軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第四十一話 《人魔竜》

「おかしい……」

冒険者ギルドの受付に並びながら、俺は一人零していた。

不審がられないように気を付けながら《ステータスチェック》で周囲を調べていたのだが、その結果がどう考えても妙なのだ。

‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐

リル・リレイン

種族:ニンゲン

Lv :22

HP :101/101

MP :84/84

‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐

キール・マイファドル

種族:ニンゲン

Lv :9

HP :41/41

MP :34/34

‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐

既に二十人程確認したが……レベル8からレベル30までの間の人間しか見つからないのだ。

俺の中でレベル181のロヴィス再評価説が出ていたが、レベル28のオクタビオ再評価説まである。

というか、今までの違和感が何となく理解できてきた。

戦いを生業にしている冒険者でも、せいぜいがレベル30程度で、ロヴィスが最初あれだけ偉そうだったのは実力の裏打ちがあったからなのかもしれない。

変な汗まで出てきた。

ここで俺がレベル4122であることがバレたら、化け物扱いされて叩き出されるのではなかろうか。

俺は……本当に、ここまでレベルは必要だったのだろうか。

ルナエールは、何か俺に嘘を吐いていたのではなかろうか。

それとも彼女も彼女で、長らく《 地獄の穴(コキュートス) 》で引きこもっていたのでちょっと基準がぶっ壊れていたのかもしれない。

ふと、ルナエールの言葉を思い出す。

『ど、どっちが危険というと、平均的にはここの方が危険だとは思いますが……中には恐ろしく強い人もいますし、別世界から来たということで目をつけられたりもするかもしれません、いえ、されます!』

ルナエールの修行は、俺がこの先、何かしらの災いに巻き込まれることを見越してのものだったのかもしれない。

結構、幅が広いのだろうか。

ロヴィスも、俺が転移者だと知って納得しているようだった。

いや、でも明らかに桁が違うのはおかしくないか?

「あれ……?」

ギルドの壁に、ロヴィスの似顔絵が貼られているのが見えた。

手配書、という奴だろうか。

【黒の死神ロヴィス】と描かれており、下には何やら【討伐報酬:八千万ゴールド】と物々しい額が書かれている。

ゴールドはこの世界の金額らしい。

俺もまともに使ったことがないのでよくわからないが、一ゴールドと日本の一円は、そこまで大きくは乖離していないようだった。

……あ、あの人、八千万円の懸賞首なのか?

「怖いよなあ、この都市で目撃情報があったから、目立つところに貼ってるらしいぜ」

後ろから声を掛けられ、俺は振り返った。

細身の、俺と同年代の男だった。

弓矢を背負っている。

「あの、あの人って、どういう人なんですか? あんまりよく知らなくて……」

「ロヴィスを知らないのか? 強いけど表の舞台を追われたような、そういう冒険者を集めて、暗殺や交易妨害なんかを引き受けてるヤバイ奴だよ。何人もの権力者と繋がりが噂されてる。顔がいいし、別の犯罪組織と潰し合うこともあるから義賊だとか、悪のカリスマだとか持て囃す奴もいるが、ただの戦闘狂の外道だよ」

「悪のカリスマ……」

必死に引き攣った笑みで、揉み手をしているロヴィスの姿が脳裏に浮かんだ。

悪の、カリスマ……?

とてもそんな大物には思えなかったのだが……もしかして、ロヴィスを名乗る贋物だったのだろうか?

い、いや、そんな風でもなかった気がするが、しかし……。

ロヴィスの手配書を眺めていると、その隣に真っ赤な手配書が貼られているのが見えた。

「あの……ロヴィスさ、ロヴィスの隣の、赤い手配書はなんなんですか?」

ローブを纏う、糸目の青年が描かれていた。

討伐報酬がこっちは記されていない。

ただ、【邪神官ノーツ】とだけ書かれていた。

こちらも目に付くところに貼られているということは、目撃情報のあった人物なのだろうか。

「《人魔竜》も知らないのか? 世間知らずなんだな。人の形の魔竜で、《人魔竜》だ。人間にして竜と同等以上の力を得た化け物で、各地に災いと悲劇を齎す、生きる災害だよ。報酬が書かれていないのは、そもそも人間のどうにかできる相手じゃないからだ」

そ、そんな化け物が、この世界にはいるのか。

「もっとも、邪神官ノーツの警戒はガセが発端だと思うがな。昨日、別の施設に何枚も貼られてたんだが、衛兵が剥がしてたよ。仮に本当にそんな化け物がいるなら、俺はこの都市からさっさと逃げさせてもらうぜ。みんなビビってるから、デマが多いんだ。本人は生きてるのか死んでるのかもわかんねぇのにさ」

男は笑いながら話してくれた。

てっきりそんな化け物がこの世界にはゴロゴロしているのかと思ったが、さすがにそういうわけではなさそうだ。

受付で、俺の番が回って来た。

無事にロヴィスからもらった貨幣を用いて、登録を済ませることができた。

簡単な情報の記された登録証を発行してもらった。

しかし……俺の受けられる中で、まともな依頼がなかった。

驚く程に安い、雑用に近いものばかりだった。

迷子の使い魔捜しから、荷物運びの手伝いなんかばかりだ。

召喚魔法のための、下位精霊との契約方法の下調べなんかもある。

それくらい自分でやれと思ってしまう。

森への薬草採取や、ゴブリンの間引きはF級依頼となっているようだが、それさえ俺は引き受けることができないようだった。

「多分、その、そこそこは戦えるかなと思うのですが……」

「あー……形だけでも二人以上のパーティーとして引き受けてもらわないと、F級冒険者の方に、魔物の絡む依頼は発注することはできないんですよ」

受付の女の人が、面倒臭そうに応対する。

……荷物運びと召喚契約の手伝いでもしながら、気長に仲間を捜すしかないかもしれない。

俺がそう考えていると、入り口の方から怒声が聞こえて来た。

「おいポメラ、なぜ約束の時間にいなかった? 俺達を舐めているのか?」

「え、で、でも、今来たところなのでは……?」

「馬鹿か? お前がいなかったから、先に備品を買いに行ってたんだよ。あのさ、こっちはせっかくお前みたいなゴミを仲間にしてやってるのに、わかってないよな、お前はさぁ!」

ポメラが、青髪の男に怒鳴られて委縮しているところだった。

彼女の言っていた、依頼のパーティーメンバーだろう。

もう一人仲間に女がいるようだが、どうでも良さそうに欠伸を吐いている。

ポメラは仲間は良い方ばかりだと言っていたが、とてもそんなふうには見えない。

男はポメラの遅刻を詰っているようだったが、そもそもポメラが待たされることが常であったようだし、早々に彼女を待たずに別の店へ向かっている時点で怒りに正当な権利があるとは思えない。

「ま、また並び直します!」

ポメラの遅刻の理由は俺であるし、放っておくわけにはいかない。

俺は受付の人に頭を下げ、登録証を掴んでポメラの方へと向かった。