軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第三十五話 グリードの館と死神

グリードの館へ突入した俺は、周囲を見回して困惑していた。

荒れ果てた広間にはゴーレムの残骸が散らばっている。

そして重傷を負って倒れる和装の女、ヨザクラ。

彼女を介抱するゴーグル男のダミア。

明らかに致命傷を負った状態で床に座り込んでいる、桃竜郷で出会った異世界転移者のミツル。

全身真っ赤の血塗れで、突然スライディング土下座をかましてきたロヴィス。

全く状況がわからなかった。

「えっと……あの、どういう状況ですか?」

ロヴィスは俺の言葉に、びくりと身体を震わせる。

何か思案しているかのように、或いは言い訳でも練っているかのように、一向に顔を隠したまま頭を上げない。

「ロヴィスさん?」

「い、いえ、大したことでは……」

「どこをどう見ても大したことにしか見えないのですが」

少なくとも瀕死の重傷者が三人いるのだ。

「グ、グリードが都市ポロロックの騒ぎの元凶だと聞いて、奴を討伐に来たのですよ。しかし、奴のゴーレムが思いの外に手強く、この有様というわけで」

「なるほど……」

一応、筋は通っているように聞こえる。

だが、何かがおかしい。

俺は広間の中を見回した。

「グリードのゴーレムって血を出すんですね」

俺の言葉に、ロヴィスは勢いよく振り返り、自身のぶん投げた大鎌へと目をやった。

ロヴィスの顔が真っ蒼になっている。

「これは、色々、色々ありまして!」

「酷く怪我をされていますが、大丈夫ですか?」

「ええ、ええ、身体の頑丈さには自信がありまして。カナタ様にご心配していただけるとは……」

「グリードのゴーレムには刃が付いてるんですか?」

俺の言葉に、ロヴィスは閉口した。

「……そう言ったら信じますか?」

ロヴィスは少し間をおいて、そう口にする。

「いえ、ちょっと厳しいかなと……。あの、とにかく今は急いでるんで、状況を教えてもらえませんか?」

ロヴィスの様子も気になるが、フィリアの安否も不明なままなのだ。

他の人から聞いた方がいいかと思ったが、ミツルは顔に皺を寄せて、ぽかんとした表情でロヴィスを見ている。

彼もこの状況をあまり把握できていないのではないだろうか。

とにかくロヴィスがゴーレムと交戦して、ミツルと顔を合わせて、その後なんやかんやでほぼ全員が重傷を負う事態になったことは間違いがないのだが。

「そ、そうですね……実はその、ゴーレムを倒して先に進もうとしたところで……そちらの御方が、俺達をグリードの一味だと勘違いして攻撃を行ってきまして」

あいつが、あいつが、と言わんばかりにロヴィスは、ミツルを指差した。

「ええ、ええ、俺達も潔白の身ではありませんから、そのくらいのことで目くじらは立てませんとも。しかし、彼はグリードなんかよりも、まずはお前を叩きのめしたいなどと宣い始めまして……!」

「……この状況でそんなことを?」

「はい! 俺も驚きましたよ。一刻も早くグリードを鎮圧しなければ、どれだけ死者が出るかもわからない状況だというのに!」

「いくらミツルさんとはいえ、そこまで身勝手な行動を取るとは……」

「ここに来たのならば、カナタ様は知っておられるはずです。外では国のために命懸けで戦う王国騎士団の方達が、ゴーレム相手に苦戦を強いられていたことを! あいつはそれを素通りしてここまで来たのですよ! 奴はただの、身勝手な戦闘狂です」

「ということは、あなたも素通りしたのでは……?」

「心を痛めましたが、頭を速攻で叩く方が大事だと考えました。あのゴーレム……恐らく、まだまだ強力な手駒をグリードは抱えています。王国騎士団相手に丁度いい、という戦力しか配備されていなかっただけです」

言っていることは間違っていないはずなのに、思考の方針が二転、三転している。

「まぁ、そんなわけで、軽く大人しくさせようと考えていたわけですよ。向こうは命を狙っているようでしたが……俺は適当に退けて、グリードの許へ向かおうと考えていました。な! お前達、俺は確かにそう言っていたよな!」

ロヴィスは懇願するように、ヨザクラとダミアへと目を向ける。

「……テメェらの頭目、二重人格かなんかなのか? ちょっとおかしいんじゃねえの?」

「お、俺からは何とも……」

ミツルとダミアが、何か言葉を交わしていた。

ダミアに抱きかかえられているヨザクラは、死ぬほど不機嫌そうな顔をして沈黙を守っている。

本当に全く細かい状況がわからないが、別にわからなくてもいいんじゃなかろうかという気さえしてきた。

「ダミア! 俺は適当にあしらって戦いを終わらせようと、そう言っていたよな!」

「い、言ってはいましたけれど、でも、最終的には……」

「言っていたよな!」

「言っていました……」

ダミアが俯いてそう口にする。

「死んだと思っていましたが、生きていたんですね。風の噂で、マナラークの《赤き権杖》騒動の際に、ロヴィス・ロードグレイは《血の盃》に殺された……と聞いていたもので」

「いえ、それは……」

ロヴィスはそう聞いて、何かを思いついたかのように顔色を輝かせた。

「ええ、はい、実はあの騒動の中で、女神様と出会いまして……! 心を入れ替え……組織を解散し、贖罪の旅に出たのです。なので、《黒の死神》は死んだといっても間違いではないでしょう」

「女神様……?」

この人……何か、胡散臭いものに傾倒していないだろうか。

「紺碧と深紅の瞳を有する、白き女神様ですよ。俺は彼女の導きで、善行を積んで生きると決めたのです」

「ル、ルナエールさん!?」

「おお、かの御方はルナエール様と仰るのですね」

「知り合い……なんですね」

「ええ、ええ、はい!」

ロヴィスはこくこくと頷く。

ルナエールと会っていたというのならば、そのことについて詳しく聞いておきたいのだが、しかし、今はそんな悠長なことを話している時間はなさそうだ。

「事情はよくわかりませんが……まぁ、なんとなく、概ねはわかりました。事態は急ぎそうですし……俺はグリードの許へ向かいますね。知り合いがグリードに誘拐されているんです」

「そうでしたか! そういうことでしたら、お急ぎになった方がいい! 微力ながら手助けをさせていただければと思いましたが……俺如きでは、カナタ様の足を引っ張ることしかできないでしょう。ささ、俺達に構わず!」

「え、ええ……」

俺はぺこぺこと頭を下げるロヴィスを視界から外し、遠くで座り込んだまま眉を顰めているミツルへと目を向けた。

「あの……ロヴィスさんは動けるみたいですし、ミツルさんを安全なところまで連れて行ってあげてください。何かあったみたいですが……まぁ、ミツルさんは悪人ではありませんので……」

「……さっきから名前を呼ばれていましたが、あの、お知り合いで?」

「まぁ、一応……はい」

ロヴィスは顔を真っ蒼にして、頬を大きく引き攣らせた。

「ええ、ええ、勿論です! カナタ様のご友人とあれば、このロヴィスが責任を持って、必ず安全なところまで送り届けましょう! ほら、行くぞ、ダミア、ヨザクラ! カナタ様のご友人のミツルさんをお運びしろ!」

「……は、はい」

ダミアが躊躇いがちに返事をした。