軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

セピア色の祖母の手紙

その数日後、大叔母様の家を訪問する日が決まったと、兄から連絡が来るのと同時に、ブライアン様から、ドレスの仕立て屋を呼ぶ日についての打診が来た。

大叔母様に会いに行く次の日を選び、ブライアン様に連絡すると、大叔母様訪問に同行すると返信がきた。

そう言われて、改めてブライアン様との関係について考えた。

「ねえ、ベル。ブライアン様が大叔母様を訪問するのに、同行すると言ってきたのだけど。どういう関係だと紹介したらいいの?」

「エリック様の上官でも、お二人のご友人でも、今回の訪問理由からして不自然です。でもあの方のことだから、うまい理由を考えるでしょう」

それには納得し、私は了承の返事を書いた。

当日私を迎えに来たブライアン様は、なんとなくいつもと違っていた。

少し控えめ?

少し自信無さ気?

馬車の中の沈黙が重い。

今日は珍しく、いつも騎馬で従う従者が同乗している。あくまで、クルス家の訪問に同行させてもらう立場として、控えめにしているようで、他にお付の者はいない。

ベルが気を利かせて、ドレスの話題を持ち出した。

「明日、仕立て屋がどんな布を持ってくるのか楽しみです。私がおすすめした濃いグレイのシルクで、良い物があると嬉しいですけど」

ずいぶん落ち着いた色調だ。

「ベル。地味すぎない?」

「地味には絶対にしません。お任せください」

すぐにクルス家の馬車が合流してきた。

兄とロイドが馬車の中から挨拶を送ってくる。

ダリルはいつものように、馬で従っている。今日はクルス家からの訪問なので、護衛もクルス家から出している。

馬車での三時間は、主にドレスの話で過ぎていった。

「光沢のあるダークグレイのドレスの上に、レースと刺繍を重ねます。刺繍はマリア様に刺してもらいます。胸当て部分と袖の切り替えには、ブルーの花と薄緑の草花、それと小鳥ですね。思いっきりゴージャスに」

「それは映えそうだな」

「濃紺のベルベットでパイピングをするのも考えているのです。王妃様の代理としての貫禄や重厚さも加えたいですね」

「細身のマリア嬢に、それは重すぎないか? もっと軽やかなほうが良いと思うが」

ベルとブライアン様は、話が尽きないようだ。

私は感心して、その会話をぼんやり聞いていた。

大叔母様の屋敷は、そう遠くない郊外にある。馬車で三時間ほどの距離だ。周囲には、落ち着いた雰囲気の屋敷がいくつも並んでいる。

綺麗に整えられた門の前に馬車を停めると、護衛のクルス家の騎士が訪問を伝えに行く。

大叔母様は裕福な子爵家に嫁ぎ、今はこの屋敷で一人で暮らしている。

庭園は自然な感じに整えられ、のんびりとした雰囲気だ。

ここへは小さい頃に来た覚えはあるけど、大人になってからは初めてだった。

門が開き、馬車は敷地内に乗り込んでいった。

ブルーグレーのベンチや、バラの絡んだアーチが遠方に見える。

バラのアーチの足元にはとりどりの花が植えられていて、それがずっと続いている。

とても華やかで素敵。後で少し散歩をさせてもらおう。

屋敷の前に馬車が停まり、私はブライアン様のエスコートで馬車を降りた。

大叔母が出迎えに出ている。

気さくな人柄は記憶通りのようで、スタスタと私の方に両手を伸ばしてやってくる。

「まあ、エリスによく似ているわ。血は争えないわね」

腕を軽く叩き、私を上から下まで見回す。

「大叔母様、ご無沙汰しておりました」

「挨拶とか、飛ばしましょう。面倒だわ。エリックもよく来たわね。ロイド、まあ!」

大叔母は兄を飛ばしてロイドの元に突進した。

「あの捻くれ者が、まあ真面目くさった顔して」

ロイドが困ったように笑っている。

捻くれ者ですって?

兄が、ずいっと前に出て、「大叔母様、今日はローズ公爵家のブライアン殿が同行されております」と紹介した。

大叔母は驚いたように振り向き、私たちの方に戻ってきた。

それから優雅にご挨拶をした。先ほどまでとは別人のようだ。

「失礼いたしました。久しぶりの再会で舞い上がってしまいました。お恥ずかしいことです」

そう言う大叔母に優しく微笑みかけ、ブライアン様は礼儀正しく挨拶を返した。

「マリア・クルス嬢がベルシアに赴く際、王妃様の代理を務める話が持ち上がっています。クルス家とベルシア王家の縁について、私もお伺いしておきたいと思い、同行させていただきました」

「まあ、そうなんですか。マリア、凄いわね」

大叔母は感激している。ついでにブライアン様に見惚れてにこにこしている。

部屋に通されると、兄はさっそく、ベルシア前王夫妻が来た時の事を、教えて欲しいと切りだした。

「まあ、せっかちね。甥のアルバンはのんびりしているのに、誰に似たのかしら」

大叔母は文句を言いながらも、目尻にしわを寄せて笑っている。とても楽しそうだ。

侍女たちがお茶の支度を済ませ、部屋の隅に控えると、布張りのきれいな箱を手元に引き寄せた。

「エリックから手紙を貰って、色々と思い出そうとしていたのよ。あの頃の古い手紙を探したりね。四十数年も前の事だもの。初めはぼんやりとしていたけど、一通の手紙を読んだら、ぱあっと記憶がよみがえったわ」

そう言いながら、箱を開け、中から手紙を取り出した。

少しセピア色になった封筒で、薄いピンク色だった名残がある。女性の手紙のようだ。

「これね、エリスからの手紙なの。あの頃貰って、そのままここにしまってあったのよ。凄く懐かしいわ」

私たち全員の目が、その手紙に吸い寄せられていた。

「内容はね、簡単に言うと、のろけみたいなことよ。ところで、何から話せばいいかしら」

兄が代表して、「まずはベルシア国王夫妻が来た時の事を教えてください。一介の伯爵令嬢が、国王夫妻とどんな繫がりがあったのでしょう」と聞いた。

「さあ、それは解らないわ。私がエリスと仲良くなったのは、その夜会が最初なのでね。夜会の場で、エリスが凄く気分が悪そうにしていたの。侍女も一緒になって真っ青になっていたわ。私が気付いて声を掛けて、それから控室に付き添ったのよ」

「何かあったんでしょうか」

「ええ。彼女が以前付き合っていた方が、事故で亡くなったらしいの。侍女の恋人も一緒だったそうよ。それを、あの夜会の最中に、噂で知ったらしいのよ。二人共お気の毒で、私には何も言えなかったわ」

ああ、あの男が言っていた事故。その時、あの従者は亡くなったのね。夢で見た淡い金髪の、若い男の顔が脳裏によみがえった。

夜会の最中にベルシア王の事故の噂が流れ、記憶喪失と従者が死亡した話を聞いてしまったのだろう。

「あの、おばあさまはその夜会で、ベルシア王とは直接会わなかったのですか?」

「馬車に送る途中に、丁度お傍を通り掛かって、エリスが倒れそうになったところを、ベルシア王が咄嗟に支えてくださったの。素敵な方だったわ。王妃様もとてもお美しくてね」

それは……あんまりな鉢合わせだ。

黙ってしまった私の代わりに、兄が質問した。

「その時に、祖父と知り合ったと伺いましたが、どうやってですか」

「私が兄に手伝いを頼んで、ふらふらになっていたエリスを、兄が支えて歩いたの。それがきっかけで、親しくなっていったわね。エリスは人気があったのよ。彼女が誰の申し込みも受けずにいたのは、恋人を待っていたからだったのね」

「祖母は、亡くなった恋人の事を吹っ切れたのでしょうか。それに、祖父のどこを気に入ったのでしょう」と兄が聞いた。

「それがこの手紙に書かれているの。亡くなった恋人の事を、忘れなくてもいいって兄が言ったそうよ。そう言ってくれる兄が大好きですって。私は、それでいいのかしらって心配したけど、二人はとても仲が良かったわ」

大叔母はにっこりと微笑んだ。

「物静かだったエリスは、兄と結婚して変わったみたい。思いっきりが良くて、大胆ではっきりものを言う素敵な義姉様だったわ。兄や甥は、良く叱られていたわね。のんびり者でことなかれ主義だから」

その話の後、皆で庭を散歩させてもらった。大叔母様の趣味で、ピンクのバラを中心に育てているそうだ。大叔母の雰囲気そのままに、可愛らしい庭園だ。

甘い香りで胸を満たしてから、私たちは大叔母の家を後にした。