軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

お守り?ー4

思いがけない連れを抱いて屋敷に戻ると、父が私たちを待っていた。

「遅かったな。こっちにも事情を聴きに近衛騎士団から人が来た。そっちの話を聞かせてくれ」

兄は、先に王宮に使いを出すと言い、従僕を呼んだ。

「この犬は第二王子の飼い犬で、逃げたのを探していたんだ。明日、連れて行くよ。先に見つけたのを伝えないと」

そう言って従僕に手紙を持たせ、送り出した。

父は疲れているようだった。

「お前たちはどうだったんだ」

「俺は昨日のうちに色々と聞かれたから、今日はマリアの聞き取りだけですよ。それと荷物の確認。アクセサリーだけが抜かれていた」

「つまり金目当てってことか? 侯爵夫人の座をあきらめたから、金に走ったのか? やることに、一貫性がない女だな」

そう考えることもできるけど、収まりが悪い。

殺人を犯して侯爵夫人の座を狙うのと、アクセサリー数個を盗んで逃げるのでは、犯罪の色合いが違いすぎる。

それに証拠がなく、メリーが逃げる必要もないので、余計に納得しにくい。

世間はこの事件をどう考えるのだろう。

捜査に当たる近衛騎士団は?

ブライアン様は?

私が考え込んでいたら、父が屋敷での聞き取り調査について話し始めた。

「ルナ・バースの殺害容疑と言われたよ。寝耳に水で驚いたが、容疑は薄かったようだ。形だけの確認という雰囲気だった」

思い出したのか、緊張していた表情が緩んだ。

「わが家はあの日から全員、エリック以外は屋敷を出ていない。それは使用人たちからの聞き取りで確認された。殺害されたのは、一昨日らしい。それまでルナは子爵家に隠れていたそうだ」

兄が驚いている。

私も驚いた。

そんなにジェイソン様は彼女の事が大事だったのだろうか。彼の事を好きなわけではないけど、扱いの差が胸に刺さった。

「そのまま行方不明になったんじゃないんだ。ジェイソンとは連絡を取り合っていたのでしょうね。何か、近衛騎士から聞いていますか」

兄が父に問いかけた。

「処分が決まるまで、ジェイソン殿が彼女の居場所を隠していたらしいな。処分決定後に、ジェイソン殿から彼女宛に手紙が届けられ、その後の身の振り方は決まっていたそうだ。その次の日に、少しだけ出て来ると言って子爵家を出た。で、そのまま帰ってこなかった」

「それなら、知人か、共犯者の線が濃いか。我が家への聞き取りは形式的なものっていうことですね」

「どういう素性の女性なのか、そっちに捜査が動いて行っているようだ。我がクルス伯爵家は、巻き込まれた被害者の立場が確定したと言っていいな」

ようやく、本当に寛いだ表情になり、父は椅子の背に体を預けた。

「それで、大まかな状況も教えてもらえた。こちらにこれ以上の加害は無いと思われるが、しばらくは注意深く過ごして欲しいと言われたよ」

彼女はここを離れる前に、あの男との関わりに方を付けようとしたのだ。

まさか口封じに殺されるとは、思ってもいなかったのだろう。

相手は一体誰?

「盗まれたアクセサリーは、いくつあったんだ? マリア」

急にこっちに話が振られ、はっとして顔を上げた。私が品物を挙げていくと、父は口のなかで唸り始めた。

「ガーネットを繋げたネックレス一個でも、庶民にとっては十分な金額になるな。だが、なんだか腑に落ちない。嫌な感じだな」

兄が身を乗り出した。

「わが家は騒ぎの渦中にいます。こういう時は、良からぬ者たちに狙われやすい。しばらく警備を厚くしたいと思います。よろしいですか?」

「そうだな。物騒だからな」

「私が指揮を執ります。特にマリアには、しっかりした護衛を付けます。メーガンとダグがいいかな」

兄が上げたのは、クルス伯爵家騎士団の中でトップの二人だ。父が目を剥いている。

「マリアが危険だと思っているのか? なぜ」

「物騒だからですよ。興味本位の男どもも寄ってくるし、しばらくは注意深く過ごしたほうがいい。ノエルもです」

勢いに押されて、父は全てを兄に任せた。

私の部屋の外には、すぐに二人の騎士が護衛として立った。

敷地内には警備の兵がいつもより多めに立ち、きびきびと周辺の見回りをしている。

「いい訓練になる。ちょうどいいよ」

そう言って兄は満足そうだ。私はなんとなく、犬に「取ってこい」とボールを投げたような気分になった。

そういえば、保護した犬は? と急に思い出した。

部屋に戻ると、ベルが犬を綺麗に洗い、ブラシを掛けてあげていた。

私の姿を見ると、飛び上がって喜び、駆け寄って来る。

飛び上がっても、大して体が持ち上がらないチャックの様子がかわいくて、顔が緩む。

「おいで、チャック。いい子にしてた?」

クンクンと甘えた声を出して頭を押しつけるのが、可愛くてたまらない。第二王子の愛犬なのも頷ける愛らしさだ。返したくなくなってしまう。

「お嬢様にとても懐いているようですね。私が相手だと、世話をさせてやっている、という態度なのですが」

そのままチャックを構って遊んでいたら、ロイドが、明日ブライアン様が訪問されると告げにやって来た。

「きっと、今日のお嬢様の態度で焦ったのですわ。お嬢様、作戦成功です」

何を言っているやら。

「今はあまりブライアン様にお会いしたくないのよ。色々な隠しごとのどれもが、とても危ないものなのだから。あの方の眼差しが怖いの。きっと、全て見破られてしまうわ」

ロイドはにっこりして続ける。

「ブライアン様は伯爵家で保護している犬を引き取りにいらっしゃいます。それから、第二王子殿下がお礼を言いたいから、王宮に招きたいと仰っているそうです。そのエスコートをブライアン様がしてくださる事になりました」

驚きすぎて、声が出ない。

第二王子は、お見掛けしたことはあっても、話をしたことなど一度もない。

「どうしましょう。ドレスの用意をしなければ。アクセサリーも。それから……とにかく慌てなくては」

そう叫んだのはベルだった。