軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第三十四話 師弟コンビネーション

「ハハハハハハ! 俺様は空中戦が得意なんだよ! ぶっ死にやがれ!」

ルシファーが俺とウルゾットル目掛けて鉤爪の一撃を放つ。

「ぐっ!」

俺は剣で辛うじて弾く。

ウルゾットルが大きく揺れ、姿勢が乱れる。

俺は剣を持つのとは逆の手で、ウルゾットルの背中の毛に懸命にしがみついた。

今振り落とされたら、《 地獄の穴(コキュートス) 》の闇へと落ちることになる。

ウルゾットルはルシファーから一度距離を取ろうと動くが、ルシファーは執拗に俺とウルゾットルを追い込むように距離を詰めてくる。

「どうしたどうした? これはどうだ? これはどうだァ!」

左からルシファーの爪撃が放たれる。

俺は慌てて剣を構えて弾くが、その直後に右からの爪撃が飛来する。

懸命に弾いている間に、ついに俺は姿勢を完全に維持できなくなった。

防いだつもりだった爪撃が、俺の胸部を深く裂く。

同時にウルゾットルから叩き落とされることになった。

「がはっ!」

意識が眩む……。

今の連撃、殺そうと思えば俺を仕留めきれたはずだ。

完全に遊ばれている。

「カナタッ!」

ルナエールが悲痛な声を上げる。

俺はその声のお陰で、意識を手繰り寄せることができた。

「アオオオン!」

声の方へと手を伸ばす。

ウルゾットルの背中へ触れることができた。

どうやらウルゾットルが、俺のすぐ傍へと回り込んでくれたらしい。

俺は強引に自身をウルゾットルの背へと引っ張り上げる。

「ハッ、まあまあやるじゃねぇの。なかなかいねぇぜ、テメェらくらいの強さの奴はよ。だがな、この俺様こそが最強なんだよ! テメェらは所詮、どこまでいってもただの舞台人形だと教えてやらァ!」

ルシファーが俺目掛けて追撃に出てくる。

まだ充分に体勢も立て直せていないまま、ルシファーの力任せに放つ鉤爪を剣で受けることになった。

反撃に出る糸口が掴めない……!

重く、速く、そして陰湿な連撃だった。

こちらの体勢を崩し、弄ぶことを目的としている。

おまけに俺をルナエールから遠ざけるように弾き飛ばしているため、彼女が援護に入り切れないでいた。

二対一の図になることを上手く避けている。

「ハハハハハ! 恋仲の奴らを相手取れるなんて、俺様は付いてるぜ! よぅく聞けよ、ルナエールゥ! この男を嬲り殺しにしてから、復讐心に滾るテメェをたぁっぷり弄んでやる」

ルシファーが赤紫の舌を伸ばし、下卑た笑い声を上げる。

その瞬間、ルナエールのこめかみに青筋が立った。

オッドアイの双眸がルシファーを睨み付ける。

これまで追い付けないでいたルナエールの速度が跳ね上がった。

彼女の蹴りが、まともにルシファーの腹部に突き刺さった。

「うぶっ!」

ルシファーが後方へと飛ぶ。

「ハハハハ! なんだよ、本気出せばまあまあ速いじゃねぇかよ! わかりやすい女だ、挑発に乗ってぶちぎれやがっ……」

「《 超重力爆弾(グラビバーン) 》」

ルシファーが体勢を立て直す前に、ルナエールが追撃の魔法を放った。

黒い光が拡散したかと思えば、ルシファーを巻き込んで一気に暴縮していく。

咄嗟にルシファーはその場から離れようとするが、引力に巻き込まれて逃げ切れない。

「チッ、面倒臭い魔法を! この……野郎がァ!」

ルシファーが力技で黒い光から脱出する。

だが、完全には避けきれていなかった。

彼の左腕が大きく拉げて、引き千切れた。

「がああああっ!」

ルシファーが悲鳴を上げる。

「……カナタ、胸の傷、大丈夫でしたか?」

ルナエールが俺の許へと飛んでくる。

魔法陣が展開され、俺の傷口があっという間に塞がっていく。

これはルナエールの魔法《 治癒的逆行(レトグレーデ) 》である。

時の流れを逆行され、完全に怪我や欠損を再生する。

何となく懐かしくて、俺はくすりと笑った。

「カナタ……?」

「いえ、すみません。共闘するのは、《 地獄の穴(コキュートス) 》以来だと思って。こんな状況ですけれど、なんだか懐かしくて……嬉しかったんです」

ルナエールの《 治癒的逆行(レトグレーデ) 》も久々に受けたものだ。

「足を引っ張ってばかりはいられませんね。何せ以前と違い、既に卒業を認められた身ですから。頼りないスタートにはなってしまいましたが、肩を並べさせてください。格上の相手は久々ですが、初めてではありませんからね」

ルナエールは俺の言葉にきょとんとした表情を浮かべたが、すぐにくすりと笑った。

「ええ、お願いします。私一人では少し手に余る相手のようですから。それにカナタは、私の認めた弟子ですからね。頼りにしていますよ」

「いい気になるなよ……この程度の負傷、俺様にとっちゃなんてことはねェ」

ルシファーは左の肘を、右腕で強く握り締める。

左腕が大きく痙攣したかと思えば、引き千切れたばかりの肘から先が伸びて、あっという間に再生を果たした。

「アンデッドになろうが、所詮はニンゲン擬き……! 俺様は、テメェらなんざよりも遥かに頑丈なんだよ! 腕の一本や二本、なんてことはねェ! ちょっとばかし油断したが、お遊びは止めだ。ここからは本気で潰してやる!」

ルシファーが向かって来る。

俺はルナエールと一瞬目配せした後、左右に飛んでルシファーを挟み撃ちにした。

ルシファーは左右の俺達へと交互に目をやり、眉間に皺を寄せる。

「小賢しい……!」

俺は左側より、ルシファーの振るう鉤爪目掛けて刃を放った。

片手とはいえど、俺のレベルでは捌くだけでも精一杯だ。

だが、俺が片手だけでも押さえておけば、ルナエールならばきっと奴に決定打を与えてくれる。

ルナエールはルシファー相手に肉弾戦を仕掛けていた。

自身より遥かに大きな巨体を誇るルシファーを相手に常に死角へ潜り込むように動き、奴の腰や背へと、鋭い足技を放っていく。

俺に気を取られているルシファーは、ルナエールの動きに対応しきれずにいた。

「チィッ! テメェら、即席の連携なんざがいつまでも上手くいくと思うなよ!」

ルシファーがそう叫び、両手の鉤爪を激しく振るった。

そのとき、俺は左から右へ抜けるように鉤爪を躱し、ルナエールは俺の動きとは反対に、右から左へ抜けるように鉤爪を躱した。

大きく空振りしたルシファーの両腕が無防備に広げられる。

「あァ……?」

刹那、ルシファーは俺とルナエールを見失っていた。

その一瞬を狙い、俺はルシファーの腹部を斬りつけ、ルナエールは同時に奴の頭部へ蹴りを叩き込んでいた。

「うぶっ……!? やってくれたな、クソ共が……! 何故……レベルで勝っているはずの俺様が、こんな塵芥共相手に……!」

今のは深かったようだ。

さすがに堪えたらしく、ルシファーは頭を押さえながら、逃げるように大きく退く。

悪いが、即席の連携ではない。

俺がルシファーに気圧されて本領を発揮できなくなっていたが、よく考えれば、ルナエールと一緒に格上の悪魔へ挑んだことなんて、一度や二度ではなかった。何度も《歪界の呪鏡》でやってきたことだ。

戦いのペースは完全にこちらが握っていた。

俺は魔法陣を紡ぎ、ルシファー目掛けて放った。

「炎魔法第二十階位《 赤き竜(アポカリプス) 》!」

赤き竜が宙を駆けて、ルシファーを喰らおうとする。

ルナエールは時空魔法を用いて転移し、さっと俺の横へと退いて回避した。

「……杖に頼るのは癪だが仕方ねぇ。ちょっとばかり面倒な雑魚だったらしい」

ルシファーが杖を掲げる。

彼の目前に魔法陣が展開されたかと思えば、《 赤き竜(アポカリプス) 》の炎の竜が一瞬にして消え失せた。

「夢を見るのはこれまでだ。小細工だの、連携だのは、この先一切通用しねェ。圧倒的な地力の差で磨り潰してやるよ」

……これは、サタンも用いていた杖の力だ。

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【黙示録の黒杖】《価値:神話級》

魔法力:+3333

《 地獄の穴(コキュートス) 》の王である証であり、この地獄を統べるために必要な力を持った杖。地獄に幽閉された魔物達も、その威容を前に服従する。

二十階位を超える《神位・炎魔法》の発動を補佐すると同時に、本人の魔力を消耗して発動する対魔法障壁を展開することができる。また、持つ者に合わせてその大きさを変える。

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対魔法障壁の展開……ルシファーがサタンより強奪したらしい、《 地獄の穴(コキュートス) 》の支配者の証、《黙示録の黒杖》の力である。

サタンがこの障壁を用いていたときには、サタン自身の魔力が足りずに俺の魔法を打ち消しきれていなかったためいまいち頼りない印象のある能力だったのだが、今回は本体の地力があまりに違い過ぎる。

レベルでいえば、俺やルナエールよりもルシファーの方が上なのだ。

魔力量やその出力でぶつかれば、必ずこちらが力負けするだろう。

問答無用で魔法を打ち消す障壁の展開は、今の状況では非常に厄介であった。

「この俺様が、たかだかニンゲン相手に黒杖の力を使わさせられるとはな。本当にむかっ腹が立って仕方ねぇぜ」

このレベルで格下の魔法の完全無効化なんて、理不尽にも程がある。

人数差を活かして手数で圧倒するしかないが、今後は魔法を使えない上に、ルシファーからは一方的に凶悪な魔法を撃ち込んでくるはずだ。

そこまで考えて、俺は自然と笑みが漏れてきた。

「カナタ……?」

ルナエールが不思議そうに俺を見る。

「何がおかしい、転移者のガキ!」

ルシファーが俺を睨み付けて叫ぶ。

「いや……よく考えたら、ルナエールさんと潜った《歪界の呪鏡》の悪魔に、対魔法能力持ちくらいならいたなって思っただけだ」

もっとも、さすがに《歪界の呪鏡》の悪魔よりレベルは高いし、知性もあるようだが、それでもルナエールが傍にいる今、今更こんな奴に負ける気はしなかった。

「俺様は上位存在の魔力によって、ロークロアを管理するべく直接生み出された最古の大悪魔……テメェら下等生物とは一線を画す存在なんだよ! 上位存在の不手際で時空の狭間からたまたま生まれた、薄汚いバグ共と一緒にするんじゃねェ!」