軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第五十一話 続くポメラの受難

「ポ、ポメラは……ポメラは、もう、ダメかもしれません。一生分の《 炎の球体(ファイアボール) 》を撃ちました……。視界がぐるぐるします……なんだか、恐怖と疲労で吐き気が……」

ポメラも息を切らしながら、地面の上にへたり込んでいた。

防御面は全て俺が担当したとはいえ、攻撃面はレベル上のダルクウルフを相手にほぼポメラ単独でやり切ったのだ。

ポメラの魔力はほぼ底を突いているようであった。

霊薬も数本渡していたが、既に手持ち分は空になっているはずであった。

ポメラは大杖を地面へと落とし、顔を手で覆った。

「……ごめんなさい、ごめんなさい、カナタさん。実は、先日にカナタさんから色々と霊薬をいただいていたときから何となく違和感はあったのですが……その、ポメラ、冒険者に向いていないのではないかなって……。ポメラは、冒険者に対する認識が甘かったかもしれません。その、その……とても、耐えられる気が……」

「お疲れ様です、頑張りましたねポメラさん! 今回で、一気に六つレベルが上がっていましたよ。この調子でいきましょう」

俺がポメラの肩を叩くと、彼女は顔を上げて俺の顔を見上げた。

俺の《ステータスチェック》の存在に関しては既にポメラに教えている。

修行のための、彼女のステータスの確認の許可ももらっている。

「ポ、ポメラ……ちゃんと、頑張れていましたか?」

「ええ、凄かったと思いますよ。今思えば、俺は最初の頃、師匠に動けないゴーレムを用意してもらっていましたね。それでもへとへとでしたから……。なんだか、ポメラさんのレベルが上がると、俺も自分のことみたいに嬉しいです」

「え、えへへ……そ、そんな、なんだか、照れてしまいます」

ポメラが頬を僅かに赤く染め、俺から目を逸らす。

「あ……さっき、言葉を遮っちゃっていましたね。すいません、つい、興奮しちゃって……」

俺が尋ねると、ポメラは一瞬思案するように表情を硬くした。

しかし、すぐにわずかに微笑み、落とした大杖を拾い上げ、口をぎゅっと固く結んだ。

「いえ……なんでもないです。その、ポメラ、やれるところまで頑張ってみたいです! ですから……その、カナタさんにはご迷惑をお掛けしますが、お手伝いしていただけると嬉しいです!」

ポメラが立ち上がりながら言った。

俺も彼女の言葉に大きく頷いた。

「あ、とと……」

ポメラがよろめいて、その場で倒れそうになった。

俺は咄嗟に彼女の身体を支えた。

「と……す、すいません!」

俺はそそくさと彼女の身体から手を引いた。

「い、いえ、あ、ありがとうございます。ごめんなさい……その、身体に力が、なんだか入らなくて……」

そうだ、あれを渡さなければいけない。

俺は魔法袋に手を入れ、中から霊薬を取り出した。

「ポメラさん、これをどうぞ」

「ありがとうございます、カナタさ……」

「それを飲んだら、もう少し森の方へと向かってみましょうか。ポメラさんのレベルは上がりましたし、今のでこのやり方に少しは慣れたと思うので、次はもうちょっと上の敵を狙っていきましょう」

ポメラは瞬きをした後、俺から受け取った霊薬へと目線を移す。

ポメラの顔にぶわっと汗が流れ始めた。

「も、もしかして……その、きょ、今日ですか……?」

「え……?」

予想外のポメラの問いに、俺は言葉に詰まった。

「い、いえ、なんでもありません! 行きましょう! ポメラ、カナタさんについて行くって決めましたから!」

ポメラはぐっと霊薬を飲み干した。

「あの……精神的にしんどいとかでしたら、休憩とか……」

「大丈夫です! ポメラは、カナタさんのご厚意を裏切らず、やりきってみせます!」

そ、そうか。

ルナエールはリッチであり、心の疲労などの感覚に疎いかもしれないと自白していた。

俺もルナエールの影響を受けてちょっと疎くなっているかもしれないと思っていたが、まあ、本人がこう言っているのであれば、きっと大丈夫だろう。

う。

俺とポメラはその後、薬草採取の途中に見つけたキラーベアと交戦した。

キラーベアはレベル30程度の、C級相応の魔物であった。

毛皮が青白く、四つの大きな腕を持った一つ目の熊である。

最初は一体だったキラーベアだが、俺が《 魔剛鋼(マナアルゴン) 》の盾で攻撃を凌いでポメラに攻撃させている最中に咆哮を上げて二体の仲間を呼び、呼ばれた熊がまた新たな仲間を呼び、気づけば七体のキラーベアに囲まれる結果となっていた。

多分、本来あまり時間を掛けて戦っていい魔物ではないのだろう。

俺はキラーベア達の前を飛び回りつつ、《 魔剛鋼化(マナアルゴン) 》の盾で腕の連撃を防いでいく。

「せ、精霊魔法第三階位《 風小人の剣撃(シルフソード) 》」

辺りに緑の光が走り、風の刃がキラーベアの一体を斬りつける。

ポメラは目に涙を湛えながら、震える声で必死に魔法を撃ち続けていた。

「精霊魔法は術者の魔力消耗を抑えられる代わりに、精霊を介する分、制御が複雑になります。もう少し落ち着いて撃たないと威力が安定しませんよ」

「でで、ですが……ですが……きゃあっ!」

ポメラに到達しそうだったキラーベアの一撃を、俺は彼女の前へと移動して盾で弾いた。

キラーベアの大きな指が曲がり、その巨体が後退した。

少し、弾きすぎたかもしれない。

「俺を信じてください。大丈夫です、キラーベアくらいの攻撃でしたら、防ぎ損ねることはありませんから!」

「は、はい……わかってはいるのですが……しかし、しかし……ひいいっ!」

魔法陣を紡いでいるポメラへと、三方向からキラーベアが襲いかかってきた。

俺は手前へ盾を突き出し、またキラーベア達の攻撃を妨げた。

戦いが終わった頃には、既に夕暮れが差していた。

ポメラは死んだ表情で、大杖を構えたまま立っていた。

「ポメラさん、レベル22になっています! やりましたね!」

俺が声を掛けると、ポメラの身体が地面の上へと崩れ落ちた。

「ポ、ポメラさん、大丈夫ですか?」

「カナタさん……今日の、今日の修行は……?」

「きょ、今日はもう、そろそろ都市へ引き返そうかと……」

「そう、ですよね……」

ポメラが生気の失せた表情を崩し、にっこりと微笑んだ。

「急いで霊薬を……!」

「きょ、今日はもう、できれば飲みたくないです! 我儘を言ってごめんなさい……でも、もう修行がないんだったら、今日はもう飲みたくないです!」

ポメラが目を見開き、腕を伸ばして俺を止めた。

「そ、そうですか……?」

俺は霊薬を魔法袋の中へと仕舞い込んだ。

ふらふらのポメラと、二人で並んで帰路を歩く。

「正直……カナタさんの修行方法が凄すぎて、ポメラにはついていけないんじゃないかって、途中で凄く不安だったんです。でも……今日一日無事に終えられて、少しだけこんな自分に自信が持てました。どうにかやっていけるって、今はそんな気がするんです」

ポメラは力なく歩きながら、少しだけ笑ってそう言った。

「もう少しレベルが上がったら、《歪界の呪鏡》を試してみましょう」

俺の言葉に、ポメラの笑みが凍りついた。

「な、なんですか……その、不穏な響きの鏡は……?」

「ちょっとばかり危険でしんどいかもしれませんが、効率が今までとは桁外れに上がるはずですよ。俺も一番目の師匠はと聞かれたら別ですが、二番目の師匠はと聞かれたら《歪界の呪鏡》と答えるくらいです」

ポメラがその場に足を止め、ふらりと膝から崩れ落ちた。

「ポ、ポメラさんっ!?」

「カ、カナタさん、ごめんなさい、やっぱり気のせいだったかもしれません……」