軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第四十八話 初めての換金

ポメラと二人で都市アーロブルクへと戻り、冒険者ギルドへと討伐証明部位を換金してもらいに向かった。

「こ、こんなにたくさん……? 依頼を受注してから、まだ半日も時間は経過していないはずなのに……」

冒険者ギルドの受付の職員が、目を丸くして俺とポメラを交互に見ていた。

「お、お二人とも、F級冒険者ですよね……?」

職員がゴブリンの耳の数を確認して行く。

途中で、手の動きが止まり、身体がぴくりと震えた。

「ゴ、ゴブリンリーダー……? それも、三体分も!? いくらなんでも……」

「……通常種と、そこまで何か違うんですか?」

直接戦ったが、見かけ以外の違いが一切わからなかったので、ついそう尋ねてしまった。

職員が不審げな表情を浮かべる。

「あなた達……その、本当に戦ったんですよね? 何か、妙なことをしていませんか? とてもではありませんが、F級の方二人でどうにかなる規模だとは思えないのですが……」

「あ……いや、何というか……」

俺が狼狽えていると、ポメラが慌てて前に立った。

「は、はい! え、えっと……その、カナタさんは登録したばかりなので、実力はもうちょっと上になると思います。それから、その……短時間で戻ってこられた理由なのですが、都市の南側に、ゴブリンの巣があるのではないかなと……」

ポメラが地図を広げ、職員へと説明を行ってくれた。

「……その近くは、確か他にも妙な報告が上がっていましたね。なるほど……それならばまぁ、納得もできます。情報提供、ありがとうございます」

職員はまだ納得しきってこそいないようだったが、これ以上追求してくる気配はなかった。

た、助かった……。

やっぱり、しっかりわかっている人がいると違う。

ポメラがいてくれてよかった。

「カナタさんは、どこかで私兵か、錬金術師として働かれていたのでしょうか? この勢いであれば、実績さえ積めばD級……いえ、C級冒険者くらいまでは、簡単に上がることができるはずです」

級にそこまで拘りはないが、まあ活動の目標にもなるか。

あまり級ごとの目安やメリットはわからないが、とりあえずC級冒険者を目的としていこう。

「実績の水増しかよ。しょうもないことやりやがる」

背後から声が聞こえ、振り返る。

後ろに並んでいた冒険者が俺の方を見ていたが、目が合うと舌打ちを鳴らして顔を逸らした。

……オクタビオといい、ロイといい、少し荒んでいる人が多いような気がする。

「奴らがC級だと? ふざけるなよ……」

と……やや離れたところに、オクタビオが立っているのが見えた。

顔に深い皺を刻んで、俺を睨みつけていた。

鼻が痙攣してぴくぴくと震えている

周囲に、取り巻きの小男の姿はない。

……本当にあいつは、しっかりとオクタビオに警告を出してくれたのだろうか。

俺が睨み返すと、オクタビオは俺達に背を向けてどこかへ歩いて行った。

何も仕掛けて来なければいいのだが……。

「今回の報酬金は……ゴブリンが十八体、リーダーが三体で、六万六千ゴールドですね」

「す、すごい……E級の依頼でも、ここまでもらえることって、なかなかありません!」

ポメラが報酬金を受け取り、感動の声を漏らしていた。

ほぼ一円と一ゴールドは等価だったはずだ。

一日でこれだけ稼げるのなら、かなり順調なのではなかろうか。

半分にして三万三千ゴールドと考えれば、一ヶ月二十日働くとして二十倍すれば六十六万ゴールドにもなる。

準備費用を考えても充分な額だ。

もう少しシビアな生活になるかと考えていたが、これなら大分余裕ができそうだ。

「では、カナタさん、どうぞ」

ポメラが報酬金の袋をそのまま渡してくる。

「え? えっと……ポメラさんの取り分は? 折半じゃないんですか?」

「そ、そんな! ポメラは何もしていませんでしたし、いくらなんでも罰が当たります! それに、これから色々と教わる身にもなってしまうのに……何もせずお金をいただくわけにはいきません!」

「いや、こっちも色々と教えてもらっているし……そもそも、お金がないと生活できないんじゃ……」

「だ、大丈夫です! ポメラ、外で寝るのには慣れていますし……それに、母が教えてくれたゴブリンワームのレシピがあるので、飢えることはありません!」

「余計心配ですよ! それ、本当に食用なんですか!?」

「エ、エルフの集落では、結構頻繁に食べられていたそうです。都市部で食べている人は、あまり聞いたことがありませんが……」

……見たことはないが、ゴブリンワームという名前からして食欲がそそられない。

微妙に外観が想像できてしまうのがしんどい。

ともかく、せめて真っ当に生活できるくらいには報酬を受け取ってもらわないと、こっちの方が気を遣ってしまう。

ポメラと問答を続けていると、別の受付から怒声が聞こえてきた。

「俺は確かに見たんだよ! 大きなひとつ目を持つ、蝙蝠の様な化け物を! あれは、召喚された精霊だ!」

「またあなたですか……。ですから、それがどうしたというのですか?」

「精霊召喚をして野放しにするのは、どこの都市でも重罪だろうが! そんなことを、目的もなくやる奴がいるわけがない! あれは、外を下手に歩けない《邪神官ノーツ》が、偵察のために放ったんだ! それしかないだろうが! だというのに……ノーツの目撃証言は誤情報だったから警戒態勢を緩めるとは、どういうつもりだ!」

えらく、受付に突っかかっている男がいた。

激昂する男に対して、受付は塩対応であった。

「領主様の決定ですから、我々に言われても……。見間違えか、何かでしょう。本当に見たとして、悪戯の可能性も否定できません。そもそも……怯えているから、何にでもそういうふうに見えるのでは?」

「なんだと……?」

男は今にも掴みかかりそうな雰囲気であった。

《邪神官ノーツ》……《人魔竜》に認定されている、凶悪な人物だったか。

確かに、ギルドの目立つところに貼られていたはずの手配書が、既になくなっている。

そのとき、入り口の方に二人の衛兵が現れ、一直線に受付へと歩き、騒いでいた男を両側から挟み込んだ。

「な、なんだよ、お前達!」

「またお前か……あれやこれやと、浅い考えで騒ぎ立てて、民を混乱させるのはやめろ。……と言っても、お前にはわからなかったみたいだな。付いてきてもらうぞ」

男はそのまま衛兵に連れられ、冒険者ギルドの外へと移動させられていた。

「こ、後悔するぞ! お前らも、おかしいと思わないのか! 《邪神官ノーツ》がいたら、こんな都市、あっという間に壊滅させられちまうんだぞ! それなのに馬鹿領主のガランドは、早々に勘違いだと決めつけて何の対策も取らない! こんなところにいたら全員殺されちまうぞお!」

男が叫ぶ。

冒険者ギルド内が騒然とし始めた。

俺も、少し不安になってきた。

勘違いだろうと聞いて安心していたが、本当にここを《邪神官ノーツ》が狙っているのだろうか。

「黙れ! そうやって不安を煽るのを止めろと言っているんだろうが!」

男が衛兵に殴り飛ばされた。

立ち上がる前に衛兵に背を掴まれ、引きずられるようにして外へと連れ出されていた。

ポメラも不安を誤魔化す様に、ぎゅっと大杖を抱きしめていた。

「……そんなに、ノーツっていう人はまずいんですか?」

ポメラが意外そうに瞬きをした。

俺がノーツを知らないとは、思っていなかったようだ。

「《人魔竜》は……人間では、ありません。都市が滅ぼされかねないというのは、比喩でもなんでもないんです。さっきの人は対策と言っていましたが……都市にいるとわかったとしても、取れる対策なんてきっとないと思います。都市どころか《人魔竜》の中には、十万人殺したとされている者や、国ひとつ滅ぼしたとされる者もいます」

そ、そこまでなのか……。

レベルに支配されたこの歪な世界では、個人の力の差が小人と巨人ほど異なることもある。

《人魔竜》とやらを甘く捉えていたかもしれない。