軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

王宮からの使者役ー2

「マリア嬢、これならいつも通りに接していただけますか」

また、おねだりの目!

――それ、癖になっていませんか、ブライアン様。

でも、今までの完璧な貴公子仕様より、ずっと接しやすい。

それで、おずおずと気持ちを伝えてみた。

「とても立派で素敵すぎて、気後れしておりました。すみません」

「よかった。これからは気をつけます」

いえ、そういうのも見たいのですが⋯⋯というのは、さすがに我儘すぎて言えない。

変な葛藤を抱えているうちに、使者一行はクルス伯爵家に到着した。

門から敷地内に入ると、ロイドが出迎えに出ていた。

「お待ちしておりました。使者様方をご案内いたします」

そう言って、エントランスロビーに向かった。私が正式な使者のため、先頭を歩き、その後にブライアン様と兄、その後ろにベルが続く。

ロビーで待っていた父は、私を見て、目をパチパチさせた。

連絡はしてあったけど、実際に見ると衝撃を受けたようだ。私自身も、なんとも大仰な事だと思う。

公爵家子息と、伯爵家子息の兄を従えて、家に乗り込むなんて。

でも、成り行き上、こうなってしまうのだ。

私は早速、「ベルシア王家よりクルス伯爵家に送られた書簡をお届けに来ました」と述べて、布で包んだ書簡を父に渡した。

父の後ろに並んでいる、我が家の主要な使用人たちは、息を殺して見守っていたが、ここでやっと一息吐いたようだ。

私もホッとして一歩下がった。

兄が横に立って、「立派に務めたな」と褒めてくれた。

言いながら、手を髪のなかに突っ込みそうな気配を感じたのと、ブライアン様が、「よせ」と言って手を押さえるのが一緒だった。

どれだけ速く動けるのだろう。これなら強いのも納得だ。それにしてもエリック兄様は全く。

小声で、「噛みつきますよ」と言ってやった。

後ろでベルも睨んでいる。今日の髪形は、ベル考案の、新しい結い方なのだから。

「さあ、使者殿。こちらでお休みください。歓迎の晩餐をご用意いたしましたので、時刻になりましたら、使いをお送りします」

父の言葉を受けて、ロイドがブライアン様を、部屋に案内していく。

兄は、「部屋にいるからな」と言って去っていった。

私はベルと一緒に部屋に戻る。服も、その他の細々したものも、ほとんどそのまま家に置いてある。

それで、今回の訪問には、大した荷物は持ってきていない。

久しぶりに自分の部屋に戻ったら、すごく不思議な気分になった。

今までの宮殿での生活が、またまた夢のように思える。既に一カ月ほども過ごしているのに。

「ねえ、ベル。これは夢じゃ無いわね。結婚式から八日足らずの間に、ブライアン様と出会って、ジェイソン様たちが亡くなって、襲撃があって、それから今まで王宮で侍女勤めをしている。これは現実よね」

ベルが元気よく答えてくれた。

「そうです。そして、何事も無く済みそうにないのが、確定しました。気合を入れてかかりましょう」

「そうね。しっかりしなくちゃ」

げっそりして頭を抱えた私の肩に、肩掛けをフワリと掛けて、足元に室内履きを置いてくれる。

華奢な靴を気軽な室内履きに履き替えると、ホッとした。

私は庭を眺めようとベランダに出てみた。爆破された東屋は綺麗に修理されている。

花壇には新しい苗が植えられ整備されていた。来年には花が咲くのだろう。

我が家の被害は、今のところほんの少しで済んでいる。

侯爵家はどうしているのだろう。

メリーの遺体は、結局誰が引き取ったの?

王宮にいる私の元には、噂が入ってこない。

私の情報源の兄は、家のことや近衛騎士団の仕事で忙しく、ブライアン様は弔問使節団として出かけてしまっていた。

頼みに出来るのはベルだけだが、侍女仲間から仕入れた話はゴシップが多い。

その中には今回の一連の出来事も含まれていたが、突拍子もない話に変えられていたりする。

ジェイソン様が男色家で殺人鬼だったとか、愛人同士が殺し合ったとか、実はジェイソン様が盗賊団の首領だったとか。

際限なくバリエーションがあって、ベルが呆れていた。

あれから1ヶ月半ほど経った今、どういう話に落ち着いたのか、それも今日は確認したい。

心をざわつかせる雑多な思いと裏腹に、目の前の景色は平和で、何事もなかったように見える。

とにかく、今私は生き延びている。

そう思ったら、気持ちが前向きになった。

着替えを済ませた頃、従僕が食事の支度が整ったと伝えに来た。

私はいつもの扇子を手に、ゆっくりと立ち上がった。

晩餐用の部屋に着くと、ブライアン様は既にテーブルについていた。私は、一応主賓扱いなので、父の斜め横の席で、ブライアン様は、その下座になる。

もう使者扱いは終わったと思っていたのに、まだその設定のままのようだ。

遅れてやって来た兄は私の向かい。妹がその横。

私は父に挨拶してから椅子に腰掛け、ブライアン様にも挨拶した。

「相変わらずお美しい。こういう席でご一緒するのは、驚くことに初めてですね」

「そういえば、そうですわね。普通ではない状況で知り合って、そのままずっとすれ違っていましたから」

それから、ふと笑ってしまった。

「今だって普通ではありませんわ。公爵家公子様より、テーブルの上座に着くなんて」

笑い合う私たちに、兄以外の家族と使用人たちは驚いているようだ。

もちろんロイドとベルは別だが。

ありがたい事に、襲撃にあった日の私とブライアン様の様子は、あの場にいた家の騎士達が秘密にしてくれているようで、他の人間には広まっていない。

私は食前酒にシェリーを選んだ。

甘くて濃い液体を少しすする。

向かいに座る兄は我が家特製のベルモットを飲んでいる。お気に入りのそれを、ブライアン様にも勧めている。

一口飲んで、ブライアン様がおっと声を上げた。

「よくある物とは違いますね。いい香りだし、洗練された味わいだ」

「そうでしょう。わが家の秘伝のレシピです。これを目当てに、友人が遊びに来るんですよ」

ハハハッと笑ったあと、兄は急に笑いを引っ込めた。

そして私をチラッと見て、後ろめたそうにする。

その様子を見てピンときた。

多分ジェイソン様も、そうやって我が家に来ていた一人なのだろう。

食事が進むと、父が私に問いかけた。

「私はベルシアの王族との交流について、全く知らないのだが、お前は何か聞いているのか?」

「いいえ。私も何も聞いておりません。お祖母様の口からベルシアの話題が出て来たことはありません」

「何も分からないまま、招待を受けるのも気が引けるんだがなあ。かと言って、正式にご招待されたものを、断ることはできない。一体どういう経緯があったんだろうな」

父は困ったように考え込んでいる。

ブライアン様が、ベルシアの王太后から聞いた話を伝えると、少しは納得したのか、表情が明るくなった。

「母からではないが、ベルシア王夫妻の訪問時のことは、叔母から聞かされたことがある。父と母の馴れ初めが、その夜会だったらしい」

「へえー」と兄が意外そうな声を出した。

「大叔母さんはお元気でしたよね。話を聞きに行ってみようかな」

「それがいい。やはりどんなふうな付き合いだったのか、少しでも知っておきたい」

父はすっかり満足したようで、晴れ晴れした表情になった。