軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第三十八話 指輪の暴走

扉を越えた先は、巨大な空洞へと続いていた。

床や壁は、仄かに七色に発光しており美しい。

竜穴の魔力のためなのだろう。

どうやら宝物庫へ行くまでに竜穴を経由する必要があるらしい。

「どうだ? この桃竜郷の中でも最も美しい光景だろう」

リドラの言葉に俺は頷いた。

「ええ。ただ、ここって下手に荒らされると、それだけで不味い場所なんですよね? いいんですか? 人間が来てしまって」

「何を言うか。桃竜郷に招いた時点で同胞の恩人であり、我らにとって大事な賓客だ。そして、余に勝利した貴殿には、この場へ訪れる資格がある。見よ、あの遠くに見えるのが竜穴である」

離れた場所に巨大な裂け目が空いていた。

これが世界の裂け目……竜穴らしい。

穴の奥からは、虹色の輝きが色濃く放たれている。

そしてその周辺には、光の届かない地下であるというのに木が生えていた。

透き通った瑠璃色の幹を持ち、色とりどりの葉を付けている。

「竜穴の魔力から溢れ出た生命力によって生まれたものだ。あの辺りの植物も、根っこで竜穴と繋がっていてな……下手に触れば、竜穴の魔力を乱すことになる。そうなれば、世界のどこかで大きな災いが起こりかねない。仮に貴殿らが何かしようものなら、余は敵わずとしても命を張って止めねばならん」

この世界にとって重要な場所であることは事前に知っていたが、改めて目前にするとその事実を強く認識させられる。

「……なので、本当に止めてもらいたい」

リドラは懇願するような表情を浮かべていた。

切実過ぎる。

「仮に竜穴を狙った外敵が現れれば、余は竜穴の魔力を使ってでも撃退することになるが、それは結局竜穴を乱すことになる。そして、仮にそれを用いても余では貴殿らに敵うビジョンが見えない」

……赤裸々過ぎる。

本当にこんな世界を左右するような場所をリドラに任せていて大丈夫なのだろうか。

地上に出てから会った人の中では桁外れに高いレベルを有しているし、実際に凄い人ではあるはずなのだが、いまいち締まらない。

ふと、リドラのステータスを思い出す。

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『リドラ・ラドン・ドラフィク』

種族:竜人

Lv :875

HP :2764/4900

MP :3857/4725

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……リドラ・ラドン・ドラフィク。

何となく違和感があった。

俺はなぜか、桃竜郷の竜人には姓がないという先入観があったのだ。

しかし、思い返せばライガンにも姓があった。

「……あ」

ふと、ライガンが最初に口にしていたことを思い出した。

『三つの試練の合計点が百点に満たなかった場合、竜人であれば年齢にかかわらず幼竜と見做され、様々な制限が課される。一番わかりやすいのが、桃竜郷の外へ出ることの禁止である。外の者であれば称号なしとなり、桃竜郷内で対等に扱われることはないと思え』

そう、ラムエルには姓がなかったのだ。

恐らくは彼女の試練での点数が低いために、姓を持つことを許されていないのか、剥奪されたのかもしれない。

最初はあまり印象のよくなかった桃竜郷も、今ではいい場所だったと思えるようにはなってきた。

ただ、そうして考えると、やはり実力主義や排他的な考え方がこの桃竜郷に影を落としているようにも感じてしまう。

それが悪い部分もあれば、いい部分もあるのだろう。

特に竜人は、重大な使命を背負って生まれた種族である。

俺みたいな部外者があれこれとケチを付けるべきことではないのかもしれないが、それでも知人が蔑ろにされているのを知れば、あまりいい気分はしない。

「どうした、カナタ?」

「いえ……あの、この桃竜郷の竜人の中に、姓を持つことさえ許されていない子がいますよね」

「……む?」

リドラが顔を顰めた。

「あ、いえ、突然すいません、こんな話をして。ただ……」

「いや……そんな竜人はいないぞ」

リドラはあっさりとそう返してきた。

一瞬、何を言われたのかわからなかった。

もしや同胞と見ていないためにこう言ったのかと思ったが、リドラの顔を見ていれば、とてもそんなふうには思えない。

ラムエルのステータスを覗いたのはほんの数秒だ。

もしや、俺の勘違いだったのだろうか?

いや、そんなはずはない。

あれ以来ずっと、竜人に姓はないのかと勝手に思い込んでいたくらいだったのだ。

「遠い昔のことか……はたまた、他の地を守っている竜人ならば知らないが……竜人は、さほど多い種族ではない。少なくともこの国内においては、ここ以外に竜人の集落などないはずだが」

俺は口を押さえた。

ラムエルは桃竜郷の竜人ではなかったのか?

振り返ってみれば、ラムエルは裏切り者対策で自分の名前を出さないでほしいと言っていたため、彼女が桃竜郷の出身であることを確認することができなかった。

俺も疑いもしていなかった。

ライガンのステータスを見たときに疑いを持つべきだったのだ。

何か、とんでもない思い違いをしていたのかもしれない。

「うぐ、熱っ……!」

リドラが手を押さえてその場に屈み込んだ。

「リ、リドラさん?」

「みょ、妙だ……《竜穴の指輪》が、発熱している! 暴走しているのか? 今まで、こんなことが起きたことはなかったというのに!」

リドラの手許を覗けば、指輪が真っ赤に変色している。

指が焼けて煙が上がっていた。