軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第四十四話 尋問

《空界の支配者》騒動に決着がついた翌日、リドラより正式に竜王に勝利した褒美のアイテムを受け取ることになった。

リドラと共に再び竜王城の地下へと訪れる。

そして宝物庫へ向かう前に、宝物庫と同じく地下にある別の場所へと寄ることになった。

ラムエルの牢獄である。

ラムエルは鎖に拘束されて両腕を広げた状態で固定され、術式の書かれた包帯を身体中に巻き付けられていた。

これが高レベルの竜人の身体能力を奪い、拘束しておくための術なのだそうだ。

竜王城地下でラムエルが拘束されていることには二つの意味がある。

まず一つ目に、ラムエルを逃さないために、彼女の拘束は竜穴の魔力を利用した特別なものとなっているのだ。

また、万が一にも他の竜人がラムエルに接触して逃亡の手助けをしないように、竜王城の地下深くが選ばれたのである。

ここは余程の理由がない限りは、聖竜の称号持ちであっても侵入の許されない聖域であるらしい。

現在の体制を守っている限り、竜人が竜王の目を盗んでラムエルに接触することは不可能だといっていい。

「……おや、竜王にカナタか? 随分と早い面会だねぇ、ボクから《神の見えざる手》のことでも聞き出したかったのかな? でも、残念だけど、前に話した以上は口にするつもりはない。拷問でも脅迫でもしてみるかい?」

ラムエルが不敵に笑った。

言葉から察するに本気らしい。

ラムエルは元々、竜穴に落とされる覚悟を持っていた。

脅迫は彼女に対して武器にならない。

話す気のない情報を引き出すのは諦めた方がいいだろう。

「俺が聞きたいのは、ロズモンドさんのことだ。あの人は無事なんだろうな?」

「……ロズモンドね、はいはい、あの弱っちい冒険者なら、都市ポロロックで適当に振り切ってきたよ。移動してなきゃあの都市にいるだろうね」

ラムエルはあっさりと俺へそう返した。

ロズモンドの安否を隠したのはただの挑発目的だったらしい。

「別に無害な奴だったし……まあ、嫌いってわけじゃなかったからね。ボクだって殺人鬼じゃないんだ。わざわざ出会った奴、出会った奴、皆殺していくわけがないだろ?」

俺は安堵の息を漏らした。

鵜呑みにできる情報源ではないが、ラムエルの様子を見るにここで嘘を吐いているとも思えない。

ポメラが恐々とラムエルを観察していたのだが、それに気づいたラムエルが目を細めて睨み返した。

「なんだい? ボクの無様な様がそんなに面白いか、ハーフエルフ?」

「い、いえ……ただ、まさかあの世間知らずな子供っぽい振る舞いが、ポメラ達を油断させるための演技だったとは思いもしていなかったもので……」

ポメラが必死に弁明する。

確かに俺もそこの差には驚いていた。

尊大なラムエルだが、竜人の子供の演技には徹底したものがあった。

あのときの『世界やニンゲンさんを守っている竜人がお金を払うんですか?』と言っていたラムエルの、一切の含みを感じさせない困惑した表情は、今でも記憶に鮮明に残っていた。

あのときのラムエルの桁外れに常識知らずな様が逆に真実味があると思ってしまったのだが、今思えばあれも罠だったのだろう。

ラムエルがニンゲン嫌いだとしても、千年前後生きてきた彼女があそこまで世間知らずであるはずがない。

「は……? 世間知らず? 演技? なんだ、このボクを馬鹿にしているのか?」

ポメラの表情が凍りついた。

恐らく、俺も似たような表情をしていたことだろう。

ま、まさか、あのときのラムエルは、口調以外はだいたい素だったのか……?

確かに桃竜郷においても、あそこまでナチュラルに、見下し意識の強い竜人は別にいなかった。

ライガンやズールも、ラムエルと比べればまだマシなくらいだ。

今更ではあるが、レベルが低く、まだ幼いはずのラムエルが他の竜人と比較しても明らかにぶっ飛んでいたことは、ラムエルの言葉を疑うきっかけになったかもしれない。

「……この話はもうやめましょうか」

俺がそう言うと、ラムエルの眉間に皺が寄った。

「おい、なんだその含みのある言い方は」

「リドラさん、そろそろ宝物庫へ向かわせてもらってもいいですか?」

「うむ、そうだな。口を割らせるのは余に任せてくれ。カナタは、ラムエルの所属している《神の見えざる手》と対立しているのだったな? 今後、もしも奴らについて何か重要な情報を引き出すことができれば、また使者でも送って連絡させてもらおう」

リドラが俺の言葉に頷き、ラムエルへと背を向けて歩き出した。

俺達もリドラの後に続く。

「お、おい、もう行くのか! せっかくこのボクが、ずっと黙っていてもよかったというのに、わざわざ面会などに応じてやったのだぞ! このボクが!」

背後からラムエルが声を荒げる。

俺とポメラは立ち止まってラムエルを振り返った。

「あそこが余程暇なのだろう。奴は昨日もああいうことを口にしていた」

リドラが素っ気なく言って再び歩き始めた。

俺もまたリドラに続いて歩き始めたが、フィリアに裾を掴まれた。

「ね、ねえ、カナタ……あの子、寂しそう」

「キヒヒヒヒ! 前情報もなく、《神の見えざる手》とぶつかろうとするなんてね! やはりニンゲンは愚かしい。ボクとの戦いは、《世界の記録者ソピア》を通じて、じきに連中に知れることになるだろう。今後も今回のようなただの力押しでどうにかなるとは思わないことだ。今回は、ただボクが情報不足で失態を犯したというだけさ。《神の見えざる手》は、このロークロアの絶対の法……キミ達なんかが思っているよりも、遥かに深い闇だ。キヒヒ……せいぜい溺れ死なないよう、必死に足掻くといい」

ラムエルが早口で捲し立てる。

ポメラが憐れむような目で「必死すぎる……」と小さく零した。

「……まだ日が浅いからなんとも言えんが、あれで口が硬いのだ。厄介なことに。喋りそうで全く喋らない、時間ばかりが浪費させられる。恐らく、話していいことにラムエルなりの線引きがあるのだろう」

リドラが溜息を吐いた。

ラムエルは軽いようで、妙に使命や立場への拘りが強い。

古の竜人の性質なのかもしれない。

元々役立たずとして竜柱石にされた上に、本来の使命を裏切る形で力を得てしまったために歪んでしまったのかもしれないが。

「そうだ、取引をしてやろう、カナタ。あのニンゲンの女冒険者……ロズモンドを連れて来い。そうすれば、《第六天魔王ノブナガ》についてなら、知っていることを教えてやってもいい。アイツの切り札は、知らなければ対処のしようがないだろうね。奴は元々、《神の見えざる手》に相応しくない、ただの戦闘狂の人格破綻者だ。これを機に始末してしまえるなら、それも悪くはない……おい、聞いているのか!」

フィリアだけが立ち止まってラムエルの方を向いていたが、ポメラに「行きますよフィリアちゃん」と手を引かれ、躊躇い気味に頷いてまた歩き始めていた。

……なんでロズモンドが妙に好かれているんだ?

ラムエルは根が構ってちゃんなので、世話焼きのロズモンドはあの手のタイプを惹きつけやすいのかもしれない。