に於いて、貴族の階位は無視は出来ないが、学ぶと云う姿勢を以て評価すると明言されていると云うのにだ。 魔法学院側は、これを深く憂慮した。 只でさえ権力を持つ高位貴族。 その家の子弟の行動に掣肘を加えられるのは、その家の当主のみ。 そして、大概に於いて親は子を慈しみ、全幅の信頼を置く。 幼子なのだからと。 よって、生徒の横暴や暴虐は、当事者が語らない場合は表に出る事は無いのだ。 そう、それを証する『記録』が無いのだ。

国王陛下がこの問題に王国の影を投入する事も無い。 そこは、未成人の子供の楽園。 その楽園を乱す様な無様を晒すような貴族子弟は居ないと、そう宣下された事は、公式に記録されている。 つまり、国王陛下は家の教育が全てだと、則を超えた行動をする愚か者にどう対処するかは、各家当主の『責務の一部』なのだと、そう勅を下されたも同義であった。

― 宣下に襟を正す家。

― 自由気ままを ” お許しに成られた ” と判断する家。

当時の魔法学院教諭陣の苦悩は想像するに胸が悪くなる。 そして、在ってはならない則を超えた行動を許すべきでは無いという無言の 決断(・・) が下される。 その決断とは、教諭陣の強い希望により、守秘義務を以て運用される、『記録魔道具』の導入だった。

密やかに、そして、網の目の様に魔法学院の敷地内を網羅する様に設置される『記録魔道具』 映像と音声が、魔石に記録される。 純度の高い魔石を使用せねばならない事により、最初は学び舎教室に、その後、敷地内を網羅する様に…… と順次配備されて行ったはずだ。

この映像と音声の記録は、何らかの上申、告発が有った場合に、その内容を開陳する事が出来ると定められた。 個人的な事柄を記録する為に、この情報を手にする者は、相当なる資格と権能を持たねばならない。 これを魔法学院の教諭陣は学園外の人に求める。 そして行きついたのが『宰相府』 国の秘事を一手に引き受ける部署に、その記録情報は委ねられた。

もし、何らかの上申、告発あらば、魔法学院はすぐさま『宰相府』に奏上し、事の次第を修めた『記録魔道具』を確認。 当事者の親たる貴族家当主を極秘裏に宰相府に呼出し、当該記録を見せる事となる。 その後の処置は、各貴族家によるもの…… 愛する子弟の、穏やかざる行動に目を瞑るか、叱責するか、 処分(・・) するか。 しかし、その報告はすでに宰相府に届いている事により、各貴族家の対応は厳しいモノに傾くのは必至。

『何も無かった』…… 事には、出来なくなったのだ。

有用な手だと思う。 言葉で律しても、欲望に勝てぬモノも居る。 王家に連なる方でさえ、一つの実例になってしまったのだ。 規律を守り、マナーを遵守し、魔法学院の平穏に寄与する制度と云える。 故に、この施策は絶大な影響力を持っていると云ってもいい。

そして、思い付いたのだ。

これを探索行の『記録』に使えないかと。