軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

32.館へ戻る

わたしが連れ込まれていた場所は街外れの小屋だったようだ。そこからわたしとブルーノは馬車で館へ戻った。

移動中に聞いたことによれば、庭師のカールがわたしとアリーが運ばれていくのを見て、ブルーノのところへ駆けこんだらしい。

「ネッケが怪しいと思ってナック商会に駆け込んだら、クルトがすぐに数人の男を集めてきて、一緒に乗り込んだんだ。どうやら商会もネッケを監視していたらしい」

なんだかよくわからないが、ナック商会も内部にいろいろあるようだ。子爵家にいたときにもネッケに苦労している従業員、という構図を見ることがあったので、察せられなくもない。いずれクルトから聞けるだろう。

ネッケはいくつか拠点を持っており、そのうちの一つでアリーが発見され、三つ目にわたしがいたそうだ。

「ブルーノ様、迷惑をおかけして申し訳ありません」

「エレナのせいじゃないだろう」

「わたくしが望んだことではありませんが、わたくしがいなければこのようなことにはならなかったでしょう?」

伯爵領にはあまり関わりのなかったネッケをこの地に呼び寄せてしまったのはわたしだ。もしブルーノの婚約者がわたしじゃなかったら、このようなことにはならなかった。ブルーノを煩わせることもなかったと思うと申し訳なく思う。

そんな気持ちを込めて言うと、ブルーノは目を丸くした。

「俺がこの件でエレナを悪く思う事はないし、エレナが申し訳ないと思う必要もない」

「ですが……いえ、ありがとうございます」

ブルーノはひとつ頷くと、しばらく黙って窓の外を見た。つられて外を見ると、お祭りの日に通った時と同じように可愛らしくて素敵な街並みがそこにあった。

しばらく外に目を向けていたけれど、ブルーノは外を眺めつつも景色は見えていないような顔だった。

「ブルーノ様?」

「うん?」

「良い街ですね」

「そう言ってもらえると、領主としては嬉しい」

ふんわりと穏やかな顔をしたブルーノは、先程ネッケを失神させた人とは別人のようだ。

「助けに来てくれてありがとうございました」

「どうやら必要なかったみたいだけどな。あの巨体を蹴り一つで飛ばすとは」

泡を吹くマッチョを思い出したのか、ブルーノはクッと笑った。

「ある程度できるとは思っていたが、身体強化か?」

「そうです。祖母に鍛えられました。自分の身は守れるようにしろって」

なのに守れなかったけど。祖母に会ったらものすごい怒られそうだ。

「わたくし一人でも彼らを倒すことはできたと思います。だけど、わたくしのせいでこの街の平穏を乱すかもしれないと思ったら怖くて」

もう一度外を見る。いい天気だ。

「ブルーノ様が来てくださって、すごく助けられました。アリーを保護してくれましたし、ネッケを倒してくれました」

「ネッケは、別に何もしていないんだけど」

「魔力は感じましたけれど、本当に呪ったわけじゃないのですか?」

「威圧感を出すために魔力をまとわせたけれど、魔術を使ったわけじゃない。脅しただけだ。この顔が便利なときもある」

ブルーノはフッと笑った。

館につくと、アリーがヴィムと一緒に待っていた。アリーは別のところに囚われていて、わたしよりも先に発見されて戻ってきていたらしい。

「アリー!」

「エレナ様! 大丈夫ですか? 怪我はないですか?」

アリーはわたしを見るなり駆け寄ってきた。上から下まで確認するようにわたしを見る。

「わたくしは大丈夫よ。アリー、怪我は?」

アリーはわたしを観察した後、ブルーノを一度見て、わたしの無事を確認したらしい。

「よかった、無事で、よかった」

よほど気を張っていたのか、崩れ落ちて泣き出してしまった。

「アリー、蹴られたでしょう。大丈夫?」

「どこを蹴られた?」

診ようとしたブルーノをアリーが止めた。泣いてしまって声が出ないらしい。大丈夫と言うように小さく頷き続けている。ブルーノは手をひいて「わかった」と呟いた。

「アリー、巻き込んでしまってごめんなさい」

アリーが「え?」という顔でわたしを見上げる。

まだ事情がよくわかっていなかったアリーに経緯を軽く話した。

首謀者がネッケだったこと、ネッケの狙いはわたしだったこと。アリーはたまたまわたしと一緒にいたためにあのようなことになってしまったこと。ネッケたちはすでに捕えたこと。

「なんで謝るんですか。エレナ様のせいでは、ないじゃないですか」

「アリーもブルーノ様と同じことを言うのね」

みんな優しい。わたしが引き起こしてしまったのに、誰も文句を言わないばかりか、むしろ慰めてくれる。

「とにかく無事でよかった。アリー、襲われた時、逃がそうとしてくれてありがとう」

アリーは自分も襲われながら、わたしに逃げてと言い、その時間を稼ごうとしてくれた。アリーはわたしと違って魔力を扱うことができない。自分よりも大きく力のある相手に向かっていくのは、どれだけ怖かっただろう。

「アリーがエレナを?」

「そうなんですよ、ブルーノ様。あの体格のいい男の足にしがみ付いて、わたくしを逃がそうとしてくれたんです。あの状況でそれができるって、すごいでしょう?」

わたしがその時の状況を賛美混じりで話すと、アリーは涙を拭ってわたしを見た。頬と耳がちょっと赤い。

「私がせっかく時間を稼いだのに、なんで逃げなかったんですか」

憎まれ口を叩いているようで、照れているようにも見える。

「アリーがわたくしを逃がそうとしてくれたように、わたくしだってアリーを守りたかったの。わたくしたち、相思相愛ね?」

「相思……? ち、ちがっ、私はエレナ様に何かあれば、ブルーノ様が悲しむと思って……」

ブルーノの為、ということにしているらしい。アリーがブルーノに心酔していることは知っているから、そういうことにしておく。

「二人とも、もう休め。いろいろあって疲れただろう」

ブルーノの声で、わたしたちはそれぞれ部屋に戻った。