軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第四話 不死者のお節介

「ともかく……私は人間が大嫌いなので、助けてあげる義理なんてないのですよ。さっきはあまり聞かない声を聞いたので、興味本位で見に来ただけです。せいぜい足掻いて、苦しんで死んでいくといいですよ。悲鳴を聞いて様子を見に来ましたが、どうでもいいことでしたね」

少女は淡々とそう言った。

「お、お願いします! 本当に、俺にできることだったらなんでもしますから!」

俺はその場に座り込み、床へと頭をつけた。

「時空魔法第八階位《 異次元袋(ディメンションポケット) 》」

少女が腕を伸ばす。

魔法陣が展開され、少女がその中心へと腕を突き入れ、何かを引っ張り出しているようだった。

真っ赤な液体の入った瓶を三つ床へと並べた。

「これは……お気に入りだったのですが……まぁ……」

それから……少し迷う素振りを見せた後、虹色に輝く奇妙な林檎を取り出した。

「私の作ったレッドポーションと、食べてもなくならない果物です。これがあれば、ここまで来た人間ならば地上まで帰ることができ……じゃなくて、長く生にしがみついて苦しむことになるでしょうね。せいぜい足掻いて、無様に死ぬといいでしょう」

「……? く、くれるんですか?」

……レッドポーションとやらは、回復薬になるのだろうか?

「長く苦しませるためのものなので、勘違いなさらないように」

「な、なるほど……?」

無表情なので、少女がどういうつもりでこれをくれたのかが全くわからない。

「あ、ありがとうございます……これで頑張ってみます……」

俺は頭を下げながら、薬品と林檎を抱える。

……ど、どうやってこれを持ち運ぼうか。

「……あなた、まさか魔法袋を持っていないのですか?」

「え? なんですか、それ?」

少女は頭を押さえた後、もう一度また《 異次元袋(ディメンションポケット) 》とやらを使い、中から小さな蒼い布袋を取り出した。

「そこに入れておきなさい」

「え、これ……」

「……見かけよりは多く入りますから、その薬品くらいは簡単に収納できますよ」

そんな馬鹿なと思ったが、あんな異空間から物を取り出す様な力があるのならば、別にそういったアイテムとやらがあってもおかしくはないのかもしれない。

順応していこう。

「ご、ご丁寧にどうも、ありがとうございますリッチさん……」

「……名前はルナエールです。リッチは不死者になった魔術師のことであって、私の名前というわけではありません」

「あ、ありがとうございますルナエールさん。この恩は忘れません、きっと返しに来ます」

「いえ、長く苦しませるためのものなので」

……本気で言っているのかどうか、無表情のせいで全くわからない。

苦しませるためだけにそこまでするとはとても思えないのだが……。

「では、せいぜいご無事……ではなく、長く苦しんで死んでいってください」

……何か、彼女の中で破れないルールみたいなものがあるのかもしれない。

「あ、ありがとうございます……」

ちぐはぐなやり取りを終えた後、ルナエールが通路を飛んでその場から去っていった。

俺は青色の袋……魔法袋とやらに、彼女からもらったレッドポーションと、虹色の妙な林檎を入れてみた。

小さな布袋にも拘らず、あっさりと全て入ってしまった。

さすが魔法袋と呼ばれるだけのことはある。

俺は小さく感銘の声を漏らしてから、布袋についていた紐をベルトへと巻きつけた。

……しかし、状況は多少好転したものの、結局俺が死の淵にいることに変わりはない。

案外オーラに似合わず優しそうな感じはしたので、もっと泣きついてみた方がよかったかもしれない。

厚かましいが、命が懸かっているのだから仕方がない。

もっともそれも……もうルナエールが行ってしまったので悔やんでもどうにもならないことなのだが。

「一つ忘れていました」

「うおっ!」

背後から唐突に声が聞こえ、俺は背筋を伸ばして振り返った。

ルナエールが手に剣を抱えていた。

「魔物に奪われたのか、丸腰でしたね。これを持っていくといいでしょう。もっとも、あの世への餞別にしかならないでしょうがね」

ルナエールが床へと剣を放り投げる。

剣身が床へと突き刺さる。

古めかしい長剣だった。

石でできているらしく、これも何かの文字列が刻まれていた。

あまり切れ味のいい外観ではなかったのだが、容易く床を貫いたところを見るに、とんでもない力を秘めているようだった。

「あ、ありがとうございます……」

「それではせいぜい足掻くといいでしょう」

ルナエールがまた宙を飛んで去っていく。

……しかし、俺が剣なんか持ったところでどうにかなるだろうか。

彼女を土下座してでも呼び止めるべきではなかろうか。

いや、怪我を治してもらい、回復アイテムに便利道具袋、おまけに武器まで恵んでもらったのだ。

これ以上を強請っては罰が当たる……というか、機嫌を損ねて何かしらかされかねないかもしれない。

俺は彼女の背を見届けた後、剣の柄を握りしめて引き抜こうとした。

……引き抜けなかった。

三十分ほど引っ張ったり、蹴り飛ばしたり、柄の部分を撫でて機嫌を窺ったりしてみたが、まるでビクともしなかった。

むしろなんであの人は俺がこれを引き抜けると思ったんだ?

剣身が大分深くまで床にめり込んでいる。

これもう選ばれし緑の三角帽子の勇者くらいしか引き抜けないのでは?

『これがあれば、ここまで来た人間ならば地上まで帰ることができ……じゃなくて、長く生にしがみついて苦しむことになるでしょうね』

俺はふとルナエールの言葉を思い出して、そこでようやく合点が行った。

「ああ、あの人、俺が自力でここまで来たと思っているのか……」

俺は剣を最後にもう一度だけ引き抜こうとして、やはりビクともしないことを確認した後、一人で大きく頷いた。

「これは諦めるか……」