軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第三十七話 真の平穏のために

ルナエールと共に《 地獄の穴(コキュートス) 》の百階層の転移魔法陣によって地上へと出たとき……突入したときよりも分厚い城壁で囲まれていた。

既に外に這い出た魔物の討伐も終わった様子であった。

集められた冒険者達が歓声を上げ、互いの功績を称え合っている。

俺とルナエールが突入してから既に三日が経過しているわけで、集まっている冒険者の数は当時の何倍にも膨れ上がっていた。

人集めにソピア商会の力を使ったとは突入前から聞いていたが、よくも数日でここまで集めたものである。

「どうやら無事に悪魔の討伐を終えてくれたらしいな」

俺達の許へとヴェランタが向かって来た。

「表の魔物の追い返しが終わっていたようで何よりですよ」

「少しばかり慌ただしいことにはなったがな。結局、この世界の重要な拠点を守るために各地へ配置していた戦力も、大半もこの地へと呼び戻すことになってしまった。この隙をまた上位存在共に狙われなければよいのだが……何はともあれ、目前の大事件を解決できたことをまずは素直に喜ぶべきだろう。《 地獄の穴(コキュートス) 》を封じていた古い神殿だが、我がまた強化したものを再建しておく」

ヴェランタは能力のお陰で万能な上に、純粋に指揮能力が高いのが心強い。

味方に付いてくれて本当に助かっている。

彼がいなければ、ルシファーの被害はきっと何十にも膨れ上がっていただろう。

「今回集めた人達って、レベル70前後のA級冒険者が大半ですよね? それ以上の人達は、そこまで数がいないはずですし。《 地獄の穴(コキュートス) 》にはレベル1000以上も珍しくはないのに、よく戦線が持ちましたね」

「我が装備をばら撒いたのでな。それに、この世界でもレベル200以上の人間はそれなりの数が存在するのだ。普段は国一つ滅び掛けても表舞台には立たないような連中でも、ソピア商会ならば彼らを動かすことができる」

ヴェランタが得意げにそう説明した。

確かにワーデル枢機卿の《神伐騎士》もレベル300台であった。

ああした表舞台には立たない戦力がこの世界の各地にはいる、という話は納得ができた。

ふと、離れたところから、一層と大きな歓声が聞こえてきた。

「見ろ、竜神ポメラ様だ!」

「此度の魔物災害に打ち勝てたのは、竜神ポメラ様のお陰だ!」

「ありがとうございます、竜神ポメラ様……!」

「あなたによって世界は救われました!」

……なんだか聞き慣れた名前に、聞きなれない称号が付いている。

「す、すみません、退いて……退いてください! あの、カナタさんが戻ってきてるんで、会いに行かないと……!」

ポメラが人混みに押され、あたふたとしている様子が見えた。

「竜神ポメラ……?」

俺が口にすると、ヴェランタが頷いた。

「……ゾロフィリアが始祖竜の姿を借りてポメラと共に大活躍していたのだが、それが色々と誤解された形で伝わったようでな」

「……ああ、はい、なるほど。似たようなことがこれまで何度かあったため、何となく理解しましたよ」

これまでもポメラは聖女だの聖拳だの酒聖だのと持ち上げられていたが、ついには神になってしまったらしい。

「カナタが戻ってきたということは、例の悪魔退治とやらは片付いたようであるな」

俺とヴェランタが話していると、背後よりロズモンドが現れた。

「ロズモンドさんも参加してくれていたんですね」

「言ったであろう? あそこまで関わった以上、最後まで見届けさせてもらうとな。我とてA級冒険者の一人よ」

そのとき、サッとラムエルが飛んできて、ロズモンドの横に並んだ。

「へぇ、また生き残ったのかい。これだけ君を仕損じるなんて、どうやら上位存在も存外大したことはないみたいじゃないかい、キヒヒヒ」

ラムエルが笑い声を上げた後、目を細めて遠くのポメラを睨み、深く溜め息を吐いた。

「……しかし、あんなチンチクリン女が竜の神として祀り上げられるなんて、ボクとして思うところがあるよ」

ラムエルもこちらに来ていたらしい。

しかし、俺の顔を見かけたからといって、わざわざ声を掛けに来るとは思わなかった。

「もしかして、ロズモンドさんがいたからこっちに……?」

「あん?」

ラムエルが不快そうに俺を睨み付ける。

「い、いえ、なんでも……」

……この竜人、どれだけロズモンドのことが好きなんだ。

「カナタに、ロズモンドも来ていたの」

こちらへ一人の少女が向かって来た。軽装のローブに、両手には手の甲を守る簡素な籠手が付けられている。

同じ高さで切り揃えられた前髪と、少し冷たい目つきが特徴的であった。

「コトネさん……」

俺と同じ異世界転移者、《 軍神の手(アレスハンド) 》のコトネ・タカナシであった。彼女と会ったのは、魔法都市マナラークが最後であった。

「そうか、他の異世界転移者も呼んでいたのか……」

よく異世界転移者に与えられる《 神の祝福(ギフトスキル) 》は、この世界にとってバランスブレイカーとなり得ると聞いたことがあった。

コトネ自体のレベルがさほど高くなくとも、彼女は《 軍神の手(アレスハンド) 》によってあらゆる武器を完璧に使いこなすことができる。

ヴェランタが武器を与えれば、《 地獄の穴(コキュートス) 》の魔物達にも対応できる大きな戦力となったことだろう。

「そっちの仮面の男から聞いたけれど……随分ときな臭いことになっているみたいね。あなたがそんなとんでもないことに巻き込まれていたなんて知らなかったわ」

コトネがそう口にした。

「……はい。どうやら俺の我が儘で、あの魔物の群れが湧き出てくることになってしまっていたようです」

「いえ、あの神様崩れ達が好き勝手にやっていた以上、いずれ起きていたことでしょう。あまり自分を責めない方がいいわ」

「ありがとうございます……」

どうやらヴェランタは異世界転移者には事情を明かしているらしい。

元々、異世界転移者達は上位存在と皆直接接触している。おまけに一人一人が大きなポテンシャルを秘めたスキルを有しているのだ。

下手に隠すよりも、全て話して協力してもらおうということだろうか。

「流石に集まった全員に上位存在のことを明かしたら、この世界が大混乱になってしまうからな……」

俺は一人納得してそう零した。

「いや……我は公表するつもりだ」

俺の独り言に、ヴェランタがそう返してきた。

「えっ……?」

咄嗟に何のことかわからなかった。

「だから、公表するつもりであると言ったのだ。このロークロアの全人類に、この世界が上位存在のくだらぬエンターテイメントであったことを暴露する」

とんでもない爆弾発言であった。

俺は言葉を失った。

そんなことをすれば、完全にこの世界は上位存在達のエンターテイメントとしての役割を失うことになるだろう。

どんな理不尽な災いが起きたとしても、それが全部連中の仕業であると誰もが知っているのだから。

暴露の前後でこの世界で起きる事件全ての意味と認識が大きく変わってしまう。

「まずは手始めに、ここに集めた冒険者達からだ。そして使えそうな人材を集めて鍛え上げ、高レベルの戦力を揃える。これから先、上位存在共がどう足掻いてもこの世界へ干渉できんようにな」

「そ、それは少し、危険なのでは……? そこまで盤石にしてしまったら、奴らが何をするか……」

「何を日和っているのだ。我はそなたらにつくと決めた時点で、こうするしかないと考えていた。既に賽は投げられたのだ。徹底してこの世界から、上位存在の干渉を根絶するしかない。世界の布石の大半は取り除き、残った分も管理下に置いている。それでも連中が戦力を送り込んでくるというのだから、こちらは何を送り込んできても即座に跳ね除けられるように、無敵の軍隊を作り上げるまでだ」

「な……!」

「カナタ、この期に及んでこれが、自分の個人的な戦いだとは勘違いしてはいまいな? このロークロアを、上位存在共から解放する。これはロークロア全人類による、上位存在共への反逆の戦いだ」

随分と話が大きくなってきた……。

いや、これは元々、そうした話だったのかもしれない。

上位存在の意図しない俺の存在は、連中にとってロークロアの価値を貶め続けるものなのだ。最終的にはこの世界を懸けて戦う他になかったのだ。

「我は見たいのだ。上位存在共の悪意によって支配されない……箱庭ではなくなった、本物のロークロアを。夢を見せたのはそなたらである、カナタ、ルナエール。ここまで来て、覚悟ができていないなどと宣ってはくれるなよ?」

「ええ、勿論です。ここまで来たんです。上位存在が何を仕掛けてくるのかなんて想像も付きませんが、世界の布石も回収して、ルニマンもルシファーも跳ね除けて見せたんです。やれるところまでやってやりますよ」

俺の返答に、ヴェランタが仮面の奥で笑った気がした。