軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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わたしはエレナ・ギルマン。ギルマン子爵家の長女で、一応貴族令嬢ではあるが、貧乏ゆえに領民と共に逞しく育った十九歳。ご令嬢らしくないと領民からは評判だ、ってやかましい。

好きなものは金と権力。数えられるほどお金がある状態に興奮する。うひひ。残念ながらその状態になることはあまりないが。それに権力があれば、回避できることはたくさんあるし、何より領民と家族を守れる。

縁談相手のグレーデン伯爵は呪いの伯爵という異名を持ち、いろんな噂があるにせよ、金と権力というわたしの望みを叶えてくれる人だ。

いざ、輝かしい金と権力の世界へ!

その第一歩を踏み出すため、わたしはたった今グレーデン伯爵領へ向かう馬車に乗り込み、ふぅ、と息をついたところだ。

「お嬢様、涙が」

「あら?」

実家から途中まで付き添ってくれる侍女にハンカチを渡され、そっと目元を拭う。どうやらさすがのわたしでも少し寂しくなったらしい。なにせ家族からはまるでお葬式の出棺かのように送り出されたのだ。もう二度と会えないとでもいわんばかりに。

いや、結婚のために行くんですけどね?

祝われるべきところだよね?

家族からしてみれば、本当にもう会えないと思っているのかもしれない。なにせお相手が呪いの伯爵だから。

曰く、

一人目の妻は呪われて体調不良で実家に戻された。

二人目の妻は伯爵一家もろとも呪い殺された。

それ以外にも学生時代になんやかんやとか、いろいろと良くない噂がある方らしいのだ。化け物みたいな顔をしているとか、気に入らなかったらその場で呪い殺すとか、まぁとにかくいろいろ。

当時のグレーデン伯爵当主を含む家族全員亡くなられ、伯爵位を継承して一年。御年二十三だという。その若さでもう二回も結婚しているとか。どう考えても訳アリなお方だ。

癒しが使えるから大丈夫とか言って気丈に振舞ってきたけれど、もしかしたらわたしも呪われるのかもしれない。

そう考えると冷や汗が出てくる。怖くないはずがない。

でもそれも覚悟の上だ。わたしにとっては何よりも家族と子爵領が大事だから。

何より、金と権力でこの世を謳歌するのだ、ふははは。

おっとりとしていて人が良すぎる父、明るく楽観的な母、婚約できないことを貧乏子爵家次期当主という肩書のせいだとしている兄、頭が良く人当たりが良い弟、まだ十歳の可愛すぎる妹、それからわたしを育ててくれた領民たち。

領を離れるのは辛いけれど、わたしは絶対に守ってみせるのだ。

わたしの目標は、なるべく長く伯爵夫人をこなしつつ子爵領を守ることだ。だからそう簡単に呪われて死んだりしない。どうやったら呪われないのか知らないけれど。

婚約期間はギルマン子爵家がこの縁談を承諾し、両家の合意が取れた時から一年だそうだ。通常ならば婚約期間を終えてから正式に婚姻を結んで移動すればいいのだが、今回は条件の一つに領同士の取り引きはわたしがグレーデン伯爵領へ移動したら始める、とされている。

伯爵に会ったことすらないのに婚約期間が始まっているんだって。

なんでそんなに急ぐんだろうね?

貴族の政略結婚なんて生まれた瞬間に相手が決まっている、なんてこともあるくらいだから、そんなものだろうか。今まで縁談というものに縁がなかったわたしにはよくわからない。

とにかく子爵領の経営が火の車すぎて、早めに取り引きを開始したかった。ついでにグレーデン伯爵は、わたしが移動したら資金援助もしてくれるらしい。会ったことはないけれど、良い人に違いない、と気持ちを奮い立たせてみる。

金が入るぞ! 金だ!

これでしばらく、子爵領は安泰だ!

いずれ女主人になる身としてその家のことを理解するため、婚約期間中に移動することも珍しくはない。渋る父を説得して、引き継ぎや準備を急いで済ませ、一月後。わたしはグレーデン伯爵領へ向かうことにした。

そして今、その移動の馬車に乗っている。

ガタゴトと子爵領を進む。春の緑が目に眩しい。石やレンガで作られた可愛らしい家が並ぶ街はすぐに通り過ぎ、その先では牛やヤギがのんびりと草を食んでいた。時折領民が畑から手を振ってくれたりする。

わたしはそんな子爵領ののどかな風景が大好きだった。

馬を休憩させるために寄った村で昼食を取っていると、わらわらと村民が集まってきた。

「お嬢様、嫁入りってきいたけど本当だったのかい」

「えぇ、まだ婚約ですけど」

「いやぁ~、寂しくなっちゃうねぇ」

「息子の嫁に来てほしかったのになぁ」

「お前んとこじゃ無理に決まってんだろ」

あっという間にぐるっと取り囲まれた。

「オレ達お嬢様に何かあったら飛んでいくからな。辛いことがあったらこっちに向かって叫んだらいいぞ」

「叫んだってきこえんじゃろが」

「大丈夫だ、心は繋がってんだからな。心の声なら聞こえ……」

「そうだぁ、これもってけや」

「あぁ、ちょっとまってな。あれもってくるわぁ。取ったばかりの人参が」

「魚もあるさ」

「ちょっと待って、一気にしゃべらないで、聞き取れない」

村民たちは次々に切れ目なくしゃべる。しゃべりたいだけしゃべる。昔どこかに十人の意見を一気に聞いた偉人がいたとかいう逸話があるけど、できるわけがない。

そしてなにやらどっさりとお土産をもらった。お守りやら、手作りの巾着袋、焼いたばかりだというパン。今朝取ったという魚は断ったけれど、朝採れ野菜は持たされた。嬉しいけれど持っていっても失礼にならないだろうか。土ついてるけど。

「喜ぶところなんだろが、寂しいなぁ」

「もう嫁には行かないかと思ったお嬢様がなぁ」

「そうそう、おてんばすぎて嫁の貰い手がないのかと思ってたがなぁ」

「えっ?」

ひどい、とむくれれば、村民たちは笑って、冗談だ、旦那になる人は幸せだ、なんておだててくれた。

「たまには帰って来て顔見せてな」

小さいころから知られているので、親戚のおじちゃんおばちゃんたちのような気分だ。あちらもたぶんそんな感じなのだろう。みんな、温かくて良い人たちだ。

だから、わたしは子爵領が大好きだ。

「達者でなぁ~!」

「うん、みんなも元気でね!」

動き出した馬車の窓から身を乗り出して、大きく手を振った。