軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

幕間:時の狭間に住まう者

王都、王城

王国の内政を司る、官吏達が一堂に集う場所。 王国の頭脳にして、心臓でも有る場所。

そんな重要な場所に、一つ……

さして重要視されぬ部署があった。

『王国史 編纂局』

国王陛下の業績を記するモノで有った『王国史』は何時の頃からか、王国に於ける重大事を史書として編纂する部門に様変わりしていた。 それも、歴史と並走する様に、細心の注意を払いつつ、貴族の醜聞や不行跡すら記する部門となる。

当然、王国の闇の部分にも目を遣り、後世の審判への証左として機能する様にと、ありとあらゆる行政部門より細かな覚書がその部屋に齎される。

生の情報の重要性を取捨選択するのは、編纂局の職員。 しかし、その実態は暗澹たるもの……

現在の貴族社会を構成する貴種貴顕への忖度を、限りなく排除する為、と云う美辞麗句により、その部署の人員には、 下級官吏(・・・・) か 左遷者(・・・) で構成されていた…… 行き交う官吏の表情は昏く、人生を諦めた明らかな没落貴族の風情を醸した、壮年とも老齢とも取れる人々。 ただ、重く暗い雰囲気が部署に漂う、陰鬱な場所であった。

……そんな

王国史 編纂局 編纂室の一室。

年若き官吏が一人、巨大な帳面に向かいペンを走らせていた。 乱れた頭髪と、古着を思わせる官吏の正装。 袖口はインクで汚れ、シャツも皺が目立つ物を着用している。 他人の目を気にする様な部署では無いが、その凋落した姿を見る他部署の者達からの視線は厳しい。

彼の仕事は、貴族院からの覚書等、此処に集まる書類から事実を抜き出し王国史の一篇を編む事。 情報は玉石混交にして種々雑多。 その中で、王国史に重要と思われる事柄を記載する役目であった。 暗い部屋の中で、明るいとは言えない魔法灯の元、今日も彼は一心不乱にペンを動かす。

貴族院からの覚書や、登録局の新規の情報を手繰り寄せた彼は、その内容をペンを片手に読み込んでいた。 魔法灯火の光が、時折 顔に掛かる 方眼鏡(モノクル) に反射する。 捲る資料の数は多い。 傍らの雑記帳に、目につく記述を書き連ね、其処に在る真実を浮き彫りにして行く作業だった。

ふと、その年若き官吏は違和感を覚える。 目にした記述に何かしらの作為を感じていた。 悪し様に罵る様な言葉は一切綴られていない。 しかし、行間から悪意と蔑みが滲み出ているのだ。 ただし、それは、ある特定の方向からだけ。 そして、それに相反する様に、王国の最奥権力者達の方面からは、善意と賞賛に満ちた感情を行間から読み取る事が出来たのだ。

” なんだ? これは…… 同じ事柄に対し、これ程違った叙述をされると云う事は…… そう云う事なのか? ”

年若き官吏の、 片眼鏡(モノクル) 奥の瞳に、光が灯る。 調べ上げ、事実を編纂しなくてはならないと、確信に至ったのだ。 彼は思う…… 事実の裏側の真実に、この国…… いや、この王国…… それでも足りないかもしれない、歴史の潮流が潮目の変化が有るのだと。

――― 辺境騎士爵家、亡失。

事実で云えば、ただそれだけだ。 さして重くは無い爵位。 倖薄く富も多くは無い、北方辺境域に於いて、王国建国時より命脈を繋いでいた騎士爵家が、その家門の命脈を絶たれたと云うだけの事柄。 しかし、その裏柄に王都の貴種貴顕の暗躍があり、さらにその源流には王家が深くかかわっている。 そう看破した彼は、誰にも届かぬ小さな声で、無意識に呟く様に言葉を紡いだ。

” 重要記載事項になるな ”

不思議とその年若き官吏が綴る事は、後の時代に成り、歴史の転換点となる事柄が多かった。 後年、『時を見通す目』という二つ名を戴く『官吏』。 洞察と資料の調査、事実に基づく考察は、深い理解を以て、国史に上梓される。

彼の手元に来る資料を調べ上げ、事実関係を確認し、そして、確定した事柄を今日もまた、王宮の日の差さぬ深い位置にある職場で、魔法灯の光の下、王国史に向かい綴り続けている。 綴る王国史の1ページに有るのは次の言葉……

“ …………王国 王太子殿下立太子が年。北方領域、北部辺境筆頭騎士爵家がその爵位を寄り親であり任命者である上級女伯家に返納す。 当主夫妻の貴族籍は消失し、市井の民となる。 一家一門は、全て貴族籍を失い、支配領域も霧散し果てた。 王国の建国より常に藩屏たるを任じてきた一家。 潰えたのは、如何なる理由かは、当主の心の中にあり。

同年同月、北部辺境王領が王領太夫が北方辺境伯、一人の郷士を騎士爵に叙爵す。 彼の者に潰えた騎士爵家支配領域の差配を命じる。 北方辺境伯家が唯一の直臣。 繋がりは強固にして、王領安寧の礎となす。 この知らせは宰相府から陛下に上奏す。 陛下より、この事態に対し、王太子殿下臨席の場に於いて、御言葉を発せられる。 それが何を意味するかは、余人に語られる事は無い。

『王国が矜持は辺境に有る』

御宸襟の発露、遠謀の御言葉として、御言葉を此処に記す。 “