軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

旅行の打ち合わせ

今更、濁して言っても仕方が無いのだけど、あまりあからさまに言われると、会話が殺伐としてくる。 私は兄をキッと睨んだ。

「そう思っても、もう少し柔らかい表現を使ってください。心臓に負担が大きいです」

「そうか? じゃあ、俺たち全員が動けなくなって、引き取りに来る事になる、とか? それでのこのこやって来たお前は、一人で王太后の手の内に落ちるんだ」

聞いていてげんなりした。

騎士って頭の中が単純なのかしら。いいえ、違う。お兄様の頭の中と言葉が簡潔すぎるのだ。

「いいです。もうはっきり話しましょう。現実が厳しいのだから、どう言い換えても、内容は同じですね」

そう言う私の横に、いつの間にかブライアン様が寄り添うように立っていた。

「何とかして途中からでもベルシアに向かいます。あなたを一人であそこに置いてはおけない。何を於いても、絶対に行きます」

「私だって、もちろんお嬢様から片時も離れません。毒見もしっかりいたします」

「王家の招待だから、毒は使わないはずよ。面目がつぶれるもの。そこは大丈夫だと思うの。それに、私を不幸にしたいのだから、そんなにすぐ殺さないでしょう。もっと陰惨な手を用意すると思うのよ」

ベルが突然、涙目ですがりついた。

「そんな怖い事、そんなにあっさりと言わないでください」

ふと見ると、ブライアン様も、ロイドも当惑したような表情になっている。

「お前、俺にああ言っておいて、自分の方があからさまじゃないか」

兄がげんなりしたように言った。

「あら、お兄様に影響されてしまったみたい」

そう言って笑ってごまかしたけど、本当は違うと分かっていた。

私は一度死んだ事があるのだ。多分少し、普通の人たちと感覚が違うのだろう。しかも、今回の生でも、その同じ時期に死ぬのではないか、という疑いが消せない。

私にとって、死は凄く身近にあるもの。

騎士として死に向き合う、お兄様やブライアン様とは、また違った位置にそれはある。

もっと言動に気を付けないといけない。

「まあ、いいか。まずは行きの六日間は問題ないと思う。行きに何かあったら会えないからな」

そこで、ロイドが声を上げた。

「エリック様、ベルシア王宮まで六日間というのは、旅に慣れた方用の日程で、女性方が同行される場合は、もう一日か二日、余分に日程を見たほうがよろしいでしょう」

「あーそうだな。ゆっくり行かないと、面倒が起こりそうだ。じゃあ、八日間」

「皆様方の従者として、最低で侍女三名と従者一名が同行することになります。そのまとめ役が必要です。また、王家との対応を円滑に行うためにも、クルス家の執事である私が、その任に当たるのが一番だと思われます。私も同行させていただきたく存じます」

ブライアン様がほっとしたようにロイドの方を向いた。

「賛成だ。ぜひロイドについて行って欲しい」

兄は髪に手を突っ込んで、わしゃわしゃと掻き上げた。薄茶色の髪がボワッと立ち上がる。

私の髪と同じだけど、短いからそんなに困らなそうだ。

好きになった女性に、長髪が好きとか言われたら伸ばすのかしら。そしたら、ナイトキャップは必需品よ。

その姿を想像して笑いそうになってしまった。

そんな私を怪訝そうに睨んで、兄が言った。

「それが良いだろうな。俺一人じゃ、女どものヒステリーを抑えられない」

ムッとしたが、ロイドが同行することには大賛成。それに、八日間もの旅は初めてだから、道中がどんな風なのか全くわからない。

ロイドは、「さっそく旦那様に御相談いたします。これから、忙しくなりますね」とニコニコしている。

「次はベルシアでの過ごし方だな。石は向こうに戻っていて、今は王太子が加護を受けている。関わった密偵は皆死んでしまったから、我々が石の秘密を知っていることは伝わっていない。石に関するトラブルは終わったと思っていいかな」

兄は皆の顔を見回し、最後に私に視線を向けた。

「終わったはずです。そう言えば母は祖母の扇子の要の事を知っているわ。口止めしておいた方がいいかしら」

「夫人が知っているのは、扇子の飾り金具としての石だろ。そのままの方が良くないか?」

ブライアン様が提案すると、兄と私は目を見かわし、頷いた。特に問題は無いし、誰も何も知らないのも不自然だ。

「母には王太后様が怖い人だという事だけ、耳打ちしておこうと思います。王宮での噂としてです。警戒しておいてもらったほうがいいですから」

「あの母に、そんな腹芸ができるのかな?」

兄が不安そうに聞き返してきたが、横からロイドの楽しそうな声がそれに答えた。

「それは大丈夫でございます。奥様はそれが出来る方です。特に社交に関しての振る舞いは得意分野でしょう。判断に関しては、少々甘い部分がおありですが、ちゃんと前もってお伝えしたら大丈夫です。むしろ戦力になるかと」

「私もおばあさまから、同じような事を聞いたことがあるの。どんな風なのかは知らないけれど」

そう言うと、兄は更に疑い深そうに私とロイドを交互に見た。

「話すときは、俺も同席するからな。じゃあ残る問題は、祖母に対する王太后の逆恨みだけか。マーカス王が記憶を取り戻した時に、何か揉めたとして、俺たちにはどうにもできない。どうしたら気が収まるのか見当もつかない」

「大叔母様の話で、少しでも様子が分かるといいわね。後は、ベルシアで情報を探るしかないわ」

ベルが勢い込んで前に出て来た。

「私、あちらの使用人たちと仲良くして、情報を集めます。お嬢様が刺繍したリボンや、ちょっとした小物をたくさん用意しましょう。すぐに打ち解けてみせます」

やる気満々のベルに、「頼もしいな」と笑いかけてから、また私の方に視線を投げて来た。

「護衛はどうする? 知らぬ態で行くなら、たくさん引き連れてはいけないぞ。小数精鋭だな」

「伯爵家の護衛騎士だけでは心許ない。王妃様に仕える、女性騎士をお借りする」

兄の言葉に対し、ブライアン様がきっぱりと言った。

「そんなことができるのですか?」

「女性が三名も出かけるのだから、常に身近に控える女性騎士がいたほうがいい。私から王妃様にお願いしよう」

クルス家の面々は怪訝そうな表情になっている。王妃様の護衛騎士を借りるなんて、できるのだろうか。

それ以前に、そんなことを願い出るだけで、不興を買いそうだ。

ブライアン様は、なぜか申し訳なさそうに言った。

「我が家に女性騎士がいればいいのだが、なにせ姉妹がいないので、その必要がなかった。優秀な女性騎士は王妃様付きの数人しか知らないんだ」

私は周囲を見回し、様子をうかがった。

そして代表で問いかけた。

「一介の貴族が王妃さまに願うには、不興を通り越して、不敬を問われかねない気がします。そうではありませんか?」

ブライアン様が目の前に立った。相変わらず素早い。

「お任せください。叔母様には一つ貸しがあります。一番目端の利く者をもぎ取ってきます」

そういう問題だろうか。

不安になって、兄に目で救いを求めた。

「副団長。その願い出をクルス家から行うのは無理です。他家との関係もありますから。それを考えた上でのお話でしょうか」

「もちろんだ。マリア嬢を、王妃様からの弔問と友好の使者とするよう働きかける。女性騎士が同行してもおかしくないだろ」

おおーと声が重なった。

それなら、ごく自然だ。