軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第二十六話 杖の脅威

ウルゾットルが俺を乗せて宮殿へと駆ける。

こちらへ逃げてくる人達にぶつかりそうになったところで、ウルゾットルは地面を蹴って飛び上がり、背の低い建物から高い建物の屋根へと移る。

あっという間に宮殿の崩れた上階に立つ、ルニマンの許へと辿り着いた。

「おや、おやおや、あなたは……」

後方から接近した俺へと、ルニマンが振り返った。

俺は剣を向け、準備していた魔法をルニマンへと叩きつける。

「炎魔法第二十階位《 赤き竜(アポカリプス) 》!」

刃の先から現れた赤い竜が、宮殿上部を破壊する。

その瞬間、ルニマンの身体を中心に魔法陣が展開され、彼の姿が消えた。

別の建物の屋根へとルニマンは移動していた。

燃え上がる宮殿上部へとウルゾットルが着地する。

「おお、おお、恐ろしい、恐ろしい……。突然第二十階位魔法を放ってくるとは、想定よりもちと厄介ですな。上位存在の管理がここまでいい杜撰だったのは、わたくしめの計算違いにございます」

赤ローブの奥で、大きく裂けた口端が吊り上がったのが見えた。

「やっぱりお前、ナイアロトプの刺客だな」

「半分正解で、半分間違いといったところでしょうかな」

「半分……?」

俺が問い掛けると、ルニマンは大杖へと抱き着き、長い舌でその柄を舐め取った。

「わたくしめが、そう仕向けたのです。このロークロアの幕を、我が師の御霊を用いて下ろすために! 上位存在ではなく、このわたくしめが!」

「何を言っているんだ……?」

「そもそもこの《聖人の杖》は、わたくしめが造ったものなのです! 上位存在に罪人として縛られれば、いずれロークロアに真の危機が訪れたときに再臨することができると、わたくしめはそう確信していたのです! そうすれば幾千年後……信仰によって神に等しき力を得た我が師の力を用いて、この滑稽な人形劇の全てを終わらせることができる!」

ルニマンは目を見開き、早口でそう捲し立てる。

目を充血させ、唾を飛ばす。

「そのとき初めて、我が師は上位存在の人形などではなく、真なる救世主であったことになるのです! 予言は、我らの信仰は、真実となる! 子をあやす飴でしかなかった偽りの救いが、本物になるのです! ああ、見ていてくだされ、我が師よ! わたくしめは、ついに成し遂げるのです!」

「……よくわかりませんが、追い詰められた上位存在が自分を蘇生するのを利用して、ヨーナスの力で世界を滅ぼすと? それが何故救いに?」

俺の言葉に、ルニマンは興奮したように息を荒げ、身体を背後へと大きく反らした。

「わたくしめが、そう信じているからです! それ以外に何が必要だと? 我が師との長き旅路は、修行は、わたくしめの内側にある怒りを鎮めることはできなかった! わたくしめは救われぬ魂であったのか? 否、否、わたくしめの破壊衝動は、ヨーナス様を上位存在の手の届かぬ、真なる神へと押し上げるためにあったものなのです! 上位存在という我らの信仰を否定する壁を前に、わたくしめは悟りを得た! 全てはこのためにあったのだと! だからこそわたくしめは、我が師を殺めねばならなかったのです」

「真っ当じゃない……」

これまでロークロアを旅してきた中で理解の及ばない人間も数見てきたものだが、ここまで振り切れている話の通じない相手は初めて見た。

そもそもヨーナス、ヨーナスと口にしているが、話を聞いている限り、彼の行動はヨーナスの意思でもなんでもないのだ。

ただヨーナスを使って世界を乱したいと、ルニマンがそう考えているだけである。

「わたくしめがおかしいと? 自身の在り方とその行く末について思考を巡らせぬ者は、知恵なき獣か、それに相当するほど程度の低い者くらいでしょう。全ての迷い子は、自身の性質と生涯に意味を見つけようと哲学するもの……そうあるべきなのです! あなたは、違うのですかな? 自身とその生涯に対して、何ら価値を見出そうとはしないのですか? そうした無価値な生き様こそ、わたくしめの目には酷く憐れに映るのです!」

ルニマンが目を細めて、俺を睨み付ける。

「もっと然るべき舞台と星辰にて師との再会を果たしたかったのですが……どうやらそれを選んでいる猶予はなさそうですな」

ルニマンの周囲に魔法陣が展開される。

「死霊魔法第十七階位《 造神骸現(インカネーション) 》!」」

杖から漏れ出した紫の光が、ルニマンの周囲を覆い始めた。

すぐにその光は形を作り、髪の長い骸骨の上体へと変化した。

ルニマンの背後霊のように、彼の後ろに浮遊している。

紫の光を纏う骸骨からは、凄まじい圧を感じる。

アレが恐らくは、《聖人の杖》に宿っていたヨーナスそのものなのだろう。

「おお、師よ! 我が師よ! 二千年間……わたくしめは、ただあなたに会いたいと、そればかり考えておりました! こうして再会できた奇跡に、言葉もありませぬ!」

ルニマンは大口を開けてそう叫ぶ。

彼の瞳より感涙が溢れ出していた。

かと思えば、すぐにルニマンの表情が、元の虚ろな無表情へと変わった。

「さて……あなたなどどうでもよいのですが、上位存在の意向も無視はできませんからねぇ。すぐに葬って差し上げますよ」